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285話:上映5

 学園のマーケット五日目。

 急だったけど双子は正式に招かれて、マーケットで行われる音楽会に演者として参加。

 父から聞いた近況で、芸術方面に家庭教師を強化したと聞いてたけど、すでに天性の才能があるらしい。

 残念ながら僕には、聞いて上手いなと思うくらいの感性しかないんだけどね。


 午前から練習もあり、双子は学園へいった。

 だから僕も今日は午前から、マーケットの出し物の手伝いをする。


「ですから、このような絵の連続が動いて見えると言うのは…………」

「何かの魔法だろう。いったい何処にどんな仕掛けがあるのだ?」

「あちらの回していたのが魔法を発生させる装置では?」

「うむ、幻影をあれだけ滑らかに動かせる魔法であれば目くらましとして有用だ」

「ですから、これは、魔法ではなく錬金術です」


 僕は観覧者の対応に当たってるんだけど、早くも疲れた。

 同じような説明が周囲でもされてるし。


 上映時間二十分くらいなのに、説明が一時間以上かかる。

 そして錬金術科の催しなのに、何故か魔法だと思う人多数。


「あぁ、喉が荒れそう。ワンダ先輩すごいな」


 ようやく観覧者をテントの外に出して、お昼の休憩に入る。

 ぼやく僕に、テント内部を受け持つクラスメイトたちが揃って頷いた。


 八時から準備、九時スタートで、そこから午前は二回上映。

 その間に喋るワンダ先輩も、もちろん上映が終われば説明に回る。

 けど全然元気で、午後もまた喋って説明してまた喋ってをするんだ。

 錬金術科は人数が少ないから、交代要員いないのに。


「アズ、いるか?」

「失礼します。差し入れをお持ちしました」


 やって来たのはソティリオスとディオラ。

 始まりと終わり、そして昼はマーケットをやってる学生が全員、一斉に取るから手が空くのは必ず昼。


「わざわざ休憩時間に、ありがとう」


 差し入れはデザートにできそうな栗のお菓子。

 栗を粉にして作ったケーキだ。

 パサつくけど香ばしくて優しい甘さがある。


 合わせてポットにお茶まで入れて持ってきてくれてた。


「こうでもしないと感想も言えないと思ってな」


 そう言うソティリオスは、上映には取り巻き連れて観に来てた。

 ただその後の説明に追われる僕らも見てたから、挨拶一つで帰っていたんだ。


 ディオラもやっぱり取り巻きを連れて上映に現われ、説明を真面目に聞いた上で、魔法だと言い張る人たちに魔法ではないって説明に回ってくれた。

 結局取り巻きから時間と言われて慌てて帰ることになってたんだよね。


「錬金術はこんな使い方もあるんだな」


 ソティリオスが知るのは山を穿つダイナマイトだから、それはそれで偏ってもいるけど。


「錬金術は本来、真理を探究するんだ。つまりは魔法のように使うことを前提にしない。なぜそうなるのか、そうなったからにはそのさらに細かな共通する現象の元は何か。そういうことを探求するんだ。使い方はそれぞれだよ」

「つまり、真理を探究する中で、今までは知られていなかった現象を自ら再現して提示する。いわば再現する手段を構築しただけ。それをどう使うかはまた別ということですね」


 僕の説明にディオラが応じる。

 手紙でも錬金術については語ったし、その辺りの呑み込みは早い。


「留学中も、確かにことの原因を探って、解決を提案していたな」

「まぁ、アズはいったいロムルーシで何を?」


 思い出すように言うソティリオスに、ディオラが目を輝かせる。

 止めようと口を開いたら、ネヴロフの冬毛に突っ込まれた。

 いや、これ口押さえられたのか。

 掌まで長くて密集した毛があるのか、肉球を覆うほどに長いのか、どっちだ?

