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252話:留学の終わり2

 翌日、僕は学校の宿舎へ随行員を訪ねて行った。

 学園関係者の中には、情報技官が数人紛れているんだ。


「呼ばれてきました。錬金術科の…………」

「あぁ、アズロスくんだね。こっちこっち」


 招かれて入った先では見慣れた水晶の機材がある。

 情報技官は見たことない人で、もちろん僕の身元なんて知らないから、学生として扱っていた。


 こっちでも上手くいってないことから、作ったウェアレルを知るヘルコフの紹介という形で僕は今日来てる。

 それと伝声装置の参考になるって王城で僕が言った、小雷ランプを復元したヴラディル先生の教え子として言う立場だ。


「これが伝声装置だ。すでに聞かされていると思うが、これは大変な技術。決して他で口にしてはいけないからね」


 知ってるけど、僕は黙って説明をされるまま頷く。

 その間にセフィラが勝手に走査してるんだけどね。


「質問はあるかな?」


 情報技官たちが不安そうにしてるのは、本人たちも専門じゃないから。

 前世的にはコールセンターの人員であって、システムエンジニアなんかじゃないってところだろう。


「内部構造を確認させてください。それで小雷ランプの原理がどれくらい通用するのかを知りたいです」

「えっと、ちょっと待って。確認をしてくる」


 それらしいことを言ったけど、わからないからまず上司に確認を取りに行った。

 機密だからしょうがないか。


 時間はかかったけど承認してもらい、内部を見た限りこっちは外付けなしでも魔力で圧をかければ行けそうだった。

 やっぱり小型はそれだけ出力が弱いのが問題なんだろう。

 受信に関しても外付けを置かないと弱いままだろうなぁ。


「で、魔力を賄う方法ですけど、うーん。どうすべきか。もう直接ここに送り込んでみます?」

「はい?」


 情報技官たちは揃って疑問符を浮かべる。

 うーん、自分でその方法を理解して実践した双子の弟たちが誇らしくなるね。

 そんなことを思いながら、僕はやって見せた。


 配線をいくつか弄って取り出し、その端を持って直接魔力を流す。


「こうやって、魔力を流して出力を底上げします。魔力の同調による音の発生に関しては、こっちの経路なんで、よほど相性が悪くなければ通じるだけはするかなって」

「えっと、やって、みましょうか?」


 その場にいる情報技官たちで試し、三人が魔力を送り込んで一人が通信のために集中することになった。


 すると、通信していた情報技官が肩を跳ね上げて眉間を険しくする。


「大丈夫ですか? 何か問題でも?」

「だ、大丈夫。なんか変な響き方だけど、確かに聞こえたわ」

「どんな風に変か詳しくお願いします」

「えっと、雑音が多いのと、声の高低が狂ってる感じで、お化けみたい。正直気持ち悪い」


 僕としては音声の再生速度を変えた時の違和感程度を想像できる。

 けどそんなもの聞いたことがない情報技官たちは嫌そうな顔だ。

 それでも使えるようならと、上司からはゴーサインが出された。


「魔力はやっぱり混ぜると同調の邪魔だな。そのせいで音に乱れが激しいし一定でもない。魔力の質を整える機構でもあったら良かったけど。別人から取るせいで波長が変わるのはしょうがないにしても、魔力を多く送れる、単一の、波長…………? あれ、これってつまり…………」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 呟く僕の言葉をメモしてた情報技官が止める。

