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315話:大公国での密会5

 ナーシャと密会を終えて、僕はウェアレルと歩いてる。

 ナーシャから、選手宿舎のほうに送ると言われたけど断って別れた。


 ウェアレルに話の内容を共有したかったから、セフィラにあえて賑やかな場所を選んでもらって歩く。

 そこで買い食いするふりで話をした。


「なるほど、ファーキン組の件ですね」

「そう、ニヴェール・ウィーギントは何をするつもりなんだか」

「第二王女が、件の方と第一王女との引き離しを画策するのならば、もしかしたら」

「他人に頼るなら、それだけ本人に力がないかもって?」


 それは考えられる。

 自分でやりたがりそうなニヴェール・ウィーギントは、派手な外見も顕示欲の表れだと思う。


「けど、ここで何をしたら得になるんだろ?」

「そうですね…………。実はこうした催しは、往々にして密会に使われます」

「それって、僕たちみたいに?」

「えぇ」


 テリーに、ナーシャに今ウェアレルとも密会してるね。

 騒がしくて人の出入りも激しいし、さらに外から人が集まっても理由に困らない、怪しまれない。

 人が集まる場所がわかる分、静かな所も選べるし、今の僕らみたいに騒がしさを逆手にとってもいい。


「…………あ、アーモンドケーキだ。食べていい?」

「どうぞ、私もいただきましょう」


 擬態するためにアーモンドケーキを買い、僕たちは食べるために道の端の目立たない所へ移動する。


 買ったのは見た目質素なケーキで、みっしりした生地に粉糖がかかってるだけ。

 質素なんだけど、齧りつけばアーモンドの香ばしさとレモンの風味がある。

 ちょっとパサついてポロポロ落ちるけどシンプルで外れのない味だ。


「ニヴェール・ウィーギントは、帝都への返り咲き考えてると思うんだよね」

「プライドが高いと言うのならば、花の帝都から離れたままでは心穏やかでないでしょう」

「ってことは、帝都に伝手のある誰かと密会じゃない?」

「ハドリアーヌの第一王女の動向はいかがですか?」

「ナーシャからは特に。というか、テリー狙いかなとも思ったんだけど」

「それにしては、一度顔を合わせた際の対応が不自然ですね」


 そうなんだ、言ってしまえば喧嘩腰だった。

 ヒルデ王女側に利用することはあっても、近づく意図はないと思える。


 そうなるとニヴェール・ウィーギントはなんでここに来た?


「恰好がだいぶ地味だった。たぶん見つかりたくない。そこまでするなら、必要なんだろうけど。そこまでやる相手がなぁ」

「逆かもしれませんね」

「逆?」

「いっそ、身分の高い誰かではなく、とても身分的に会えない者に会うため」

「あ、ファーキン組」


 確かにそれならあえて目立たずにいる理由になりそうだ。


「だったらヒルデ王女は目くらましの可能性も?」

「今回改めて繋ぎを取って、その後の利用を考えているのでは?」

「うーん、ファーキン組使って何させるか不安しかない」

「そうですね。行いを見る限り穏やかではないでしょう」


 ただそうなると困ったこともある。


(セフィラ、この人だかりの中から、トライアンにいたファーキン組って見つけられそう?)

(捜査範囲に対象者が多すぎます。ましてや常に流動しているので、相応の時間を要することになるでしょう)

(だよね。基本セフィラを中心にした範囲だし。僕から離れてもらって)

(異議あり。錬金術使用の機会を観察できない可能性があります)


 ちょっと、物騒な犯罪者よりもそれが優先なの?


