表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

396/661

閑話66:ネヴロフ

「そう言えば聞きそびれてたけど、あの地下で雷落ちた魔法って何?」


 寝る前に聞いたら、アズは半端な笑い顔になった、なんで?


「え、今?」

「私も聞きたいわ、アズ」


 部屋に戻ろうとしてたイルメが戻って来て、がっしりアズを掴んだ。

 今って何かと思ったらそうか、魔法の話になると俺より興味津々なのいたな。


「事件の後に不謹慎すぎないか? 少しは隠すべきだろ」

「ネヴロフもなんで今思い出したの?」


 呆れるエフィに、ラトラスは俺に聞いて来る。

 あ、わかれて寝る前だからじゃなくて、今日は水難事件が起きたのが駄目?

 今度はどっかのお姫さまが狙われたらしいけど。


 俺たち屋敷にいたからよくわかってないけど、ともかくなんかあったみたいだってのはわかってる。


「今聞いとかないと、アズまた呼び出されていなさそうだし?」

「いつも唐突だが、ちゃんと考えてはいるな」


 ウー・ヤーは頷きながら、一度は立ち上がった所に座り直す。

 それを見て他も腰を下ろした。

 もちろん俺も。

 見上げると、一人立ってるアズは肩を落とす。


「あの杖が壊れたのは、中に薬品があったからだよ。それが膨張して爆発したんだ」


 つまり竹大砲みたいな感じでバァン! といったわけだ。

 アズに言われて目瞑ってたけど、耳もけっこうヤバかったな。


「あんなわけわかんないことがどかどか起こってたのに、アズはよく杖が壊れた理由なんて見てたな」


 俺が感心してるとエフィがアズを指差す。


「そこも気になるが、あの雷だ。魔法でいいのか?」

「情報源秘密かもしれないって警戒するのに、そこは聞いてくるの?」


 どうやらアズとしてはあまり話したくない感じらしい。

 けどイルメも興味あるみたいで聞くのやめない。


「否定しないのなら魔法ね。それで? いったいどんな理屈?」

「そうだよね、アズができたならできる理由が何かあるはずだよね」


 ラトラスが言うようなことは俺も思ったから聞いた。

 アズは物知りだけど、一年学んで知ってるだけじゃなくて、理解して自分で使える奴なんだと思う。


 いや、使えるように知ったことを理解することをしてる?

