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292話:新たな錬金術2

 二週間足らずで、双子の弟が帰る日がやって来た。


「はい、それじゃお手紙よろしくね」

「承りましたー」

「僕たちも連絡するね」


 双子にはポケベルかファックスかわからない本型の機器を渡した。

 伝声装置からもじって伝震装置と仮称してる。

 これは完全に受信機と送信機が別の装置で、なんでも小型化、多機能にすればいいってものじゃないと僕も学ぶことになった。


 今回は送信機を持って帰ってもらって、またイクトが帝都に戻る時にでも受信機をという話になってる。

 そして表向き父、妃殿下、テリー、ライアそれぞれに当てた手紙を預けてある。


「ワーネル、フェル。気をつけて」


 名残惜しいけど、ここで冬をすごさせるわけにはいかないしね。

 見送りを済ませた僕は、冬の間に済ませないといけないことのためにダム湖へ向かった。


 材料の輸入から専用の炉を建造し、燃料も都合して合金を生成してる。

 そうしてようやく天の道を春から造る目途がたった。

 人を乗せることを目指したいということで、最初から安全考慮でワイヤー作りをしてもらい、時間はかかったけど相応のものが完成してる。


「で、水利があるならダンジョンに上下移動できる機構作れると思うんだよ」


 ダム湖側の研究施設で、僕はダンジョンにエレベーターをつける案を話してた。


 いや、最初はちゃんと天の道について計画を詰めてたんだ。

 けど山を歩くの辛いよねって話から、マーケット準備のために行ったダンジョンの階段の話になった。

 で、ワイヤーできたしエレベーターもいいなって話ししたら詳細を求められたんだよ。


「封印図書館にある昇降籠を、水で…………」


 テスタがいう昇降籠は、封印図書館にある電動のエレベーターのこと。

 エレベーターを使わないと、ナイラやヴィーラと言った重量のあるオートマタが動けないし。


 で、重量さえあれば、水でもエレベーターできるよってことで説明をしたんだ。


「金属の縄の活用は広がるばかりですな」


 城の学者のネーグが、僕が適当に描いた図を見て頷く。


 興味があるなら試作してほしいけど、今は置いておいて、本題に戻ることにした。


「それで、天の道を作ることにおいて費用はどうなってるかな?」

「はい、こちらに」


 テスタの助手のノイアンが資料を差し出す。


 地形的には有用だし、往来する商人や貴族から使用料を取れば黒字の見込みもある。

 ただ、あくまでルキウサリア国内で使用する限りにおいての話だ。


「国外へ輸出するには今以上に材料や燃料の輸入と、技術者の養成が必要になるし、専門化しないといけない、か」

「それ一つに特化するには、あまりにも封印図書館に眠る知識が多すぎますな」


 そういうテスタも本来の専門は薬だ。

 もう少し広げれば医術か生体で、手つかずのホムンクルスのほうが専門に近いと言える。

 まぁ、そっちは倫理の問題あるからまだ僕も手をつけるのは迷うところだけど。


「やはり人手が問題ですな。それぞれに専心できる者を必要としております。錬金術科の学生はついて来られましょうや?」


 マーケットで実際に見て、そして国に帰る予定だった先輩たちを引き止めもしてる。

 結果的にルキウサリアを離れるのは、馬獣人のエニー先輩と国王が伏してるハドリアーヌ王国のメル先輩、帝都へ行くヒノヒメ先輩とチトセ先輩の四人だけになった。


「帰りたくないって言ってる人たちはいるけど」

「うーむ、あの三人ですなぁ」


 テスタもいまいちな反応だ。

 不器用なワンダ先輩と、喧嘩するオレスとジョーのことだと把握しているらしい。


 ワンダ先輩は作業には不向きだけど着眼には有用性があると思う。

 錬金術を表に出していくには、そう言うの必要だとは思うけど、現状必要なのは技術者だ。


「特に国同士の問題のある二人は扱いづらく」

「あ、そこは気にしなくていいらしいよ」


 僕も先輩たちから聞いた話を教える。


「なんか、国の大人のやり方真似てるだけで、心底仲が悪いわけじゃないんだって。貴族が下手に出るわけにはいかないっていうことと、敵国相手になめられちゃいけないって固定観念のせいであんな風らしい」

