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308話:大公国競技大会3

 変なところをテリーに見られた後は、テリーも外交の予定で去った。

 そしてエフィの長兄だというシモスが僕の勝ちを宣言する。


 さすがに悪あがきしすぎて、錬金術に負けたという事実しか残らなかったようだ。

 最後は僕も魔法だったけど、それも魔法使いが誇る大魔法でもないからノーカンかな。


「エフィ、詳しく聞かせろ。屋敷に来い」

「しかし…………」

「あれの処分も必要だ。父上に申し上げる」


 シモスがエフィに声をかけ、あれといって僕の対戦相手を指す。

 エフィはちょっと考えて頷いた。


「わかりました。…………すまない、巻き込んだ」


 後半は僕たちに言った上で、エフィはウェアレルを見る。


「色ちが…………こほん、カウリオ先生。私事とは知っていますがどうか頼みます」


 兄の目を気にしてか、色違い先生とは呼ばず言い直す。

 その上で頼むって、僕たちが何をしたと言うんだろう。


 エフィと別れた後は、問題なく帰った。

 さらに遅くに宿舎へ戻ったエフィを休ませた後は、僕たちも寝入って夜半。


(…………こうして抜け出したわけだ)

(家庭教師ウェアレルが第二皇子と接触しました)


 僕はテリーが宿泊する館の外で待機。

 皇子の宿泊ということで、領主の持ち物を丸々借りてるらしい。


 テリーの予定を優先して遅い時間になったけど、その暗さが僕には有用だ。

 セフィラの光学迷彩で隠れ、音も消してるけど、屋根の上に上がるのはけっこう慎重さがいった。


(よし、ウェアレルに人払いと窓を開けるように言って)

(すでに人払いが始まっています)


 招かれたウェアレルが挨拶を終えると、セフィラ曰く、人払いがされたそうだ。

 室内に残ってるのはテリーと元宮中警護の騎士のみ。


 控えの間からも遠ざけて廊下に出すらしい。

 それを待つためにも、室内では雑談をしているとか。

 ただ僕はセフィラに廊下へ全て出たと聞いてすぐ動く。


「失礼、お静かに願います」


 僕が館のベランダから窓をノックすると、内側でウェアレルがそう言った。

 閉じられていたカーテンを開いても、姿を隠した僕は見えない。

 それでも招き入れるように、半身を返した上で、テリーたちの視線を誤魔化すためカーテンを一度大きくなびかせてくれる。


 僕はカーテンに隠れて光学迷彩を切った。


「少しはしたないことだけど、今日だけね」

「あ…………! う」


 テリーが大声を出しそうになるのに、僕は人差し指を立てて止める。

 テリーも自分の口を手でふさいで頷いた。


 けど座っていた椅子から立ち上がって僕のほうへやって来る。

 外から来たから夜の冷気を纏ってるのに、気にせずテリーは僕の手を取った。


「まさかいらしてくださるなんて。兄上、すぐ暖炉の側へ」

「ありがとう、テリー。その…………思ったよりも話せなかったのが、残念でね」

「それは、私も…………。わかっていたのに、顔を見て話すことも難しいなんて」


 お互いわかってた。

 けど実際その時になると、もどかしい。


 テリーも同じ気持ちでいてくれたようだ。


「でも、今回のことで私がやるべきことは何か、よくわかった」


 テリーは真っ直ぐに僕を見る。

 何処か気後れしたようにしていた弟が、いつの間にか目線の高さが同じになっていた。


「兄上を皇子に留める。そのために私が皇太子として立ち、兄上が私の兄上であることを周囲に認めさせる」

「テリー、それは父上も、ルカイオス公爵もできていないことだよ」

「それでも、やるよ。兄上が皇子でなくちゃ話すこともできないなんて、嫌だから」


 僕の不遇を察して気落ちしてたテリー。

 年上の僕と比べて劣るなんて気後れしてたテリー。

 そんなテリーがこんなに頼もしくなってくれるなんて。


「それならやっぱり、僕は卒業後には帝都へ戻ろう」

「でも、それだと…………」

「戻ると言っておいて、圧をかける。そうすれば、ルカイオス公爵も焦ってテリーの後押しをするだろう。それに、僕もテリーも不在で、勝手に代理戦争的な争いを起こされても困る」