 ともかくアズができることは、わかってやってるって話だ。


「次また危険があった時に、打てる手は多いほうがいいんじゃないか?」


 ウー・ヤーがアズに喋らそうとして意地悪に言う。

 ただそれを聞いてアズも観念した。


「そうはいっても、状況が必要だし、すぐさまできるってわけじゃないからね」


 アズはそこから雷が何かって話を始める。


「空から降って来るもの、大地に落ちれば火に変わるものなんて言われるよね? けどどうして風の上位になってるか、わかってる?」


 俺はもちろん、全員が風の魔法使いのイルメを見た。


「風が天に通じるからよ」

「それなら雨は? 天から落ちても火になるから、火でもいいはずだ。天と通じるなら、世界を別つ地こそは切っても切れないものじゃない?」

「そう言われりゃ、なんで風の上位なんだろうな? 水でも火でも地でも良さそう」


 俺が言うと、イルメはショックを受けたような顔した。

 こういう表情、たまにするよな。

 驚いてるだけにも見えるけど、イルメって基本精霊に全力だ。

 それに人生かけてルキウサリアにまで来たから、他に割くことしてない感じ。

 なのにショック受けるってことは、それだけ揺さぶられてるってことなわけで。


 それで言うと、アズはよくイルメの常識ひっくり返す。

 だから逆にイルメのショックなんて見慣れてて特に反応しないな。

 アズが留学してる間、ほとんど表情動かないくらいだったのに。


「端的にいうと、一番簡単に雷を起こせるのが風だったんだ」

「そんなふうに言ってみせるなら、まさか水でも雷が起こせるというのか?」

「身体強化でもできたら面白そうなんだけど、さすがに無理だよねぇ」

「できるよ」


 半分冗談のウー・ヤーとラトラスまでびっくりさせられてる。


「なぁ、できるなら俺もやってみたいどうやるんだ?」


 楽しみで聞くとアズは指を振った。


「言ったでしょ、すぐさまできるわけじゃないって。まず雷って規模が大きすぎる。もっと小さいところから始めないと、人の手には余るんだ」


 そう言ってアズは、次に身近な雷について話しだす。


「乾燥した日に服着ると、パチって言わない? 他には、髪とか毛がもわっと浮き上がる感じ。あれが極小の雷なんだ。磁石のようにものがくっついて来るのとかもだね」

「あ、冬とかにあるあれ? 糸くずとかめちゃくちゃくっついて離しても寄ってくるやつ」


 ラトラスが耳を立てて言うの、すげぇ、わかる。

 山降りてからブラシ使うこと教えられたけど、あれするとすごくくっつくんだよ。


 エフィは頷く俺たちを横目に、アズに手を向けた。


「待て、それが本当に雷なのか? 全く想像できない」

「だよね。うーん、見えたら早いんだけど、どうしたらいいかな? …………コイルはないし、静電気にしても、摩擦で、いや下敷きもなしじゃ、うーん」


 アズがよくわからない言葉を並べる。

 悩んでたと思ったら、アズは両手を擦り合わせ始めた。


 そのまま待つと、待ってた俺たちに笑顔で言う。


「あ、行けそう。ちょっと明かり落として」


 アズに言われて、俺たちは手分けして一つを残すだけで明かりを落とす。

 暗い部屋の中で、アズは両手をまたこすり合わせ始めた。


「一瞬だから見ててね」


 言って、擦り合わせた手を少しだけ離す。

 瞬間、アズの両手の間に糸のような何か光が走った。

 同時に聞こえる微かな音。

 毛に糸くずくっつく時も、同じような音がするけど。


「…………先生が落とした雷に、似てるわ。でも、すごく小さい」

「見えた? すごく弱いけどこれを集めて大きくして落とすのがって、近い近い」


 イルメがアズに這い寄るように顔を寄せてた。

 暗いせいだろうけど、エフィも同じような動きでアズににじり寄る。


「もう一度だ。お前は呪文を組まないから何してるか説明も詳しく」

「いや、詳しくって。エフィも落ち着いてよ」

「そうだ、説明するなら風でなくてもいい理由からにしてくれ」


 近づくの止めようとするアズに、ウー・ヤーも注文つけながら寄って行く。

 俺はラトラスと顔を見合わせて動かない。


「魔法はそこまでじゃないけど見たくはあるよな。雷なんてそう見えないし」

「たぶんアズに実験道具作ってもらったほうがいいとは思うけどね」


 それはそれとして、俺もラトラスもアズに近づいて、また小さな雷見せてもらう。

 それで思い出した。


「あ、そう言えば冬場に乾いた手を水に近づけると、パチって言う」

「そうそう。雷は風でも、水でも、火でも、地面の上でだって実は起きるんだ」

「へー、じゃあ馬撫でてもパチって言うことあるけど、生きてる相手でも?」

「そうだね」


 俺とラトラスが思いつきを聞けば、アズは笑顔で頷く。

 けど他の魔法使いたちはなんだか納得いかない顔してた。


「どうして、そんなにとんでもないことを世間話のように…………」

「イルメ、ここは諦めたほうがいいと自分は思う。受け入れてしまってるんだ」

「そ、そうだな。とんでもない事実を当たり前のように言われているが、な」


 揃って変だから、俺はこれもアズに聞いてみる。


「なんか言っちゃいけないことだったのか?」

「うーん、僕今、魔法の基礎として習うところひっくり返したからね。わからないならそういうものだと覚えたほうが、魔法は使いやすいと思うよ。僕もそうしてるし」

「俺、魔法ってすごく面倒で高尚で金がかかるとばかり思ってた。アズに習ったら簡単そうだよね」


 ラトラスに頷くと、魔法習ってた三人が文句言いたそうな顔して来た。

 横目に三人見ながら、アズは手を横に振る。


「僕は自分が危なくないようにしか使えないんだ。だからエフィたちほど強い魔法使えないよ。覚え方に癖があると使い方も偏るんだから」


 なんでもないように言うけど、そんなの考えたこともなかった。

 俺、学園で魔法使うようになったし、自分が偏ってるかどうかなんてわからねぇ。


 わかるのは、やっぱりアズはなんでもわかっててやってるんだなってことくらいだ。

 たぶん俺が作りたい水を通す橋の正解も、アズはわかってるんだよな。

 けど言わないのは、俺が考えてわかって作ったほうがいいと思ってるから。


 で、できないと思ったら教えてくれるのもアズだから、たぶん俺が今やってることは間違ってないはず。

 最初第一皇子に無茶言われたと思ったけど、できると思って指示してくれたならやるっきゃないよな。

 ただの祭り見学がおかしなことになったけど、学園戻ったらまた考えるぞ!


ブクマ6600記念

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 手をすり合わせてたのはフリじゃないかな? 事前準備が要るんですよっていう 妹の前では直で静電気出してたし 色々誤魔化そうとしてるのかも
[一言] いっぺん挫折したんですが、未読が200以上溜まったので読みがいありそうと再チャレンジしました。バトル好きなのになかなかダンジョンが出てこないことに気づかなかったくらい面白かったです。 閑話が…
[気になる点] 両手をこすり合わせて……片手に手袋でもしてたんですかね。 異なる物体をこすり合わせないと電荷は移動しないですし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