298話:サラマンダー3
精霊らしいものに出会ったけど、錬金術が好きで手を貸すけど、実験室から動く気がないことはわかった。
(あのサラマンダーっぽい青トカゲ、セフィラとはやっぱり違うよね?)
(被造物ではないとの自認あり。類似性は存在しますが、同一と断定はできません)
肉体もなく、声もなく、けれど確かに知性はある。
そして魔法に親和性があるっぽい精霊は、要素だけを上げればセフィラに似てはいた。
僕は移動中の馬車の中で、紅柱石の粉末を取り出す。
エフィと一緒に粉にしてわけた分だ。
(途中で青トカゲがじゃれてたけど、なんでそれだけで魔石を砕いたような魔力を内包したんだろう、これ?)
(不明。しかし因果関係は想定すべきです)
どう考えても青トカゲがうろついたからだもんね。
そして粉末は何故か二十一グラムくらい減ってた。
(他の鉱石、もしくは求める素材の質によって減少量に違いがあるか検証を提案)
(そうだね、違いがあるかどうかで理由の類推もできるかも。あとは二十一グラムって確か、前世では魂の重さって言ってた気がする)
(仔細を求む。魂の重さを実証できていたのでしょうか?)
(いや、ただ死体が軽くなるって話だったはず。だから死んで軽くなったなら、抜けた魂の分だろうって。前世の科学文明で人間について目に見えない解明をしえたとしたら、感情がホルモン、精神活動が電気信号ってくらいかな?)
(求む、求む、求む)
(ちょっと、僕だって詳しくはないんだって!)
しまった、余計なことを言ってしまったようだ。
セフィラが興味を持ってしつこく聞いてくるけど、僕に説明できることなんてほとんどないんだよ。
だってそうらしいとしか知らないから。
(電気信号なるものを観測する方法を至急考案すべきと提言)
(体内のことだから、外から調べるのは精密機器、それも大量の電気で動かすものだから現状は無理だよ)
(向かう封印図書館に電気エネルギーの機構は存在します)
(あそこは維持管理に電力使ってるから余計無理。今以上の発電能力もないようだしね)
僕は馬車でダム湖へ向かっている。
最近は島じゃなく湖岸の研究施設のほうへ行っていた。
セフィラをいなして馬車を降り、寒い中外に出て出迎えるテスタ他、学者たちをすぐに施設内に戻す。
平均年齢六十五歳越えだし、言ってしまえば高齢者の集まりだ。
いや、テスタが平均年齢上げてる気もするけど。
「ほう、魔力を受けて変形する金属ですかな?」
移動の間の雑談で、錬金術科で何をしてるか話すと、テスタは知ってるような反応。
僕が今日来たのは、春に天の道の実証実験をするから。
支柱とかワイヤーとか、実際に設置して区画と期間を区切って導入する計画を立てる。
どれくらいの有用性を見込めるか、費用対効果は、問題の把握とかいろいろある。
「天の道のワイヤーも、魔力一つで変形できるなら良いのでは? 造るための燃料費も馬鹿になりませんし」
テスタの助手ノイアンが、ネクロン先生の出した課題を聞いて検討を訴える。
冬になった今、燃料の問題で作業が中断してるところもあるくらいだしね。
「八百年前の天才も、この土地なら燃料問題があっただろうけど。何か解決方法でも持ってたのかな?」
と言ってもセフィラが反応しないから、封印図書館には記述が残っていないようだ。
合金を作るための特殊な炉の製法なんかはあるの見てるけど、使ってた燃料は今もある薪だったはず。
もしくは薪と同じように使える炉に入れて…………炉に、入る…………精霊?
(いや、飛躍しすぎだよね)
(魔法使いが語る精霊と同じであるなら、火を強める性質あり。封印図書館で精霊が活用されていたかについて、検証の余地あり)
セフィラにそんなことを言われていると、城の学者ネーグが僕の発言に答えた。
「それは、この土地が答えかと。旧来ダム湖はございません。しかしダムを作れるだけの水量はあった。そして山に囲まれているならば隠れるにも良ければ、木を切り出して燃料にすることも可能です」
「うん、封印図書館みたいな巨大施設作れたのも切り開いたからだろうしね」
表面は村に偽装して、そのついでに林業でもすれば、切り出した木材は大半燃料にしても、国が噛んでるなら言い訳は立つ。
それだったら精霊なんて不確かな者に結び付ける必要もない。
「ふむ、それであればまた殿下の家庭教師伝いに錬金術科に問い合わせてもよろしいですかな?」
どうやらテスタも前向きに考えるようだけど、問題点わかってない?
それともドワーフの血筋から何か知ってるのかな?
