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343話:二年目新学期3

 結局僕は教室から連れ出され、ネクロン先生と就活生に上がった上級生の授業に参加することになった。

 錬金炉を使うと言うことで、人間で魔法が使えるエフィも連行されてる。


 他のクラスメイトは、学年が上がって午後から入った音楽の授業へ行った。


「僕も音楽は自信ないのに」

「ピアノ弾けると言ってただろ」

「本当に弾けるだけですよ」


 ネクロン先生が無慈悲だけど、それよりエフィが寂しいことを呟く。


「ピアノがあって、触らせてもらえるだけましだろ。俺はヴァイオリンの音を、本当に鳴らせるだけだ。曲なんてまとも弾けない」


 なのにこっちに引っ張られてきてるってこと?

 音楽は本格的にやる学科以外は、最低限の単位あれば平気らしいけど。


(それで言うと、国語の書き方的な科目も軽視されてるんだよね)

(言語による交渉を重視する効率性。書記官がいれば自らの名前のみで用は足り、書く必要性がありません)

(前世だと読み書きはセットだったんだけど。外語も多いし書くより喋るが重視なんだよね)


 そんなこと話してる内に、着いた実験室では先輩たちにより準備がされていた。

 僕たちを見たキリル先輩が寄って来て肩を叩く。


「お前も捕まったか、アズ。あの教師、こっちを燃料としか見てないから気をつけろ」


 世話焼きな忠告が不穏すぎる。

 エフィを見ると、すでに巻き込まれ経験があるらしく、明後日を見てる。


「まずは金属の錬成からだ。炉係はすぐに火を入れろ」


 ネクロン先生が魔力で変形する金属、パイオン鋼を作るところから始める。

 ドワーフの秘匿技術らしいけど、借金のかたに手に入れたとか。

 造り方がどう考えても錬金術だけど、再現性が低い。

 と思ったら、錬金炉を使った途端、成功率がアップしたため、ネクロン先生が齧りついてしまった。


 ただし、錬金炉は人間が使うことを前提にした機材で、四属性の魔力を注ぐことで稼働する。

 そしてネクロン先生はエルフで風属性しか使えない。

 結果、僕、エフィ、キリル先輩ステファノ先輩の四人が炉係にされてしまった。

 今の就活生にはトリエラ先輩とワンダ先輩とオレスという三人の人間がいるけど、魔法使えるのはオレスだけで、オレスは魔力が少なくほぼ起動させて終わるため使えないとか。


「あの、僕も魔力量はオレスと大差ないんですけど?」

「いいか、アズ。ネクロン先生の気を逸らせ。そうでないと延々試行錯誤が続くぞ」

「その間ずっと俺たちは炉を稼働させることになる。コツは授業の切りがいい所まで引き延ばすことだ」


 キリル先輩とエフィにそんなことを言われる。

 すでに二人はやったからだけど、ステファノ先輩は気にしてない。

 聞けば、どうやら魔力量は多いらしく、炉を動かしていればサボってても文句を言われないためスケッチしてるとか。

 もう僕がやるしかない雰囲気だ。


「気を逸らす…………。まぁ、久しぶりだからネタはあるね」


 呟いたら他の先輩たちからも期待の目が向く。


「え? もしかして冬からずっと?」


 揃って頷きが返る。

 どうやら実験関係はずっとこれらしい。

 手詰まり感あるし、もはや研究なら学生としては自分のことやりたいだろうし。


「ネクロン先生。以前僕に戦いについて指導してくださったことがありましたよね」

「うん? あぁ、そう言えば競技大会では荒事に巻き込まれたが、なんとかなったらしいな」


 手を動かしながら応じるけど、僕と話すことで他への指示は止まり、急き立てられるようなことはなくなった。

 面倒そうだけど教師として話を聞く姿勢はあるんだよね。


「レクサンデル大公国では上手く対応できなくて。僕は荒事に向かないのだなと」

「あれだけ行動できて、相手の目的丸潰しにしておいて何を言ってるんだ」


 エフィはそう言うけど、それは最低限の結果だ。


「いやぁ、もっと怪我人少なく済んだんじゃないかって。冷静になれなかったし、何が起きてるか見てるしかなかったし。エフィみたいに動けなかったし。頭で考えてばっかりで」

「こっちは動きを見る余裕もなかったんだぞ。そもそもアズが気づかなければ、あの場面に遭遇さえできなかった。実際に通じる攻撃ができたのも、把握したのもアズだからだろう」


 言い合う僕とエフィに、ネクロン先生がやる気なさげに言う。


「つまりは、魔法と錬金術で手合わせした時と変わってないんだろう、お前たち」


 エフィと顔を見合わせると、さらにネクロン先生が補足した。


「実戦になると弱いアズ。魔法が通じないと弱いエフィだろう」

「確かにあの時もはめられるとその後回復できなかったな、俺は」

「そうなると僕は、正面から行ったのがそもそもの間違い?」


 以前言われたアドバイスからして、そういうこと?