 そんな大したことじゃないのに。


「それで?」

「えっと、ヨトシペっていう円尾の超人知ってますか。あの人が呼吸で魔力を増やせる特異体質なんですよ」


 知らなかったらしく驚かれるけど、中には聞いたことがあるという人もいた。

 そして僕と同じことに気づいたようだ。


「え、もしかしてこの配線円尾の超人に握ってもらえていれば、もっと安定して使える?」

「じっと魔力送るだけなんて本人が嫌がりそうですし、今はイマム大公の領地にある山に登ってますけど」


 僕の答えにがっくりしてしまうけど、それでも参考までにと書いている。

 これらを後で報告書にするそうだ。


 そしてルキウサリアとやりとりして向こうの情報が来た。

 僕もその場で聞かせてもらえる。


「トライアンの港町、大変そうですね? 帰る時どうなってるでしょう?」

「トライアン王国、ハドリアーヌ王国、帝国にルキウサリア王国まで調査団を組んでるとなるとな」

「ユーラシオン公爵令息が場所特定して潰したんでしょ、すぐ退くかもよ」

「だったら港町じゃなく、本拠地のある王都で摘発と責任問題で荒れるんじゃないか?」


 僕の質問に情報技官たちが口々に推測を上げた。

 新しくできた役職だから若い人が多い印象だ。

 全員が風属性を持つ双子の片割れってことで、年長者も捜してはいるんだろうけど。

 そんな急に集められて腰軽く応じるのは、若い人ってことなんだろう。


「周辺国も被害あるだろうし、ファーキン組どうにかするなら口出しもあるかも」

「そろそろ帰りのこと考えないといけないけど、イマム大公のほうで問題あったでしょ」

「ユーラシオン公爵令息は、港町でも今回も事件に巻き込まれてばかりだな」

「は、はははぁ」


 軽口なんだろうけど、僕は反応しそうになって愛想笑いで誤魔化す。


 そこに上司の人が顔を出した。


「休憩してる暇はないぞ。小雷ランプの内部構造に詳しいなら、教えてくれ。お前たちも聞いてできるだけ覚えろ」

「え、小雷ランプですか?」


 上司の人に突然命じられたのは、もちろん僕が言ったことが発端だった。

 その場で思いつくまま電池的な発想で伝えた魔力の貯蔵と機器への接続は、今までにない高効率な魔力の伝動方法だったらしい。


「溜めても全てを使えるようなものではなかった。それがとある方の助言により、より無駄なく使えるようになりそうなんだ。そしてその機構を理解するには小雷ランプの造りを理解しなければいけないとの助言を受けている」


 そのとある方、第一皇子って言うんですよね、知ってます。


「ただ、小雷ランプは再現が発表されてからも注目されず、錬金術科の教師が馴染みの鍛冶師? 技師? とか言うところに頼んで受注生産だけ。つまり、在庫がない」

「あぁ、だから物がなくても覚えてる僕が」

「できるか?」

「それくらいなら。学園でヴラディル先生に教材として触らせてもらいましたし」


 どうやら駄目元だった上司はほっとしたようだ。

 僕としては技師と言う言葉が気になるけどね。


 もしかしたら錬金術の道具を作る人かな。

 そして、セフィラも走査しきれなかった錬金炉の内部構造を知ってる人かもしれない。

 他にもやること多くて聞けてなかったけど、学園に戻ったらヴラディル先生に聞いてみよう。


(すぐに行動すべきです。優先度の高い事案であると提言)

(いや、錬金炉がどれくらい普及してるかをまず知らないと。そこでしか作ってないなんてなったら、僕が何処で知ったかって話になっちゃうから)


 まずはウェアレル伝いに探ってもらおう。

 いや、いっそアズロスとしてではなくアーシャとして堂々と聞いたほうが早いか?


 そんなこと考えつつ小雷ランプの図を描いて説明する。

 ここでも理科知識がないせいで、回路っていうエネルギーの流れる道があるという概論からになってしまった。


「失礼する、アズロスはいる…………か? 何をしているんだ?」

「ソ、ソー。どうしたの? こんな所で?」


 扉をちゃんと閉めてなかった上司まで、説明をそのまま聞き入ってたせいで、ノックと同時に室内に顔を出すソティリオスに気づくのが遅れた。

 情報技官たちは一呼吸の間に伝声装置に布をかぶせて隠し、上司は無言で頭を下げて平謝りをしている。


「宮殿の塔の見学と、給水に関する機構の見学許可が出たから伝えに来たんだが」


 怪しいものを見る目で情報技官たちを見てる。


「こっちは、学園の先生が関わってる研究の参考にって、意見聞かれてたんだ。だから、ちょっとまだ未発表のものがあって、ね」

「あぁ、そう言うことか。それはすまない」


 国が関わってるとは言えないからヴラディル先生を出して誤魔化す。

 情報技官たちも学園関係者として同行してるし、ソティリオスは納得してドアの向こうで背を向けた。


「ソー、ちょっと待って。今書いてる小雷ランプの図だけでも完成させるから。塔の見学はもちろん行くよ」

「そうか、なら外に馬車を用意してある。登城するにふさわしい服はあるか? ないなら貸すが?」

「わぁ、絶対使わないと思ったけど、招かれた時用にって礼服一つ持って来てるんだよね。使いどころあってよかったよ」


 そんな話をしつつ、僕は急いで手を動かした。


定期更新

次回:留学の終わり3

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[一言] >魔力の質を整える機構 ダイオード的な?
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