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278話:虫捕りダンジョン3

 現われたムジナと呼ばれる魔物は、毛を逆立てて僕たちを威嚇する。


「あれは昆虫を食べる魔物ですが、肉も千切りますのでご注意を!」


 牙の危険性を叫ぶディオラに続いて、魔物を調べたネヴロフも注意した。


「確か後ろ回られると弱いってあったぜこいつ」

「通路の都合上それは無理だわ。ラトラス、次の広間は?」


 イルメに答えるラトラスは、ムジナを指差す。


「ちょうどそいつの向こうだ。真っ直ぐ行くと階段なんだけど」

「ここでやるか、走って階段前のスペースに移動するかだな」


 二択を上げるエフィに、僕はディオラの情報を参考に声を上げた。


「こいついるとバッタ食われた後だってことでしょ。だったら移動と体力を考えて階段」


 そう言ってる間に向こうも僕たちの出方を窺って止まってる。

 今がチャンスとみて、ソティリオスも指示をだした。


「前衛で止めろ! 急げ!」


 すでに対峙した状態のウー・ヤー、エフィ、ネヴロフが腰を落とす。

 僕たち中衛と後衛は急ぎつつ、刺激しないようじりじりと階段に向かって移動を開始。

 ムジナから距離を開けると一斉に走って階段へ向かった。


 このダンジョンは人工物なので、階段前にはスペースが用意されている。

 本来は下階へ向かう際の休憩や隊列変更のための場所だろう。


「階段前に他の人も魔物もいないわ!」


 イルメが場所を確保したことを告げた。

 前衛三人が退くと、ムジナも追って来る。


「中衛は援護を!」


 ソティリオスは階段前から水を放ってムジナの気を引く。

 イルメも射かけて即応。

 遅れてラトラスも身体強化で速さを上げて、ムジナの気を逸らすため廊下へ取って返す。


 退いて来た前衛三人が、階段前の広い場所で体勢を整え直した。

 その間にムジナも階段前に誘い出される。


「奴を挟むか?」

「いや、固まったほうが確実だ」

「じゃあ、一緒に右行くか」


 ウー・ヤーに聞かれてエフィが答えると、ネヴロフが本格的に身体強化の魔法を発動。


「ソー、イルメ、ラトラス。左に攻撃集中させて」


 僕が指示を出すと、応じて中衛が左にムジナの意識を逸らすべく動いた。

 その隙に前衛三人が右へと動き、ムジナは半端に爪を振り牙を剥く。


 挟み込めば後は時間の問題だった。

 ソティリオスとエフィが両側から毛皮を燃やし、ウー・ヤーが切りつけた傷をネヴロフが広げる。

 イルメは矢に風を纏わせより深く食い込ませることで内臓ダメージを蓄積させた。


「わー、容赦ないなぁ」

「けどあれじゃ売り物にならないよ」


 後衛の僕たちのほうに退いて来たラトラスがぼやくのは、毛皮のことかな?


「確かにムジナの毛皮も素材として買い取りがされています。しかし浅層なので安いため、安全を考慮すれば固執する必要もありません。余裕がないなら欲を出さないようにしてください」