「おおよそ聞いているが、状況からして気づいていない者に警戒を促すのはまっとうな立ち回りだ。ただ向こうもやらかすだけ万全の用意をしていた。正面から行って負けるのは当たり前だ。準備も経験も命を使い潰す覚悟も違う」


 怪我さえ嫌がった僕にネクロン先生が言うと、助手の海人ウィレンさんも話に加わって来た。


「そもそも学生が本物の殺し屋相手にするなんて、生きて戻れただけすごいって。しかも皇子さまの誘拐は阻止したんだから、大手柄じゃない」


 ただの巻き込まれなら確かにそうだけど、兄としてはもっとテリーにショック少ない形で解決したかったんだ。


 納得しない僕の様子にネクロン先生はこれ見よがしに溜め息を吐いた。


「できないことをやろうとするなら準備をしろ。できないことをやるために無理することを後悔するくらいならするな」

「やったことへの後悔じゃないんですけど…………」

「あの結果でそれだけ納得しないなら、相当理想高いぞ、アズ」


 エフィにまでなんだか呆れたように言われる。


 ネクロン先生が言うことはわかる。

 危険に飛び込む真似したんだから、無茶は許容すべきだ。

 やらないって選択肢がない僕に当てはめると、後悔も許容しろってなるのかな。


「…………一番後ろで全体を見て、指示を出した。それがお前の立ち位置なら間違いではない。判断を間違えたと思うなら、これから学べ。まぁ、今後に必要かどうかは甚だ疑問だがな」

「学ぶ?」

「あぁ、そうか。アズ、狩猟もしたことないと言ってたな。そもそも指示役の自覚がないのか」

「僕が指示役なの? 実戦経験なんてないのに?」


 エフィの言うことに疑問を投げかけると、ネクロン先生は指を差して来た。


「指示役が前に出る道理があるか。兵を前に騎馬を横に、戦車は控え、砦を据えて将を左右に。ゲームをしたことは?」

「ありません」


 どうやら有名なゲームの基本ルールらしい。

 知らない僕に、他の先輩たちも目を向けてくるくらい有名なゲームっぽい。

 不器用で、器具は触らずレシピを掲示する係をやらされてるワンダ先輩が聞いて来た。


「お父さまなどがやられないのかしら? ボードの上で行う陣取りゲームでしてよ」

「兄弟や年齢が上の使用人から教わったりはなかったのか?」


 キリル先輩まで言うからルールを聞くと、チェスか将棋のようなものらしい。

 ネクロン先生が言ったのはコマの初期配置のことだとか。

 そしてゲームの基本想定で、ゲームをする人間は王の駒の視点からゲームを動かす。

 つまり、自分は最後まで動かないし、自分が攻撃される状況になったら敗北。


 このゲームは他種族でも知ってるらしく、竜人のロクン先輩と、エルフのウルフ先輩も説明に加わる。


「俺が習った時には、王はどんな駒でも倒せるほど強いけど、持ってる宝剣が重いから足が遅いって言われたな。どの駒も倒せるけどひとマスしか動けないんだ」

「こっちは王冠が重いと習ったぞ。それと、王を前に出す奴は馬鹿だってな。自ら一番に狙われ負けに行くだけだと」


 平民のトリエラ先輩も、絵以外に興味の薄いステファノ先輩も知ってるらしい。


「私やったことないけど、駒は見たことあるよ。スティフくんも絵に描いててね」

「つまりアズが王、エフィは兵なんだよー。あ、魔法なら兵より射程長いし、騎馬かなぁ?」


 ゲームの話で盛り上がりつつ、指示して盤面を理解する必要についても色々言われる。

 そしてこの有名な陣取りゲームは、実戦に応用できるというのが通念らしい。


 これは、あれだ。

 久しぶりに異世界の常識なんだろう。

 戦争のなかった世界の前世からでは、学べない分野だと思う。


 僕は前世で知らなかったことはこの世界で初めて経験する。

 つまり、中学生程度の知識と経験しかない。

 それで犯罪者を相手に飛び込んで応戦の上で生還なら、確かに大金星だろう。


「けどそれで言うと、エフィのほうが指示役じゃない? 部下持つ予定だったんでしょ?」

「それは卒業後にそういう訓練があると言う話で。それに、あの時は周りを見るような余裕は持てなかった。余裕がないなりに、広い視点を持とうと意識できただけアズのほうが向いてるだろ」


 そうして、今まで考えたこともない適性を指摘されたのだった。


定期更新

次回:二年目新学期4

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― 新着の感想 ―
[一言] ピアノが弾ける、これって何気に現代知識チートの影響かもしれないですよね。 日本の義務教育の範囲(語弊はあるけど)無駄に広くて、楽譜の基本はもちろん、音階や音が何故鳴るのか、リズム、スピードの…
[一言] 常識であろう知識なしにやっとんたんかい。ある意味すごいわ。
[一言] >そうして、今まで考えたこともない適性を指摘されたのだった。 まぁ、本人の適性の前に、セフィラを使役してる時点で俯瞰的情報アドが凄まじいしな。情報が最も集まる人間が指示しなくて誰が指示すん…
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