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259話:ルキウサリアへ復学4

 ルキウサリア国王と面会して、僕はあったことを時系列で説明した。

 つまりは、ファーキン組からソティリオスの誘拐。

 助けて協力要請から、イマム大公の手伝い。

 お家騒動は濁しつつ、錬金術師の痕跡は伝え、イマム大公の協力の下実験をした結果も開示する。


 そしてヨトシペの特異な身体強化魔法を、呪文化するための協力要請もした。

 イマム大公とハドリアーヌ王女からは前向きな返事はすでにもらっていることも添えて。


「いやぁ、大騒ぎでしたね」

「テスタもいたからね」


 僕は王城からヘルコフと馬車で、偽装のために湖へ向かっていた。

 それにテスタも同行する予定だったけど、ヨトシペのことで城に残ってる。


 薬に負けない体力をという話にめちゃくちゃ食いついたんだ。

 その上で、僕が魔法は門外漢だと逃げたことで、代わりに城の魔法関係の学者が質問攻めをされることになってた。

 薬を作る側からすると、副作用への対応って相当厄介らしい。


「ご主人さまのお考えが実現されれば、妹のように苦しむ子供を減らせるでしょうか?」

「そうだね、テレサも運動できずに体力ないほうだったそうだし。耐えられるだけの体力は作れるかも知れないと思うよ」


 ノマリオラも同乗していて、どうやら妹に絡めて興味を持ったらしい。

 子供の内から体づくりできないと、他の大病を患う可能性もあるからね。


 王城が騒がしくなったのは、大まかにはロムルーシにあった錬金術の成果と問題点を伝えたためもある。

 イマム大公領で起きていた害についてや、ヨトシペからもたらされた八百年前の天才の系譜である錬金術師が世界に散らばっていたという事実なんかだ。


(言語さえ周辺の獣人と違うヨトシペの出身地まで、錬金術師は至ってたなんて。ヨトシペから聞かなきゃ知ることもできなかったよね)

(地下に残された文言の真意を主人に伝えたのは、ルキウサリアでの封印解除を確信したため。であれば、情報を円尾が持つことをルキウサリア側に秘匿する意味はないのでは?)

(そこは、呪文関係で一波乱ありそうだから。別問題で煩わせるのも、成果が出るのを遅らせるだけだと思うんだ)


 錬金術師の贖罪の旅について僕に教えてくれた、ヨトシペの関与は伏せてある。

 もちろんソティリオスから聞いた秘宝についても伏せたけど、帝都方面にも伝播してることは伝えた。


「探せばもっと別の錬金術の痕跡あるんでしょうか?」


 湖に着いてイクトと合流し、ここでも改めてロムルーシでのことを話すと、そんなことを言われる。


「そう言えば、結局帝室図書館にあったのは、封印図書館の知識なんですかね?」

「それとは別だと思うよ」


 僕が否定すると、ヘルコフはわからない顔をする。

 周りで話を聞いてた学者たちも興味深々だ。


「やってる感じ、発想が違う。研究思想っていうのかな?」


 言ってしまえば八百年前の天才は、研究思想が科学に近い。

 別々のものを組み合わせて新たな何かを生成する。

 オートマタのような既存の機構とは全く別のものまで生み出せるくらいに。


 けど帝室図書館というか、宮殿の庭園に見られる機構は別ものだ。

 自然にあるものを利用して、水の性質、風の性質、土の性質、太陽の性質なんかをより良く運用する研究思想だ。

 そしてその中には魔法を取り込むことも含まれている。


「最たる例はエッセンスだと思う。あれは魔法を人間が一から再現してる。それでいて、新たに作るんじゃなく、自然にあるものの根幹を突き詰めて精髄と名付けるくらいに理解を深める方向に発展してるんだよ」


 八百年前の天才もゼロから錬金術をしたわけじゃない。

 足がかりにした錬金術はすでにあったはずだ。

 そして封印図書館のような一大技術に発展させているから、そっちはもう別の系統と言っていい。


 帝国に残っていたはずの技術とは別なんだよ。

 エッセンスを作る錬金術師はいるけど、出来の悪さを思えばそっちは枯れちゃったと言ってもいいのかな。


(メイルキアン公爵家の最後の錬金術師はどっちだったんだろう)

(爆発物の技術から、封印図書館であると思われます)

(けど、帝室には帝都を造った錬金術師がいたはずだ。良くて交ざったか、絶えた後に天才の系譜が入ったか)

(現代に継承されていないため、判別不可)


