284話:上映4
学期末の試験が迫る中、試験前のマーケット準備を終えた。
明日から試験だけど、王城に問い合わせたところ試験が終わった頃にワーネルとフェルは到着予定だそうだ。
夕方到着の予想だから、前の街に一泊して翌日午前に来るんじゃないかって。
「けど、ワーネルとフェルはきっとそんなことしないだろうな」
僕は試験のために復習をしつつ、試験よりも先のことを考えていた。
そして試験が終わった日の夕方、予想どおり夜も近くなって屋敷に来訪の報せが届く。
「日も暮れた時分に申し訳ありません、兄上」
「ご挨拶申し上げたく、ワーネルとフェルが参りました」
九歳になって、すぐさま崩れることもないけど表情は子供らしい期待に輝いてた。
もちろん僕だって準備万端で出迎えている。
「謝る必要はないよ。お城のほうがいいと言われたら待ちぼうけだった。よく来たね」
「そんなことしないよ、兄上」
「話したいこといっぱいあるよ」
形式的な挨拶は終わったとばかりに、一年前と変わらない元気さで双子は言い募る。
「まずは長旅で疲れたろう。お話は明日。城からの予定もあるからね」
「「えー」」
やり取り一つ一つが懐かしい。
それに二人とも一年でまた背が伸びてる。
そういう変化に触れて、騒ぎたい気持ちはよくわかった。
けどもう夜だ。
王城からの報せでは、到着の挨拶だけで食事もしてないという。
「まずは休んで。その後に食事。そして寝る前に、少し話をしようか」
「「うん、あ、はい」」
声を揃えて言い直す姿は可愛い。
テリーもそういう返答してたことあったよね。
やっぱり通信できると言っても、音だけだと味気ないしわからないことも…………いや、けっこう興奮してたのは早さからわかったな。
でももう少し交流してる感が欲しいとは、留学の時から考えてた。
それもまずはワーネルとフェルと話してからだな。
「あのね、父上がね!」
「それで、母上がね!」
「兄さまがね!」
「ライアがね!」
寝る前にと言って話し始めると、ワーネルもフェルも止まらない。
僕も近況を聞けるのが楽しくて、ついうんうんと聞いて止めないせいもあるんだけど。
父とは伝声装置でやり取りしてたとはいえ、あくまで仕事。
手紙も月を跨いでのやり取りしかできないから、初めて聞く話も多い。
父が髭を伸ばそうとして妃殿下に駄目出しを食らったとか、テリーが他国の大使と会食をして同席した令嬢と一時噂になったとか。
王女しかいない何処かの王家が双子のどちらかを婿に欲しいと打診して来たとか、ライアが水属性の上位、氷魔法を使おうとしてるけど上手くいってないとか。
「ご歓談中失礼いたします。間もなく就寝のお時間です」
話は尽きないし広がるばかりだったんだけど、容赦なく言葉を差し挟むのはノマリオラ。
周囲にはルキウサリアから派遣された侍女や侍従、さらには双子について来た者たちがいた。
黙って控えていた人たちは、揃って驚いた顔をノマリオラに向けてる。
どうやら皇子同士の会話を遮ることができずに、誰も言い出せなかったようだ。
「ありがとう、ノマリオラ。ほら、ワーネル、フェル。今日はおしまい。今寝ないと明日の朝食を一緒にできないかもしれないよ。僕は日中は予定があるから屋敷にはいないんだ」
「むぅ、寝る。寝るよ。でもまだ兄上のお話も聞いてない」
「うん、だから明日ね、お話しよ。兄上の話も聞かせて」
屋敷の使用人が双子を案内し、部屋を出て行く。
それに合わせて帝都から同行した者たちも退室した。
僕は室内に残った馴染みの面々に目を向け。
「思ったよりファーキン組のことで陛下が手を取られているようだ。妃殿下の言動から、ユーラシオン公爵もそっちに注力してるらしい」
双子の話から、推察できる帝都の状況があった。
それで言えば、ルカイオス公爵がフリーの状態のようだ。
大人しく派兵の後始末で疲弊した派閥の回復に努めるとも思えない。
そこに来てこの双子の外遊だ。
その後にはテリーが春に外遊するとも聞いた。
父の提案に賛成した思惑がルカイオス公爵にはあるんだろう。
「テリーを皇太子に上げるにもまだ足りない。たぶん立太子時期として睨んでるのは、入学前の二年後として…………」
「はいはい、殿下。早急に対応することないなら今日はそこまでです」
