251話:留学の終わり1
ロムルーシに来てひと月が経った。
ソティリオスに協力するとは言ったけど、それがまさかイマム大公家のお家騒動に行きつくとは思わなかったよ。
イマム大公は今回の事後処理でまだ忙しい。
ソティリオスもイマム大公との問題解決のため、後回しにしてた他の外交をしてる。
一番上のロムルーシ大公からの呼びかけはないけど、他の大公家からは帝国有力貴族の嫡男ってことでお誘いがあってるそうだ。
その実、嫡男から抜け出すために来てるとは知らないんだろうね。
「ま、さすがに言えないよな」
僕は今伝声装置の、小型のほうを改良中だ。
危惧してたとおり山脈を越えたせいか、距離の問題か通じずにいる。
それは学園関係者が運んだ大型のほうもそうだと言うから理由を考えないといけない。
(向こうは出力を上げまくったら短時間通じたらしいし。だったらこっちも出力出せるようにすればいいんだけど)
(小型故に限界あり)
セフィラも一緒になって改良してるから、問題もわかってる。
学園関係者のほうが持ってる大型は、ヘルコフ伝いに改善の話を聞いた。
けど燃費が悪く、ハハキトク、スグカエレくらいの短文だけしか送れない。
(改良よりも、魔物の家畜化を志した錬金術師の技術の再興をすべきです)
(いや、それ牛とセットだったでしょ。あの魔物を育てる以外では危ないから)
全て燃やす前にセフィラが見つけた研究資料には、三千頭の牛の魔物を養えるだけの急成長をする植物についての記録が残っていた。
ツル性のマメ科だけど、基本牛に踏みつぶされても這うように伸びる。
糞害が起こるほど積もってもしぶとく生き残り生えて来るらしい。
さらには一日で食べられた葉が生え変わるという超成長能力。
逆を言えば一日で食い尽くす牛の魔物がいないと、今度は蔦を伸ばして辺りを覆い尽くす害が発生する植物だった。
今のところ根ごと全て焼き払う以外の対処がない。
作った錬金術師は牛ありきで作ったから枯らす研究なんてしてなかったしね。
(あと畜産は場所と資源と流通と。ともかく色々必要だから今はできない)
(帝国で皇帝に命じさせることを提言)
(いやいや、食糧事情で困ってるならまだしも、やっても既存の畜産に携わる人たちの仕事奪うだけだから)
他の人の仕事を奪ってでも手柄を立てたいならありだ。
けど父はそんな人じゃない。
だったら失敗した技術だからこそ、慎重に扱うべきだと思う。
セフィラと対話しながら、僕は小型伝声装置に後付けで出力装置を作ってる。
核になるのが水晶で、これが壊れるともう片方に通じるチャンネルを開けないような感じになるから、電話よりもトランシーバーに近いのかもしれない。
「よし、これでどうかな?」
僕は作った出力装置を動かす。
言ってしまえば増幅器で、確かスマホなんかの電波を届ける時に使われるやり方だ。
前世で災害が起きた時に、そもそも電波ってどうやって届いてる? なんて特番を観た。
まさか転生して電話っぽい装置を作る側になるなんて思ってなかったから流し見だったけど、もっとしっかり観ておけば良かったよ。
(たぶん短波? そう考えるとこれはこれで小型の利点があるんだろうな)
(応諾のランプが点灯しました)
(え、もう!?)
言われて確認すると、確かに光ってる。
すぐに音が出るようにすると、けっこう滑らかにピアノの音が聞こえた。
告げられるのは相手の名前。
(え!? ワーネル、フェル?)
(宮殿に通じているようです)
(わ、わ、ちょっと待って!)
(そう打ち返しますか?)
(違うちがう!)
びっくりした!
