347話:錬金術科新入生2
懇親会の件は、発案で点数よりも、課題を減らしてもらう方向に交渉した。
その後は、ウェアレルに相談された態でアーシャとして作図。
それを錬金術科全員で集まって、アズとして説明することになった。
その際に、映写機を使わせてもらうことに。
「わー、けっこうくっきり」
前世だと紙の下から光当てて写してたっけ。
こっちの紙はぶあついから、上から当てて鏡で反射、レンズで拡大の上で照射してた。
「あれ、アズくんはこれ知ってたんじゃないの?」
「投光器の案の元だと思っていたが、違ったのか」
説明会にやって来たトリエラ先輩とキリル先輩が声をかけて来る。
「いえ、お見せしたとおり、絵の連続による錯視と、影の投射ですね。それを可能にする機体を考えた結果、似たものになりました」
「そっかー。同じような結果を生み出すために作ったなら、似るのは当たり前だよねぇ」
ステファノ先輩もいるのは、絵に関係しないけど興味はあるってことか。
就活生たちは全員揃ってる。
新入生は先生が強制参加をかけたそうで、興味のない人と聞くだけは真面目な人に別れてる。
一番やる気に溢れるのは、僕にイマム大公からの手紙に対しての文句を言いたいだろうウィーリャだ。
うん、別に錬金術へのやる気じゃない。
「それでは第一皇子殿下にご提供いただいた、錬金術の玩具を使った懇親会での競技の説明をします」
「なんだか色々わからないことをおっしゃるのね。懇親会なのに、競技?」
「まぁまぁ、堅苦しいことしないなら面白そうじゃないか。話を聞こう」
ワンダ先輩は庶子とは言え貴族令嬢としての教育を受けてるから、懇親会と言われてお茶会とか、立食パーティとか考えてたんだろう。
それを止めるエルフのウルフ先輩は、商人出だからこそ興味を持ったようだ。
「では説明を続けます。こちらに表示したのは玩具の完成形。仮称を水槍と言い、名前の由来は火槍になります」
火槍というのは魔法使いの装備。
火を噴く杖の一種とされるけど、構え方と長さから槍と名付けられた武器だ。
僕からすると、柄の長いトーチ、もしくは単純に火炎放射器。
柄の中は筒状になっていて、魔力を込めると経口の広くなった先から火炎放射を行う。
呪文の省略と魔力消費を軽減させる、この世界独自の火属性専用の武器だ。
宮殿で作った水鉄砲を、今回あえて火槍に寄せて作った。
鉄砲って何? なんて聞かれたら困るからね。
「次に内部の図解です」
ようは鉄砲部分を火槍に置き換えただけで、水鉄砲は放射する筒があればいいんだ。
そしてポンプでの水の供給についても、クラスメイトは作ったことあるし、就活生も知ってる。
そこは新入生向けの説明になった。
「この水槍を学年ごとに五基作ってもらいます。その際により良く改良するのもありです。ここで示したのは基本形と思ってください。そしてもう一つ、錬金術で色をつけた水を作ってもらいます」
色のついた水で的を塗る得点性のゲームだ。
自陣の的に塗ってもよく、色が濃ければ相手が自陣の的を塗っても上から塗り替え可能。
食品用とは別の色水のレシピも与えて、新入生にも作ってもらう。
「場所は、水を撒く性質上、校舎から離れた湖の側。野外の実験をするところと言ったら新入生以外はわかるよね」
ルールは簡単。
線を引いて陣地を別け、陣地から出ない状態で的を狙い、撃ち合う。
「砲手を数揃えて撃ちまくるのもいいし、砲手とは別に敵方妨害要員を作ってもいい。魔法も人を直接攻撃する以外なら使用可能。錬金術で作った道具や薬を使うなら、砲手や水槍を狙っても可」
「ふぅん、そうなると魔法での水槍破壊はなしなのかな?」
羽毛竜人のロクン先輩がけっこう過激なことを聞いて来る。
「もちろん駄目です。ただし水槍での破壊は有効。的に色をつけるのも自分たちで作った色に限定します。あと、用意された水槍を全て使用不能にされても、継続不可能で勝敗は決します。なので、作成した五基すべてを出さず、予備として置いて守るのもありです」
「そんなの、錬金術で作った金属をナイフにでもして水槍に水を供給する部分を切れば」
「自陣から出ない、錬金術であることに物言いが入らない素材でできるならどうぞ」
オレスに釘を刺すと、就活生たちからも小言を言われ始める。
散々ネクロン先生の手伝いさせられたから、金属でも錬金術ってなったんだろうけど。
あの魔力で変わるパイオン鋼は、整形しても魔力通すとぐにゃぐにゃになって使えない。
ちょっと錬金炉で火入れしただけ、表面に何か薬塗っただけなんてぬるいことは許されない。