「明日も午前は湖、午後は学園でしょう。マーケットもあるのですから」
「試験結果が問題なかったからと言って疲労は解消しませんよ」
ヘルコフが言い出し、イクトがさらに理由を上げる。
そしてウェアレルがまだ発表されてない試験結果を半ば暴露してた。
留学中に受けられなかった授業分不安だったけど、どうやら問題ないそうだ。
「二日後にはマーケットが始まり、七日間の開催でしたね」
「えぇ、その間に弟殿下方のパーティへのご同伴も予定されています」
ウォルドとノマリオラがいうとおり、双子はマーケットへの寄付名目でやって来てるから、マーケット前には寄付者を集めてのルキウサリアの城でのパーティが開かれる。
そうでなくても二重生活でマーケット準備も忙しくなるんだ。
結局、僕も早く寝ろと言われてしまった。
それからの二日は大忙し。
湖での研究を一時的に止めて、渋るテスタを連れて王城へ。
双子のフォローに回ってパーティ出席のための準備も必要だった。
「僕が喋っても、笑っちゃ駄目だよ」
そう双子に注意するのは、家の代表として学生もいて参加するから。
もちろん中にソティリオスもいるんだよ。
王城には言ってあったからディオラにフォローお願いして、僕のほうに来ないようしてもらったりもした。
そうして三日後には、マーケットを見たいという双子に合わせて、僕がいない時間に行くよう調整したり。
「ごめん、色違い先生の手伝いが長引いちゃって」
打ち合わせた言い訳を使い、僕は錬金術科がマーケットで開いてるテントに遅れて入る。
今日のマーケットはすでに終わって、一時的な片づけと翌日の準備をしてるはずだった。
城からの案内役の誘導でワーネルとフェルがちゃんと学園から出たことはセフィラで確認済み。
だから問題なく戻ったんだけど、錬金術科の学生が揃って難しい顔で動かなくなってる。
「どうしたの?」
え、弟たちが何かした?
いや、まさか二人に何かあった?
(ありません)
(え、じゃあどうして?)
僕の不安に応じて、セフィラが光を文字にして教えてくれる。
その間に僕の存在に気づいたラトラスが声をかけてくれた。
「あ、戻ったんだ。アズがいてくれたら良かったのになぁ」
「いったい何があってこんなことになってるの?」
「帝国の幼い皇子たちが来たのよ。それでだいたいのことをすでに知っていたわ」
イルメがムッとしてるのは、催しの意義を潰されたかららしい。
エフィは座り込んで膝に肘を突いたまま、眉間にしわを寄せている。
「しかも口を揃えておっしゃるのは、兄上から教わった、だ」
あ、はい。
エッセンスはもちろん、光や音の特性なんかの体感して面白いことはだいたいね。
炎色反応もやったことあるし、エッセンスから作る色も水遊びで使ったし。
完全に知らないのは、トリエラ先輩を筆頭に作ったお菓子類。
ただそれも皇子としての食に比べると、色々劣るだろう。
あと、双子は庭園の薬草類にも触れているから、薬学に関しても無知ではない。
「やっぱり第一皇子の錬金術ってすげぇよな」
「あ、ネヴロフは元気だ」
「そこは第一皇子がそもそも錬金術のきっかけだからな」
手応えがなさすぎてため息を吐くウー・ヤーは、ネヴロフに対しても溜め息を吐く。
話してると近くの先輩たちも話し始める。
「正直、あの両殿下に教えることあるのだろうか?」
「教師が必要やいうのが、その第一皇子殿下やからねぇ」
チトセ先輩が不安を覚えたようだけど、ヒノヒメ先輩はあまり気にしてないようだ。
ネヴロフ以外にもけっこう普通なのはワンダ先輩。
「ふふん、私の語りをとても楽しんでくださいましたわ!」
「なんでかワンダは子供に人気なんだよな」
「音楽合わせないかって助言までもらってたし」
ジョーとオレスが言うのを聞く限り、どうやら双子は楽しんでくれたらしい。
ワンダ先輩の語る童話を楽しみ、映像に合わせて音楽を奏でたほうがもっと面白いというようなことを言ったそうだ。
先輩やクラスメイトたちが自信喪失しそうになってるけど、そこはやっぱり四年やってるしね。
答えを知ってる僕が教えた形だから、差があるのは諦めてもらおう。
理屈を知っていても楽しめる娯楽だと証明されたんだから、良しとしないとね。
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