 僕の表情を見てウェアレルが覗き込んでくる。


「あの、何が?」

「錬金術を誰かに試すの見たいから、一人で捜査したくないって」

「あぁ…………」

「納得しないでほしいなぁ」


 僕のぼやきにウェアレルは困ったように笑った。


 僕はアーモンドケーキを食べてしまって、気持ちを切り替える。


「よし、喉が渇いたからコーヒーか何かないかな」

「甘さは控えめですが、喉が渇きますね」


 ウェアレルも人混みの騒がしさにまた紛れながら、一緒に移動を再開した。


「現状、確定ではないので警戒くらいかと。もしくは、こちらから取りに行くか」

「それ、先生としていいの?」

「良くはありませんが、現状ファーキン組はすでに皇帝派閥に牙を剥いています。放置はできません」

「確かに、絶対やらかすってわかってるんだし、こちらから先に手を打つのもありか」


 犯罪の証拠が挙がってからと思ってたけど。

 考えてみれば、すでにトライアンで皇帝派閥のリオルコノメという貴族を手にかけてる。


 リオルコノメの息子は、留学後もいたのは確認した。

 父のほうに問い合わせたところ、ちゃんと学業の援助をしてくれたらしい。

 それ以外でもルキウサリア側からの報告として、ソティリオスが見舞金を渡したとか。

 訃報が入った直後には休学して、復学した時にもまだ顔色が悪かったそうだけど、僕たちが留学から帰った頃には立て直していたそうだ。


「やられた後だと駄目だよね」

「ただ、あくまでファーキン組が関わるのは憶測。危険なことは控えていただければ」

「うーん、それもわかってる。けど、いる可能性があるならニヴェール・ウィーギントつけるのもありかなって」

「競技大会見物はどうなさるのですか?」


 心配そうに聞かれると、確かに残念な気持ちが湧く。

 それにクラスメイトとお祭見物なんて普通に楽しい。


 前世では勉強優先で外出も許可制。

 友人と呼べる相手も少数で、祭なんて不良がいると言われて許可されたこともない。


「うーん」


 僕が迷っていると、ウェアレルが指を差した。

 見ればそこにはコーヒーを売る露店。

 僕たちはさっそく買ってまた端へと移動した。


 うーん、匂いが土っぽい。

 皇子として用意されるコーヒーよりも質が悪いのがわかる。

 けど口の中はさっぱりした。


「迷うようでしたら、やりたいことをなさればいい」


 熱いコーヒーにびくついた後、ウェアレルが言う。

 目が合うと、思い出すように笑って見せた。


「学生時代は取り戻せませんから。当たり前に毎日会っている学友も、卒業後には会うことが稀になるものです」


 それはウェアレルの実体験なんだろう。

 その上で僕にも前世で覚えがある。

 元から交友は少なかったのが、卒業で完全に切れることもあった。


 きっとこうして祭に出かけるなんて、この後あるかなしか。

 卒業した後では望めないことだろう。


「そうだね」


 僕が返事をするとウェアレルの耳が立つ。

 そして隠れるようにして立ってた場所から出て、片手を挙げた。


「こちらですよ」

「あ、色違い先生! ようやく見つけた!」

「あれ、ネヴロフ?」


 僕もウェアレルに続くとネヴロフの横からラトラスが顔を出す。


「ここ臭い多すぎて全然見つけられなくて」

「だから言ったじゃない。ネヴロフを目立つ所に立たせたほうがいいって」


 友人をモニュメント代わりにしようとしてたイルメに、エフィも頷く。


「逆に見つけられたほうがすごい。毎年迷子は老若男女問わずいると聞いてる」

「なんにしても、コーヒーを飲んでいるなら、王女との密会は終わったんだろう?」


 ウー・ヤーがからかい混じりに言うんだけど、否定もできないから困るな。


「そうですね、まだ時間もありますし今から少し覗ける競技があるか探しましょうか」


 ウェアレルが僕の観光を優先してそう言ってくれる。

 当てもなくファーキン組を捜したところで、見つかる可能性は低い。

 それにすでに目の前にクラスメイトがいるから、一人離れる言い訳も難しかった。

 もちろん僕の心情的にも祭を楽しみたい気持ちは確かにあるから、否やはない。


 楽しめる時に楽しむのも、嫌ではないんだ。

 ただそれとは別に、ファーキン組をセフィラに捜してもらうことは続行する。

 僕が動き回る範囲で、セフィラに捜してもらおう。


(とは言え、無闇に錬金術で喧嘩することがないことを僕は祈るよ)

(ファーキン組の発見に伴う確保において使用を提言)


 手伝ってくれる気はあるセフィラだけど、どうやら自分の欲求も満たす気らしい。

 実は僕よりも楽しんでいるのはセフィラなのかもしれない。


定期更新

次回:競技大会テロ事件1

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― 新着の感想 ―
[一言] 予告がw
[一言] 当ては無くても皇子も歩けばファーキン組に当たる感じか向こうから来そう。
[良い点]  皇太后の連枝だったっけ?二ヴェなんとかさん。  皇帝権威を蔑ろにされるとかなんとか建前つければルカイオス公爵あたり動きそうな。  そして「何をするつもりか」が丸わかりな次回予告w  フ…
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