 ようはどちらもいないなら、名目にしてしまえと利用する輩への警戒だ。

 第一皇子を支持するなんて、僕がいない間に勝手に言って、事後承諾とかありうる。

 そうなったら僕は、知らない間にテリーの対抗勢力に担ぎ上げられることになるんだ。

 現状されないのはテリーが優勢だから。

 テリーが学園入学して不在となれば、僕を利用しようとする者もいるだろう。


 それを止めるためにも僕が宮殿で、的になる。

 そうすれば利用しようという人は勝手に寄って来て、勝手にルカイオス公爵とユーラシオン公爵に排除される。

 僕がいるのに勝手に名乗るとか、それはさすがにこっちに喧嘩売ることになるしね。

 だから利用しようという人たちは僕と接触を一度でもと、とても難しい道を行くことになるんだ。


「正直、左翼棟に引き篭もってる状態って、政治的には有用なんだよね」

「でも、それでは兄上が錬金術師として名を上げることが。学園に入学したというのに」

「そこはルキウサリアで別口に動いてるから。うーん、正式な発表はまだだけど、少し教えておこうか」


 僕はテスタを隠れ蓑に技術開発をしていることをテリーに教えた。


「あの小型伝声装置というもの以外にも?」

「今思うとあれ、伝声装置ではないよね。通信装置ではあるけど」

「あれは、陛下がワーネルとフェルに預けてて。魔力の消費も激しいから、陛下には操作が難しいって」

「テリーも触った? ロムルーシにいる間はワーネルとフェルばかりと連絡してたけど」

「うん、まさか留学するなんて思ってなかったから、兄上がロムルーシにいる間に私が連絡する隙は見つからなかったんだ。その話も聞きたい」

「そこは手紙に書けなかったからね。実はね、ロムルーシに古い錬金術の痕跡があったんだよ」


 廊下にまで退かせてるけど、人がいるから僕たちは暖炉の前でこそこそと話し合う。

 そして長居もできないとお互いわかってるから早口になった。


「新しい連絡手段を? もしかして双子のせいで小型は壊れた?」

「あれ、調子悪かったの? ロムルーシ間での通信に負荷が大きかったかな?」

「それはわからないけど、前に双子が勝手に中を開いてて。壊れると言ったんだけど」


 おっと、双子の弟たちがやんちゃしてたらしい。

 見た目は元に戻したようだけど、それで中の構造を見て考察したそうだ。

 結果、二人で魔力を送り込むことで増幅という手段を考えついたんだろう。


「やれやれ、下手すると使えなくなるのに。うーん、伝震装置も同じことされるかな?」

「新しい連絡手段は外装の偽装と言っていたけど。それも壊れやすいの?」

「うん、本に偽装してあるからね。あれは無理にはがすと、まず外装が傷むんだ」

「遅いかもしれないけど、帝都に戻ったら注意しておく」

「うん、そうして」


 一応機密だから、双子も小型伝声装置を弄ることは、人目のない左翼棟でやってたらしい。

 ただ壊れた時はどうしようかな。

 小型伝声装置は僕のほうで回収しちゃったし。


「あぁ、そうだ。テリー、金の間にピアノがあるのわかるよね? あそこに伝声装置設置できるようにしてあるから、壊れたらあれ使って教えて」


 僕はテリーに使い方や道具の場所を教える。

 あれはウェアレルが作った本来の伝声装置と同じような形状だ。

 ただ伝えるのは声じゃなくピアノの音になってるけど。


 テリーたちにはウェアレルの伝声装置のことは知らされていないから、発案元は言わずに、ともかく秘密ってことは言い聞かせた。


「伝震装置というのもすごいのに、そんなものまで兄上は作っていたなんて」

「元がピアノにつける装置だったんだよ。それを小型にしただけでね。けどあれも無理があった。たぶん伝震装置のほうが安定的に使えると思う」

「別々なのに、安定する? どうやってもう片方は勝手に動くの? 魔力も通さないのに」

「相互で音を伝えるやり方は同じだよ。ただ音は振動だから、それを増幅して針を揺らすんだ」


 僕の説明にテリーは目を輝かせて聞き入る。


「紙が勝手に? それも伝声装置の中の魔法陣のようなもので動かしてるの?」

「そこは時計の応用だね。振り子を動力に動くようにしてるんだ」


 いやぁ、振動に対して悩んでたネヴロフの、投光器へかける情熱が応用できたんだよね、あれ。


 そんな会話を楽しく続けたい気持ちもあるけど、あまり僕ばっかりが話すのも時間が惜しい。


「さて、テリー。この外遊で達成目標はあるかな?」


 外遊で皇子として存在感を出しつつ、その上でテリー本人の口から僕との仲違いの噂を払拭しようとしてくれてる。

 けどそれだけだと押し出しが弱い。

 あえてこの、皇帝である父を良く思っていないレクサンデル大公国に送り込んだ意図が、他にあるはずだ。


「兄上はお見通しか。…………実は、大砲を使った競技に対して、改善を求めることをしてるんだけど、捗々しい返答は得られてないんだ」


 悔しそうに、けどそんな感情より問題解決を優先してテリーは打ち明けてくれた。


定期更新

次回:大公国競技大会4

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