表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

386/661

322話:悪あがき2

 犯罪者ギルドを構成してた一家が作った違法な魔法道具が使われた。

 それによって僕たちは動きを強制されてしまう。

 テリーは自らの足で、ニヴェール・ウィーギントの下に招き寄せられてしまった。


「おい! 痛がってるだろ、やめろ!」

「その方は皇子殿下だぞ!」

「うるさい! 黙ってろ!」


 ネヴロフとエフィが、髪を引っ張るなんて乱暴なことに非難する。

 それをニヴェール・ウィーギントが上から怒鳴りつけた。

 途端に二人とも口が思うように動かないようになる。

 けど呻いたりはできるようだ。


「これだけの人数を思いどおりにするなんておかしいわ。命令回数に制限があるかも」

「もしくは時間か、命令内容が限られてるかだ。無制限じゃないはずだろう」


 イルメとウー・ヤーも自由になる口を使って推測をする。

 それを受けて、倒れて上手く動けないテリーの守りを担う人たちが声を上げ出した。


「あぁ、うるさいうるさいうるさい! 下賤が私に気安く喋りかけるな! 不愉快だ!」

「あ、黙らない! 本当に何か制限があるんだ!」


 ニヴェール・ウィーギントの言葉に制限が発動しないことで、ラトラスも無闇に声を張る。


 あえて邪魔するため騒がしくなった中、僕はセフィラと確認作業に入る。

 あまりに乱暴なやり方に、もうニヴェール・ウィーギントを捕まえた後の面倒を減らす気もなくなった。


(この魔法はあの杖から発されてる)

(是)

(ニヴェール・ウィーギントが術者だけど維持は杖が行ってる)

(是)

(杖のある位置、下から干渉されてる)

(是)

(地面から離れるほど干渉は弱まる)

(是)

(大人数を封じたのは杖を掴んでいた時だけ)

(是)

(杖に触れていない状態で同時に命じられるのは最大二人)

(魔力の流れからして三人でしょう)

(そうなると、目視の範囲。意識して命じられる対象に限る)

(是)

(一度命令すれば解除まで強制)

(是)

(解除せずとも命令の上書きができる)

(是)

(強制させるには言葉における指示が必要)

(是)

(杖の効果は強制だけで術者への保護はなし)

(是)

(術者がすぐに動かないのは杖との距離に制限があるから)

(是)

(自死を命じないのは表面的な意思を強制する効果だから)

(是)

(杖の影響を上回る魔力を身の内に満たすと一時的に強制は薄れる)

(推測の域を出ず。円尾の呼吸で魔力を高める能力にのみ所以する可能性あり)


 僕は必要な確認を行い、セフィラは簡潔に答える。


 聞きたいことを聞いて、後は行動に移した。

 いつまでもニヴェール・ウィーギントが、杖からの距離を測りかねてそこにいるとも限らない。

 テリーを連れ去られるわけにはいかない。


(テリーの安全第一。必要なのはまず厄介な杖の破壊だ。セフィラ、頼んだ)

(了解しました)