「まぁ、学園でも敵対する関係の家々の子弟が交友を持つと、周囲から突き上げを食らうという話も珍しくはありませんからな」


 もちろん交友関係について、実家からも何してるんだとお叱りが飛ぶそうだ。

 情報の漏えいや味方内の士気に関係するから、子供の独断でも後に響くことがあるとか。


 オレスとジョーに至っては、国同士が戦争を始めれば戦場で顔を合わせる可能性もある。

 距離を取るために喧嘩するっていうのも、一種の立ち回りと言えなくもない。


「ヨウィーラン王国と言えば、かつての王が平民と慣れ親しんだ結果、市井を歩いた折に、逆恨みした平民に刺殺された歴史もありますし。上にいなければいけないというのは、あの国の王侯貴族の強迫観念にも似た教育でしょうな」


 確か何処かの王家の血筋だというノイアンが。

 そこまでの歴史は僕も知らないけど、平民を抑圧するには一応この世界の歴史に根差したやる側の論理があるようだ。


 ただそれを学園に持ち込んで、同じ学生と騒ぐってのはあまりに対応力がない。

 だからこそオレスとジョーの口喧嘩には、先輩たちも対応が雑なんだろう。


「手は器用みたいなんだ。仕事を与えればやるし、やらせられる人が錬金術科にいる」


 それは上級生のキリル先輩。

 ただ予定としては、あと一年学んで国に帰るという。

 そこをどうにか止めて、ルキウサリアで錬金術やってくれないかな。


「殿下、竜人の姫がおりましょう。卒業と同時に国に帰って結婚の予定であったところが、とりやめて滞在を延長するとか。その真意をご存じありませんかな?」


 テスタが言うテルーセラーナ先輩は、黄金以外だとジョーを窘めていたくらいしか印象がない。

 けど身分を思えば何か察してルキウサリアを探るために残る可能性もある。


「留学から戻って、ちょっと話した程度だからな」


 するとテレサが別口の情報を知っていた。


「あの、ウェアレルさんの同輩の縁者だという話を聞いたことがあります」

「同輩? あ、九尾の誰かか。確か竜人三、四人いたよね」


 面白半分で聞いた話で、僕もうろ覚え。

 するとテスタが。


「であれば、九尾の貴人か、奇人か。聖人と呼ばれる者は混血であったかと思いまする」

「王族出身だってことを思えば貴人かな?」


 ウェアレルと同じ歳の相手なら、子供にしては大きい。

 だったら、親戚か姻戚か。


 学園からの基本情報では、魔法学科でもやっていける腕前だということ。

 まぁ、そういう評価の人はテルーセラーナ先輩以外にも、メル先輩やイア先輩、キリル先輩もそうだった。

 その中でもテルーセラーナ先輩は、毒についての研究をしていたとか。

 キリル先輩は薬作りだから対極的な人だ。


「実は、かの竜人の姫からは、毎年一定額の寄付をいただいております」


 聞けばテスタの持つ研究施設に、テルーセラーナ先輩の名前で寄付が寄せられてる。

 そこは難病の子供を被検体として集めた施設で、場合によっては親から買うこともあるそうだ。


「うーん、ってことは毒扱ってるけど実際は薬作りの過程だったり?」

「その気があるのならば錬金術も修めておるので、やぶさかではないのですが。そうした動きはなく」


 結婚予定を投げて滞在してるけど、テスタのところに就職活動もしてない。

 通学はしないけど、毒の研究をすると思われる。


 テスタも、そんな卒業生たちを封印図書館に関わらせるかどうか悩むところらしい。


「ここは殿下がおっしゃるように、封印図書館の本を紛れ込ませて様子を見るべきかもしれませんな」


 テスタは、有用な本を見つけ解読できるかの腕を見たいそうだ。

 その上できちんと報告するかどうかも見ようという。


「独占するような動きがあれば、外せばよいだけのこと」

「そんなスパイを炙り出すために言ったんじゃないんだけど」


 僕が脅したこともあって慎重になってるってことかな。

 それに他国に持ち帰られると困るのも確かだ。

 帝国とルキウサリアでお互いに首輪でつなぐようなことした意味がなくなる。


「殿下のように婚姻で味方に引き入れたほうが早いとは思いますが」

「それも別にそう言う意図だったわけじゃないから」


 ヒノヒメ先輩とチトセ先輩は、春を待って帝都へ行く。

 半年宮殿に上がれるよう準備を整えてから家庭教師になる予定だ。

 一応妃殿下への手紙にはヒノヒメ先輩の魔法の属性が偏っていることを記した。

 妃殿下なら家庭教師候補ということで、調べてくれるはず。

 帝都にまだ戻れない分、少しでも手助けになればいいな。


定期更新

次回:新たな錬金術3

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― 新着の感想 ―
[一言]  「錬金術(科学)」が発展してもそれを実現させる技術と技術者が居ないとどうにもなりませんな。  電気をはじめ土木や冶金、製薬に医療とやろうと思えば人の一生ではどれかひとつくらいしか向き合えな…
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