 ウェアレルが教師らしく安全第一で忠告する。


 そしてムジナは左右からの攻撃によって、明らかに動きが悪くなった。

 後はとどめと見極めた者たちが、首を狙い始める。


「本当に容赦ないっていうか、手慣れてる。それで言えばアズは、本当にこういう時動かないんだな」


 ラトラスというか、みんなどれだけ僕が猪突猛進だと思ってるんだろう。


「ネクロン先生が言ってたこと? うん、僕は狩りを見たことはあっても自分でやったことはないからね。倒すとなると足手まといでしかない」


 死なないとわかってる攻撃ならガンガンやる。

 けど、命を奪うための攻撃となると、そこには覚悟が必要だと思う。


「ラトラスは? 商人として旅の経験もあるし、途中で生き物獲ったりしなかった?」

「いやぁ、死んだ後の鳥を料理するために解体はしたけど、〆るのは他がしてくれた」

「そうなのか? 俺の村じゃ鳥〆てこいって親に言われる子供の仕事だったぜ」


 とどめを刺したネヴロフが立ち上がりつつ言う。

 どうやら弱ったムジナに組みついて首を折ったようだ。


 その後ろでムジナを前に、ウー・ヤーが首を傾げた。


「さて、魔石どの辺りだろうな?」

「ダンジョンの魔物にも魔石があるのか?」


 ソティリオスも留学の時に魔物の解体は見てるけど、だからこそ疑問に思ったようだ。


「それよりも解体するなら死体の処理を考えなければいけないわ」

「いや、確か死体は処理しなくても大丈夫だと、聞いたことが、ある」


 イルメが注意すると、エフィが思い出せない様子で語尾が怪しくなった。

 ウェアレルに聞こうと思ってみたら、視線を受けて何故かディオラのほうに声をかける。


「ディオラ姫はごぞんじですか?」

「は、はい」


 声を跳ね上げたディオラは、まだ緊張した様子でいた。

 どうやら知識はあっても、魔物との戦いは初めてだったらしい。

 いや、間近で見るのが初めてだったのかな。

 目の前の戦闘に意識を呑まれていたようだ。


 静かにしてるから落ち着いてるのかと思ったけど、もっと目を配らないとな。


「ダンジョンは本来魔力が溜まった場所で、自然物。ですが、ここは人工ダンジョン。死体はダンジョンに回収され、ダンジョンを維持するために使われると聞きます」


 どうやらそういう魔法が施されているそうだ。

 そして対象はダンジョンで生まれ育った魔物限定で、よりダンジョンと親和性の強い個体であり、外からやって来る学生が取り込まれることはない。


 ただ素材は早く回収しないとダンジョンへ小一時間で吸収されて消えるという。


「魔物の大きさでダンジョンに取り込まれるまでの時間は長くなります。基本的にダンジョンの床に触れていることが取り込まれる条件ですから、欲しい素材は死体から離した上で、床にはおかないこと」


 ウェアレルの説明を聞いていると手に熱を感じた。

 セフィラからの情報を見れば、床石の裏にびっしり魔法陣があるそうだ。


 つまりはダンジョンには死体回収を行う魔法が施されている。

 興味はあるようだけど調べろと言わないのは、どうやら魔法だけで構成されてる錬金術とは関係ない代物だかららしい。

 魔法関係ってセフィラ自在だからね、僕に聞く必要ないってことだろう。


「連携は良いようですし、手堅い攻略です。慣れれば素材を保全して戦うこともできるでしょう」


 ウェアレルに言われて、敵を倒すと言うダンジョンの攻略をしたんだと実感する。

 というか実際やってみないとわからないことが多いし、ダンジョンのことを調べたはずがけっこう抜けもあるようだ。


「一度ここで、バッタに出会った際の行動の確認をしましょう。もちろん状況として、このように動ける場か、通路のように体勢を整えなければいけないかの状況判断も誰が行うか事前に決めておくと良いでしょう」


 ウェアレルの指示に従って、休憩込みの相談に入る。

 そうなると、戦闘経験のあるウー・ヤー、イルメ、エフィが中心になった。

 特に虫の魔物を討伐したことのあるイルメの意見が役立つ。


 解体に関してはラトラスとネヴロフが、解体を見た機会の多さからよく意見を出した。


「準備できたと思っていたんだが、足りなかったな」

「そう言えば、学園の図書には魔物の解体についての専門書がありました」


 あんまり力になれなかったと反省するソティリオスに、ディオラが情報の取りこぼしを嘆く。

 これはセフィラが喋れたらたぶん出してくれた情報だな。

 いや、一晩あったし僕が聞いておけば良かったんだな、これ。


 あと、ウェアレルも情報の取りこぼしは知ってたんじゃないかな。

 そこは教師として生徒の自主性を重んじて口は出さなかったんだろう。

 致命的な失敗でない限り、こういうのも実地で得られる経験だ。


「初めてですから今の気づきを次に生かしましょう」


 ウェアレルにそう諭され、それぞれが悔しさを飲み込む。

 特に育ちのいい王侯貴族は、教育上間違わないことが大前提にされるから、気にしているようだ。

 テリーもそういう感じで気にしすぎてたことがあったんだよね。

 間違い一つで罰を受けたとしたら、連座で従う者すべて道連れにしちゃう立場だと責任感は大事だと思うけど。


「幸いこちらの人数が多いことで、ムジナのほうが気後れして攻撃に勢いがなかった。ちょっと爪をひっかけられた程度で、怪我をした者はいないし、悪くはないね」

「次は、私もお役に立ちます」


 僕が現状悪いわけじゃないと言うと、ディオラが胸の前に拳を握って訴えた。


「苦手なことを無理にしなくてもいいよ。他に役立てることを一緒に探そう」

「一緒に? …………はい!」


 気負うディオラに声をかけると、嬉しそうに返事をしてくれる。

 なんかソティリオスに羨ましげな視線を向けられた気がしたけど、休憩を終えた僕たちはバッタを求めてさらに下へと階段を下りた。


定期更新

次回:虫捕りダンジョン4

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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・帝国貴族子息に流行ってる魔法の精密操作の出番では? 異動して欲しくない所に火の玉配置しとくだけでもかなり楽になるんじゃなかろうか?
[良い点] 人工ダンジョンが思ってたより優秀…! 持ち帰りも埋めるのも楽じゃないですからね、放置できるの助かりますね。 十代半ばの子達が熊と戦ってるような感じかなと考えると、すごいですねぇ。そりゃあ…
[良い点]  祝初勝利?  字面からはわからないが内心興奮していたりするのだろうかアーシャ。  異世界でダンジョンなんてテンション上がるの必至かと思ったけど、アーシャ自体のめり込む姿勢を他者に見せるの…
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