346話:錬金術科新入生1
帝都でもやることが多かったけど、ルキウサリアでも同じだった。
課題に、封印図書館に、伝声装置、こっちでも犯罪者ギルドの残党捜し。
クラスメイトともゲームの約束や、錬金術の考察、精霊談義にも誘われた。
僕はやることの予定を立てつつ、授業終わりにひと息吐く。
「今日の課題は朝一提出。文句は聞かん。枚数は少ないんだ。片手間に済ませろ。あとアズ。お前はまだ残れ」
「あの、ネクロン先生。僕が一番今課題抱えてるんですけど?」
「終わったら順次課題提出で、この調子なら音楽祭前には終われるだろう」
「えぇ、そうなるよう計画して進めてますけど」
「案出せば加点にしてやるから聞け」
及び腰の僕に、ネクロン先生は雑に手招きをしてきた。
授業が終わっても、クラスメイトはネクロン先生の研究室から出ず聞いてる。
ラトラス、ネヴロフ、イルメはこの後約束あるからだけど。
「そう構えるな、マーケットと同じだ。下級生との懇親会考えろ。適当に楽しめればいい。というか、あいつら無駄に軋轢作りそうで面倒だ。制御できるくらいに畳め」
「自分たちにも案を出せと以前言いましたね。ただ制御ならアズではなく、エフィに言うべきではないですか?」
不穏なこと言われたと思ったら、ウー・ヤーがそんなことを言う。
見れば、エフィも眉間が険しくなってた。
「エフィも新入生と何かあった?」
僕が声を潜めるとイルメとラトラスが教えてくれる。
「ウィーリャとは方向性は別だけど、私たちの教室に顔を出す生徒が三名」
「なんかテスタ老関係者らしくて、懐いてるほうかな? けどその分他は無視してるのがいるよ」
よし、テスタには後で言っておこう。
なんて考えてると、ネヴロフが特にひそめない声で聞いて来た。
「あの先輩と口喧嘩する奴のことじゃないのか?」
「口喧嘩って、オレスとジョーみたいに?」
「そうそう、いなくなったのに、今度は同じ国の新入生と口喧嘩してるんだよ」
つまり口喧嘩してる先輩はオレスか。
新入生の内、ウィーリャとヨウィーラン王国出身者が上に噛みついてるわけだ。
他三名が阿る形ってこと?
「問題はまとまりのない新入生で、そちらを纏める案を出したら加点ですか?」
「そうだな。後は、喋らないニノホト貴族と何故かこっちに入って来た医者の家系の帝国貴族、国で皇子暗殺未遂が起きて精神的に弱ってるやつ」
最後のレクサンデル大公国の人かな?
まとまるようにしつつ、精神的にどうしろと?
けっこうな難問じゃない?
「思いついたらでいいぞ。片手間に思いついたら教えろ」
「ちなみに僕から案が出なかったら?」
「放置でこじれるか、悪目立ちするお前たちに噛みついていくかだろうな」
「悪目立ちしてます?」
「ラクス城校にもアクラー校にも喧嘩を売って勝った上で、騒ぎを起こしても平気な顔。上位の王侯貴族に気に入られてる節があり、祭見物の先で皇子に近づいた」
ざっくり言われればそうなるね。
そしてその見方が新入生にもありそうってところか。
「ちなみに帝国貴族の子は、皇子関連で近づいてきそうだったりする?」
「たぶん軽んじてる系統だな。インテレージ家って聞いたら鼻で笑ってたぞ。お前の家も何かあるのか?」
「あれ、インテレージ家って聞いたことない? たくさんいすぎて親戚でも把握できてないし、貴族でも知識層でも散らばってて、インテレージ家って聞いて貴族籍のありなしどっちを思いついたかは本人次第?」
何故か僕のことを話題に出したらしいエフィに答えると、ラトラスとネクロン先生は知ってたらしく無反応。
けど他はそうだったのかと驚いた様子だ。
そんなだったから僕も偽名に利用してる家だしね。
「今の就活生は足並みを揃えてはくれるし、下もそうだとマーケットやりやすいと思うんだけど。確か先月は学生パレードやったはずだよね?」
学園にも学校行事がある。
というか、王侯貴族が通う前提のラクス城校他、上位の学舎は勉強はついでだ。
基礎は家でやっていて当然で、入学すぐに応用から入るし、その上で社交が主目的。
そのために学校行事も社交場にできるものを大々的にやる。
僕は去年に引き続き参加できなかった学生パレードもその一つだ。
軍関係に進む学生が主役になる催しで、競馬や品評会なんかもあるらしい。
関係ない学生でも、準備の手伝いや手配の訓練に駆り出される。
「一年は手伝いが主で、上級生の指示に従って動くはずだったんだ。けど、あのウィーリャは俺らの言うことなんて聞きやしなかったぜ」