そうしていくらか質疑応答を続ける。
技術提供は第一皇子だけど、ルールは僕が考えたから、細かく不公平にならないよう意見を聞くこともしてみせた。
「事前準備と、ルール内容について、他に異論はありませんね」
出尽くしたルールをおさらいして全員の承諾を得る。
その際、ウェアレルは悪戯を見て見ぬ振りするような目をしてた。
これは僕が仕組んだ優劣に気づいたな。
あと、ネクロン先生は終始悪い笑み浮かべてたから、わかってるんだろう。
ヴラディル先生は、生徒と同じように話聞いてたから気づいてないけど、時間置けば気づくかもしれない。
そして気になるのは、新入生で興味を示してるのが三人だけってところ。
藁のような金髪の少年と、なんとなく空気感が貴族じゃなさそうな銀髪の少年。
同じく貴族にしては伝統的な装飾のない服装の紺色の髪の少女だ。
逆に興味ない感じの新入生五人が王侯貴族感ある。
たぶん興味がある三人は、錬金術でもチャンスを掴みたい平民出身ってところかな。
「終わったのなら、わたくしは失礼させていただきたいのですけれど?」
「この後、見本として図のとおりに作った水槍を試してもらおうと思ってたんだけど。それが君の判断なら止めないよ、ウィーリャ」
愛称呼びにムッとしたけど、虎のご令嬢は顎を逸らす。
「授業でもないお遊びにつき合う必要はありませんわ」
「そう、だったらもうイマム大公に君の口からそのまま言ったことを伝えてくれれば手紙の返事になるから、ロムルーシに帰ったらいいよ」
「はぁ?」
「他にも興味がないっていうなら関わらないでもらって大丈夫だから」
興味なさげだった新入生たちを見ると、竜人二人は興味津々の金髪の少年を見て、僕を止める様子もないエフィを見て動かない。
どうやらこの竜人二人はテスタの回し者だったようだ。
つまり、金髪の少年もそうか。
「ふむ、インテレージ先輩は、そう言うだけの権限があると思っても?」
聞いてくるのは貴族らしい紺色の髪の少年。
消去法的に帝国かヨウィーラン貴族だろう。
「アズでいいよ。ウィーリャが言ったとおり、これは授業じゃない。その上で足並みをそろえる気も、懇親会として親しむ気もないなら、最初からこちらも今後声をかけないから独力で頑張ってくれればいいと言うだけさ」
「そうですか。私のことはトリキスとお呼びください。今後に支障が出かねないようですので参加をさせていただきます」
トリキスは興味はないけど、協調性を投げ捨てることはしないらしい。
貴族として学園に入ったなら、マーケットのような学科で連携しないといけない催しも知ってるだろうし。
ウィーリャが学園に興味がない上で短慮なんだよね。
そう思ってたら、黒髪の少女がウィーリャに小さい声で訴えた。
「ウィーリャ、お勤めを果たせないままでは、国許へ帰ることもできないでしょう。ここは少しでもお国を離れた経験を良きものにすべく、努めるべきではないかしら?」
「ぐ…………セーメーが、そういうなら。し、仕方ないわね。特別よ」
「ありがとう、あなたがいてくれると心強いわ」
「ふ、ふん。しょうがないわね」
どうやらウィーリャにも気を遣う友達はいるらしい。
見ていたらセーメーと呼ばれた黒髪の少女と目が合う。
「セーメーさんは、不思議な響きの名前だね」
「え、えぇ」
なんとなくそう振ると目を伏せてしまうから、たぶん喋らないって言われた新入生。
ただその様子が、言いたい言葉を飲み込んだような、前世の日本人にも見られた所作に見えた。
「もしかして、ニノホトの? ってことは、ヒノヒメ先輩のようにそちらは姓?」
ニノホトの姫だった先輩は、最初の名乗りがこちらとは逆と知らず、姓を名前と間違えられてた。
「姓ではないのですが、斉明を領するため斉明と呼ばれており、三姫の照子と申します」
「へー、斉明がセーメーってなったのか。じゃあ、ショウシと呼んでも? あ、通称でもないからそれは失礼なんだっけ? サイメイって呼んだほうがいいかな」
「い、いえ、とても発音がお上手ですね。どうぞ、照子とお呼びください、アズさま」
ちょっと呼んだだけで嬉しそうに答えるショウシ。
これは、発音違うけど訂正できずにもやもやしてた感じかな?
ただ、その嬉しそうな様子に一人不機嫌になるウィーリャ。
君のお友達取る気はないから、不機嫌に太い尻尾で床叩くのやめてくれないかな。
なんにしても錬金術科に入学するのは、変わり者なのは間違いないようだった。
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