「魔力に反応するってことはつまり、整形しても後から歪められる可能性があると思うんだけど。建材として使うには危険すぎるよ」
指摘したらノイアンが恥じ入る様子で俯いてしまった。
「えっと、僕も初めてだから間違ってるかもしれない。ドワーフはこれで製品を作ったというんだったら、整形した後にさらに魔力で変形しないよう加工が施されるはずなんだけど」
テスタを見るけど悩ましげな顔をしてる。
「確かに。ドワーフのとある名工は、魔力を通す剣を作り、その表に呪文を彫り込むことで剣から魔法を発することができるようにしたという話は聞きます」
すごいファンタジーな話出た。
けどネーグが懐疑的な声を上げる。
「それは伝説では? 実物と言われる物はすでに錆びて刻まれた呪文の判読もできないと聞きます。魔力を流すこともできない状態だとか」
そんな風になってるのか。
ちょっと見てみたかったな、魔法剣。
そして本当にあるなら、魔力で影響される金属の活用法が存在することになる。
剣ってことは魔力流しても形が変わることはないだろうし。
テスタはネーグの反論に否定も肯定もしない。
そして僕にドワーフという種族について語った。
「ドワーフは穴に住まうのはごぞんじか? その穴ごとに共同生活の集団として族を築くのです。その族内で生まれた技術や技巧は宝として守る。受け継げるだけの腕前の者がいなくなっても、秘匿して後生大事に守り続ける。そしてのちに腕のある者が生まれると、一族の英知と言って復活させる。そう言うことを繰り返しております」
「つまり、魔力に反応する剣の作り方を、仕舞いこんでるドワーフがいるかもって?」
テスタは頷くけれどノイアンが肩を落とす。
「それでは、二度と日の目を見ることがないかもしれませんね。ドワーフは頑なですし」
「はっきり言って構わんぞ。わからずやなのだ。他の種族となれ合いたがらない」
ドワーフとのハーフだろうテスタ自身が、鼻白む様子で言い捨てる。
どうやら他種族と交流を持つドワーフは、いっそ穴というドワーフの社会からは抜け出した人だそうだ。
言われてみれば、僕は純粋なドワーフに会ったことがない。
イルメがイア先輩に恐れられてたみたいに、純粋なエルフもだいぶお固いみたいだとは思ってたけど、ドワーフはもっと内向的らしい。
「薬についても迷信じみた製法をかたくなに守っておる。それで逆に毒になって死ぬ者もいるというのに、まったく嘆かわしい」
テスタが顔を顰めて言い募るのは、どうやら薬学方面でもめたことがあるかららしい。
そんな雑談を交えつつ、僕たちは転輪馬も春には馬車の駅に人員を配置して帝都と交通を持たせるという話も進めた。
また春になったら、今回ワイヤーのために作った合金や高温の炉を使ってのレールの試作も始めてくれると報告される。
「そっちは技術を持つ人に試作を続けてもらうしかない。じゃあ、薬のほうは?」
「実は鉱物を薬にするという過程に忌避感を覚える者がおりまして」
「あぁ、飲ませると思うとねぇ」
天才の作った薬の中には錬金術らしく鉱物を使った薬があった。
けど今まで薬草や生物由来という、ある程度口に入れられるものを使っていた人たちからすると、石を原料にするというのは体に悪影響しかないのではと思わせるらしい。
「だったら、岩塩でも見せておけば? あれも言ってしまえば石だし」
塩は無機物で鉱物のナトリウムだ。
見た目はそっくりでも、有機物の砂糖のように焦げて炭化しない。
鉱物に含まれる成分が全て毒ってわけじゃないけど、経験則から口に入れるものじゃないって感覚なんだろう。
「そちらも錬金術科の学生が欲しいところですが」
「キリル先輩は元から薬学に興味あるらしいけど?」
「しかしあの者は教会と繋がりがあり、後見人を調べたところ司教などの名前もありましたからな。抱え込むには危険すぎます」
テスタ曰く、薬学は教会お抱えの治癒師と競合するから嫌われているらしい。
わざわざ教会に縁のあるキリル先輩を下に置くと、余計にこじれそうだとか。
「あぁ、つまりトリエラ先輩に声をかけたのは確実にしがらみがないからか」
横目に見ると、テスタは無害そうな顔で笑ってる。
けどたぶん全世界に広がる教会組織に睨まれるより、小国の人間一人ルキウサリアから帰さないほうが楽だとかそんなこと思ってそうだな。
実際問題そうなんだろうけど。
「選ぶのはトリエラ先輩なんだから、しつこい勧誘が目に余るなら止めるからね」
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