まさか弟たちと連絡取れるとは思ってなかった。
つまりイクトが帝都に持って行って渡したんだろう。
父が持つかと思ったけどどうやら双子の手にあるらしい。
(確認を推奨)
心構えできてないで浮かれる僕に、淡白なセフィラの冷静さはありがたい。
ともかく言われるままに、誰が渡したとか、周囲に人がいないかとか、父の許可なんかを確認した。
わかったのはイクトから渡された父が、気にしすぎておかっぱに取り上げられたこと。
秘密にしないといけない技術なのに、連絡ないかとそわそわしてたそうだ。
その頃まだ僕は船の上だったらしいんだけど。
「そうか、ウェアレルのほうとも連絡してたんだ。それに、もうイクトはルキウサリアに戻ったのか」
伝声装置を残していく際、家族用ってイクトが言ったから、比較的魔力量があり、隠しごとが上手な双子に回ったらしい。
二人は今も錬金術をしていて、たまに時間を作ってテリーも僕の部屋にいるそうだ。
短い言葉ばかりだけど、楽しそうな様子が目に浮かぶ。
(うーん、双子の手が早い。ガンガン打って来る)
(一度に伝えられる文章が短く済まなければ延々と音が響くと予想)
(そうかも。これ、どれくらい負荷かかってるかな?)
(機器の温度上昇を確認)
即席の出力装置に繋いでの使用だ。
負荷が大きいらしく出力装置も、小型も発熱していた。
つまりはエネルギーが熱に変換している状態で、これはあまりよろしくない。
(名残惜しいけど今日はこれで。一度冷まして様子見をしないと)
(実用前により詳細な使用実験を行うべきだったと思われます)
(そうだね。乗り物とか事故の元だしそっちは徹底的にやってもらうようにしよう)
話しながら、双子にこちらの調子が悪いことなんかを告げた。
すると、向こうでも異音が混じることや、打ち込んだ音が反映されないなんかの遅延が生じていることを教えられる。
(前言撤回。僕の弟たち優秀すぎて実験相手に適任だ。魔力の出力足りないからって、二人で魔力込めるとか、僕想定してないのに)
(誇大表現あり)
異議は認めません。
ここは素直に、気づいてくれたことに感謝をするべきだと思うよ。
そして最後に言葉を交わして、別れの挨拶。
次に連絡する日にちと時間を決める。
「ふぅ」
お互い話し足りない。
それにやっぱり喋るような感じとも違うんだよね。
「電話、欲しいなぁ」
思わず呟くと即座に食いついて来た。
(仔細を求める)
(伝声装置のようなもののことだよ。けど大型の発電施設と電線と通信会社での管理が必要になるインフラなんだ。そのためにはたぶん大量に資源を採掘する機構が必要になる)
(皇帝や国王の力をもってしても数年かかるでしょう)
(そ、国家事業だし、今無線でやってるからよりお金のかかるやり方は嫌がられると思う)
(安定的ならば一考の価値あり)
そこは僕の記憶力が試されることになるからなぁ。
僕としては魔導伝声装置から安定的に発展してほしいところだ。
(それより、双子の悩みはどうしようか?)
僕はそっちのほうが気がかりだ。
(錬金術を習得したければ、主人に従うべきです)
(二重生活じゃ無理だよ)
(すでに捜して見つからないならば、他に道はありません)
(うーん、基礎だけでいいから、せめてウォルドくらいの人いないかな? 小型での連絡だけじゃ物足りないっていうから、宮殿で教えられるような手の空いてる人)
セフィラと話しつつ、僕は手を動かす。
弟たちから言われたことをメモして、上手く通じた出力装置の改良案も書き出した。
(ルキウサリアでも前向きに錬金術に力を入れる体制作ろうとしてくれてるし。入学してからを目指してほしいんだけど)
(ルキウサリアにいる財務官たちに合流させるべきです)
(いや、確かにウォルドにはテレサ頼んだけどね。他にもいてほしいんだよ、僕としては)
よく考えると財務官と侍女見習いなのに、錬金術させてるって妙な状況だな。
ただ全く根拠なく望んでるわけでもない。
オートマタのいた塔や、魔物を家畜化しようとした錬金術師。
それらを思えば何処かに独自に錬金術を保持してる錬金術師が存在する可能性は残ってる。
(では主人が名を上げ、他の錬金術師がおのずと集まるよう旗印になるべきです)
(僕がってのはなし。…………けど、集まるようにっていうのはいいかも。定期的に学会でも開けるようになれば、興味持ってくれるかもしれない)
一部で見直されてるだけの今、まだまだ先の話にはなるけど、ルキウサリアに戻ったらやらなきゃいけないことがまた一つ増えたのだった。
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