げんなりするネヴロフを横目に、ウー・ヤーが別の方向を指差した。
「自分の判断で指示していないことばかりをするから、イルメが怒って作業場所から吹き飛ばして追い出したのには胸がすっとしたな」
「物知らずにしても落ち着きがないのよ。あれで動かないならまだいいわ。けれどやりたがりなのに人の説明は表面を聞くだけで意図は察せないから、命令系統を乱すだけなの」
イルメは未だに怒り心頭らしい。
ラトラスとエフィはさらに新入生の様子を教えてくれた。
「ウィーリャ、一応授業聞きはしてるけど、興味ないらしいんだ。それでも暗記強いらしくて授業内容は全部答えられるって」
「似たようなのが帝国貴族と竜人たちだな。わかりやすくテスタ老に関心があって、他は丸暗記で済ますつもりらしい」
「せめて錬金術に興味がある人いないの?」
思わず聞く僕に、ネクロン先生が眉を上げてみせた。
「聞く限りじゃ、錬金術やる気のある奴だけのお前らのほうが珍しいクラスだぞ」
そう言われてみれば、上級生にもともかく学園入学ってことで入ったって人もいたな。
たぶんテスタの回し者らしいエフィに近づく三人は錬金術を覚える気がある。
他がどうかはわからないけど、あからさまにやる気がない人が二人か。
そこが問題になるかもしれないし、今は話題に上がってない生徒のほうかもしれない。
「先生のほうで指導は?」
「どうしてやる気のない生徒にまでやってやらなきゃいかんのだ」
ネクロン先生はすっぱり言い切る。
つまり暗記でやれると思うならやってみろ、やる気もなく邪魔になったら切ると。
それをされると錬金術科の向上が遅れるし、フェルが入学見据えてることを思えばそんな切り捨てられる前例も作りたくはない。
それに僕としてもやりたいことがあるから、人手はほしい。
(学園の錬金術科は大事だ。封印図書館もまた次の段階に行っていいだろうし、そうなるとやっぱり錬金術師を名乗れるレベルの人手が必要になる)
うん、イルメが隣座ってるから掌が熱い。
セフィラも次やりたいんだろうけど、この近さだと言えないんだね。
考えてるのは、目に見える成果として、封印図書館で育てられてた水耕栽培の再現。
病原菌とかどうなってるかわからないからいきなり広めるのは危ない。
でもセットで魚の養殖つけて循環するよう設計されてるから生かしたいよね。
正直この世界の貴族って肉が一番上品な食べ物扱いで、穀物もあんまり食べないし。
(僕が野菜よく食べてたのって、あまり身分の高くない、肉をふんだんには食べられない食生活の人に囲まれてたからみたいだし。健康面考えると、野菜広めたいんだよね)
そんな考えにも手に反応がある。
前世基準の健康管理に興味をもったようだ。
そこは帰ってからってことにして、錬金術師の発展を考えると、学園の催しは学生の発表の場で使わない手はない。
そしてそのためには、人手という名の学生同士の協力が必要になる。
「…………よし、だったら遊びましょう」
「何をする気だ?」
「帝都に戻る際に第二皇子殿下から、ご兄弟で錬金術で遊ばれた話を聞きました。その時に面白い玩具を作られたとか」
また聞きの態で、前に作った物を流用する。
「色違い先生に頼んで、第一皇子殿下からその玩具の作り方をご教授願います。その上で、各学年で玩具を自作。より効率の良い玩具が作れれば勝てるように工夫をするんです」
「競い合いか。それでアズが負けていたらざまぁないが、勝算は?」
「もちろん勝てますよ」
断言するとネクロン先生が悪い顔で笑う。
クラスメイトたちも興味津々で話し合い出した。
「第一皇子の玩具ってなんだろう?」
「玩具くらいなら技術提供してもらえるかしら?」
ワクワクして尻尾をバサバサするネヴロフに、イルメは雑にモップのような尻尾を掴む。
その様子に呆れるエフィは、ウー・ヤーと頷き合ってた。
「ルール作る側に回れば、それは勝てるな」
「ただ先輩たちは今まで学んだ分、何かしてこないか?」
「アズのことだから後から文句言われないよう考えてると思うよ」
ラトラスの予想は正解だ。
「ルール説明と共に僕が先生の要請の下考えたってことを承認させるつもりだよ。もちろんワンサイドゲームじゃ面白くないから、ゲーム性は確保する」
僕は公平ぶって言ってみせる。
ネクロン先生も企みがあると知りながら、他を頷かせるならと応諾。
僕としては、適性という時点で覆せない場を用意する気満々だった。
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