 僕が状況を考えてしまう間に、クラスメイトたちまでソティリオスの話を面白がる。


「むー」

「私は嘘は言っていないだろう、アズロス」

「むふん」


 もふもふの毛皮に口を塞がれたままの僕に話しかけるソティリオス。

 何言ってるかわからないんだろうけど、不満だけは伝わってるようだ。


 そんな話から、上映の感想、今回の錬金術科の注目度、と話は転がり、気づけば昼休みも終わる頃。


「戻ろう、ディオラ姫」

「それでは、お邪魔いたしました」


 二人もマーケットのために持ち場に戻っていく。


「なんか、あの二人ダンジョン行ってから一緒だな」

「以前学内で見た時にはもっと距離があったはずね」


 見たままを言うネヴロフに、怪しむような視線を向けるイルメ。

 ウー・ヤーとラトラスは、揃って顎に指をかけて言い合う。


「あの姫は最初からこちらに近づこうという気概はあったが」

「ソーのほうが変にもじもじしなくなって話しやすくなったんじゃない?」

「お前ら、そういうことは他に聞こえるところで言うなよ」


 エフィの指導が入って、僕たちも午後の準備にうつる。

 ちょっともやっとする、勝手な気持ちは振り払おう。


 午前と同じ事を繰り返し、片づけを終えて、そのまま帰宅はできない。

 屋敷に戻るのは、湖からの帰りを装ってからだ。

 そうすると屋敷に帰りつくのは日暮れの直前になってしまう。


「「兄上お帰りなさい」」

「ただいま。ワーネル、フェル。マーケットの音楽会は楽しめた?」

「うん、すごく楽しかった!」

「踊りに合わせて弾いたよ!」


 ルキウサリア滞在中はこの屋敷に泊まってる。

 その上で、僕は二重生活のこともあって双子と話せるのは朝と帰ってから寝るまでの間しかない。


 一応、双子に二重生活ばらしていいか聞いたんだけど、父からの答えはノー。

 テリーもそうだったけど、九歳になった今家庭教師なんかの周囲の人間が増えてて漏洩の恐れがあるそうだ。

 残念。


「それでね、やっぱり錬金術科の動く絵に音楽つけたいって思ったの」

「あの喋ってた人の声の抑揚すごく音楽と合うと思うんだ」

「錬金術科の催しは、そんなに楽しかった? ウェアレルに言って、伝えてもらうようにしようか」


 帰ってからお喋りをすると、二人は今回の外遊に満足しているようだ。


「テリーも来られたらよかったね」

「うん、でも兄さまは春にレクサンデル大公国行くから」

「競技大会で挨拶するからって、大公国の人とお話し合いしてたよ」


 テリーの外遊は春にレクサンデル大公国へ行くこと。

 僕とルキウサリアには来たことあるから順当だろう。

 レクサンデル侯爵は皇帝派閥に敵対的だけど、近くにルカイオス公爵の領地もあるしね。


 そう考えてたら、何故か双子のお喋りが止まる。

 見ると顔を見合わせていた。


「どうしたの?」

「僕たちもまだちょっとよくわからないんだけど、変だなって思って」

「あのね、いつも駄目っていう大人がいいよって言って外遊になったの」


 双子がいうには、父は思いつきに近い形で外遊を提案した。

 と言っても、ルキウサリアにテリーはすでに外遊したし、僕も表向き留学してる。

 双子にもそろそろとは思っていた人は父以外にもいただろう。


 その父もまだ根回しとか段取りとか、フォローは与党のルカイオス公爵が上。

 そうなると敵対派閥もいるわけで、皇帝の皇子が外遊するなんてすんなりとはいかないはず。

 なのに今回は随分早く、貴族たちから許可が出たそうだ。


「レクサンデル侯爵って、接待役の兄上困らせた王女がいるでしょ」

「乗り気すぎて、兄さまの婚約者にしたいんじゃないかって言ってた」

「え、ユードゥルケ王女? うーん、年齢の差的にはありだろうけど」


 以前出会ったままならテリーと性格が合わないんじゃないかな。

 それに政治的にもうまみが少ない。

 レクサンデル侯爵も派閥と国を支えるのは、古い歴史に根差す独立不羈の風潮に支持を得てるからだし、今さら皇帝にすり寄るとも思えなかった。


「ワーネルとフェルのことにも、貴族たちは賛成していたの?」

「うん、近衛とかも引き連れていいって」

「兄上と兄さまみたいに挨拶しなくてもいいって」


 面倒な行く途中の挨拶回りが省かれたのは、根回しの時間がなかったからかな。

 けどなんだか帝都から遠ざけるような性急さを感じる。

 いや、その後にテリーも外遊すると考えると、それの後押しのためにまず双子を外遊させてるだけかもしれない。


(離れてるから、これ以上考えてもしょうがない。実際僕に政治的な動きはできないんだ。だから任せるしかないんだけど、なんか怪しいな)


 帝都で政治的な変動でも起こってるかな?

 そうなると、ルカイオス公爵が意見を通しやすくなるような変化かもしれない。

 逆に大したことのない外遊を受け入れる姿勢で、次にユーラシオン公爵辺りが難題を突き付けて来るか。


 ハドリアーヌのナーシャと約束もあり、春にはレクサンデル大公国に行く予定は考えてるし、警戒していくべきかも。

 とは言えまずは、帝都の情報を知るためにも、今の内に人と会う必要があるようだった。


定期更新

次回:大公国へ向けて1

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― 新着の感想 ―
[良い点] もやっとする気持ちがあって安心した! 適度な嫉妬はキャラクターを引き立たせるね
[良い点]  もやっとはするんだねアーシャ!  そこら辺の情緒、前世のこともあって枯れ気味なのかと思っていたけど、逆に育てる機会が無かっただけかも知れませんね。 [気になる点]  まあ何らかの、政変に…
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