 セフィラの言うとおりだ。

 別だと思うのも、封印図書館にエッセンスを発明したような記述がないから。

 完全に科学のほうに走ってるんだよね。


「お待たせしました、殿下」


 そう言ってやって来たのは、テスタの助手であるノイアンと、もうこっちに常駐してる城の学者ネーグだった。

 両手いっぱいに書類の束を抱えてる。


「もしかして、それ全部半年の報告?」

「まだまとめきれていない物もあり、全部ではありません」


 手伝いで少量の書類を抱えたテレサもいて、そう教えてくれた。

 どうやらここの学者たちとは、僕の影武者してる間に親しくなったらしい。


 それと同時にアズロスとアーシャの動きをずらすために、今日はこっちに泊まりだ。

 アズロスとしては、留学の疲れを取る名目で登校も数日見合わせている。

 その間にこうして半年の報告を受ける予定だったけど…………。


「本来なら湖畔の研究施設が一部入居可能になってる予定でしたが、申し訳ない」

「工事に遅れが出ており、整っておりません。こちらが見直しをした工事計画です」


 ノイアンとネーグは、まず今日の寝床についての説明から入った。

 工事の予定表からすると、半月後には寝泊まりして研究ができる場所が完成するようだ。

 そこからさらに研究施設を機能ごとに増設することを繰り返す計画らしい。


「それで、殿下。ロムルーシで試作なさったレールについてお聞きしたいのですが」

「それはどれほど便利になるのでしょう? 転輪馬との併用は可能でしょうか?」


 報告書を持ってきた割りに、先に伝声装置で伝えていた内容に興味深々だ。

 話聞いてた帝都の学者も前のめりになって来る。


「橇用だからこっちで使うなら馬車用に新たに開発の必要がある。ただこれ、鉄鋼を相当量使うから、すぐに実用化は無理だよ。そしてやるとしたら総延長距離が物をいう。ルキウサリア一国でやるよりも帝国と図ったほうが堅実だと思う」


 インフラ整備の話になるからね。

 前世で、日本の鉄道網は世界レベルだと言われていた。

 それを敷くのも明治から始まって令和の時代にも新幹線だなんだとまだ新たに作ってるくらい。

 普及には百年以上かかるし、国鉄の民営化なんて前世でもあった。

 日本よりも広い帝国で運用となれば、国一つで管理運営は難しい大事業になって行くのは目に見えてるんだ。


「問題は鉄鋼だけど、そこはこっちで車輪用のレールを作って売る形で、鉄鋼をロムルーシから大量に輸入、そして販売で元を取れないかなって。鉱山人力だったから、レール敷いたら運搬が楽になって採掘量増やせると思うんだよね」


 前世みたいに大型重機で大量掘削なんてできない世界だから、まずレールを作る時点で相当な時間がかかる。

 もちろんレールがあっても人力か牛馬が動力だ。

 レールの製錬技術だって前世より低いから、逆に馬力がありすぎてもレールが破損するだけだろう。


 そういうのはイマム大公の所で見せてもらえたから計画しやすい。

 橇の載積量テストの時に、大型で頑丈な橇よりもレールのほうが重みに耐えられず折れたとか言ってたんだよね。


「とまぁ、色々問題点は多い。たぶん使う鉄鋼の量は天の道のほうが少なくて済むんじゃないかな? まずは荷物の上げ下ろしから実用化して、人間を乗せるかどうかは安全性と耐久性をきちんと記録してからだ」


 僕が思うに、ルキウサリアはレールにあまり向かない地形だ。

 下りが危険すぎるから、今までどおり馬車で運転技術を備えた御者を使って事故防止したほうがいいと思うんだよ。

 鉄道が強いのって、やっぱり平地だよね。


 広がりすぎてるきらいのある帝都で、再開発とかできれば父の皇帝としての功績になるんじゃないかな。

 テリーの代になってからの発展も見込める。

 鉄道止められる権限が皇帝にあると明記しておけば、エデンバル家みたいなところが反乱企てても、主要な流通網を握っていられれば強いと思うんだよ。


「転輪馬は、形になったみたいだね。へぇ、馬車よりも早い移動は確定したんだ。疲労の度合いも四人で牽けば軽微。しかも四頭立ての馬に比べて安価なのも確定と」


 けど上り坂に弱すぎるとか、ブレーキを足でやってる所とか、まだまだ改良の余地はある。

 色々と報告がある上で、確認とかやることは尽きない。

 これ数日で学園行けるかな?

 けどここにいる間に確実に済ませるべきこともあるんだ。


「それで、ナイラとヴィーラの報告はどれ?」


 封印図書館の管理を任せているオートマタの活動報告に目を通す。

 目につくのはオートマタ二体同時に稼働させると電力消費が激しいらしいこと。


「一時間が限界か。ロムルーシにはこういう自律指向的なものはなかったし。伝播で欠落したか、それとも施設的な問題で組み込めなかったか」


 電力問題があるとなると、両方ありえそうだ。


「ともかくナイラに確認したいことがある。報告書で急ぎがあったら出して。目を通した後に水底へ潜るよ」


定期更新

次回:ルキウサリアへ復学5

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