 僕は悪あがき前から反撃の機会を窺って、手にゴム玉を握ってる。

 そのままゴム玉を持った左腕を少しずつ上げた。

 身体強化を左手だけに集中。

 魔力も全体から練り込むんじゃなく胸を中心に上半身だけ。

 それをさらに左腕に骨や腱、筋肉を意識して一つ一つを強化するイメージで魔法に。


 推測だった魔力を満たすことで術の影響を跳ね返すは当たり。

 ただヨトシペが動けない状況から、術が展開してる地面との距離でまた制限の強弱があるんだろう。

 咄嗟に立ち上がったことが功を奏した。


「なんだ? おい、動くな! …………な、何故動ける!?」


 僕が左手を上げていることに気づいてニヴェール・ウィーギントが命じる。

 けど肩まで肘が上がると強制が確実に弱まるのを感じられた。


「そこのお前だ! 動くな! くそ、どうして?」


 魔法が効かないことに焦りだすニヴェール・ウィーギント。

 ただそこに余計な助言が放たれた。


「転がせ! あの犬のように!」


 動けなくなってたファーキン組だ。


「奴は術理を解析したかもしれん!」

「馬鹿な!? たかが子供が、ハリオラータの魔術だぞ? あの気狂いの魔法使いども。自分の人生すら魔法に全てかける馬鹿が作ったこの術を理解しただと?」

「馬鹿はお前だ! 術が下に展開して、身長の高い奴ほどペラペラ喋る状況で、腕を上げてる意味もわからないのか!? 攻撃されるぞ!」


 せっかくの助言を軽んじたニヴェール・ウィーギントは、馬鹿と言われてもしょうがない。

 さらにはファーキン組の鋭い助言さえ軽んじた結果、馬鹿って言われたことに気を取られる始末。

 それだけ時間があれば、もう僕を転ばそうとしても無駄だ。


「遅い」


 僕は掌が強制からほぼ解放されたこと感じて、魔法を放つ。

 風でゴム玉を噴射した。

 暗い天井にぶつかった先は見えない。

 けどそこにはセフィラが地魔法で角度をつけた面を用意していた。


 天井にぶつかったゴム玉は、落下エネルギーも含んで一直線にニヴェール・ウィーギントの側頭部から顎にかけてを強打する。


「ご、ぶ…………!?」

「え?」


 突然脳を揺らされる衝撃に、倒れ込むニヴェール・ウィーギント。

 ゴム玉も倒れ込むのも絶対痛い。

 あと倒れた瞬間ニヴェール・ウィーギントの口から歯みたいなものが飛び出したけど気にしない。


 掴まれていた髪を離されたテリーは、何が起きたかわかってないようだ。

 ニヴェール・ウィーギントが攻撃されたことで、逃げられるようになれば良かったけど、杖から発する魔法陣は健在。

 命令以外の動きができない状況だと、その場から満足に動くこともできないだろう。

 今は逃がすためにも追撃が必要だった。


「みんな、目を瞑って!」


 僕は警告し、自分も硬く目を瞑る。

 次の瞬間、瞼を貫いて光が弾けた。

 同時に太鼓のような腹に響く音が地下を伝播する。


 セフィラが魔法で強い雷を落としたんだ。

 狙いはニヴェール・ウィーギントじゃなく、強制を強いている杖。

 正直ニヴェール・ウィーギントに雷落としたかったけど、重要度が杖以下。


「やった?」


 目を開けて杖を確認すると、雷を受けた杖は曲がっていた。

 と言うか、内側から破裂したような歪みがある。

 何か杖の中に薬品でも入っていて、それが雷によって水蒸気化して破裂したのかも。

 ともかく、杖は見るからに壊れていた。


「よし!」

「あ、少し動けるようになっただす!」


 確認して声を上げると、ヨトシペが元気になる。

 喋れもしなかったのに、強制する力が弱まったようだ。


 杖に遠い場所から地面に広がっていた魔法陣が薄れ始める。

 けど元宮中警護の騎士が警告の声を上げた。


「様子がおかしい! テリー殿下、動けますか!?」


 言われて見ると、杖の一部が強く光ってる。

 どうやら杖についていた魔石が勝手に光り出したらしい。

 力が高まるように光が強くなるけど、テリーは一歩も動けない。


「ま、だ…………」


 杖から離れようとするテリーの上半身に対して、足は地面から離れない。


 逃がすには一つしかないようだ。


「ニヴェール・ウィーギントのほうに動いて盾に!」


 するとテリーは普通に動けた。

 まだニヴェール・ウィーギントのこっちに来いという強制が効いていたんだろう。


 それでも不穏な光を放つ杖に近いし、顎を揺らされ倒れたままのニヴェール・ウィーギントを動かすこともできない。

 そして杖も待ってはくれなかった。


(セフィラ! テリーを守って!)


 高まった魔石の光はついに弾けるように爆発を引き起こす。


「うわ!?」


 隠し持てる程度の大きさの杖だからか、物理的な危険はあまりなかったようだ。

 けれど爆発的に放たれた衝撃波が、地下に溜まった土埃を巻きあげる。

 瞬間的に僕たちの視界は真っ白になった。


「みんなだいじょう…………ぶ!?」


 安否を確認しようとした次の瞬間、体中に重しがぶら下げられたような違和感が襲う。

 見えない中で他からも苦悶の声は聞こえた。


 状況的に全員が不調をきたしたのは杖の爆発が原因だろう。

 暴走と言うより、破損したら自爆するよう設定されていたのかもしれない。

 その上でこうして術に巻き込まれた者を動けなくする。

 犯罪者ギルドの一角だけあって、ハリオラータも相当に性格が悪い。

 ニヴェール・ウィーギントの意識を狩って、杖の破壊も成功してる。

 なのに、今度は強い術を解除した反動に襲われ、体の自由を奪われてしまったのだった。


定期更新

次回:悪あがき3

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 近寄って杖をテリーに操作してもらうのがべたーだったかな?
[一言] 制限はあったけど効果に対しては緩いですねー頭のいい天災って本当厄介
[一言] 周りに人がいるときは活躍してはいけないと自身に課してるからか、結果的に縛りプレイしてるように見える。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