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245話:円尾と厄介ごと5

 家畜化に失敗した魔物の群れは、結果大駆除になってすごい光景が広がることになった。

 発案者ってことで駆除に同行した僕たちの目の前には、薪の壁と三メートルほどの幅がある溝。

 それが一気に火の壁になったのは圧巻だった。


「魔物を養える食べ物もったいなかったでげす」

「あんな臭いの中で何考えてるんだお前」


 ヨトシペの感想に、ヘルコフは自分で言って思い出したらしく鼻の上に皺が寄る。

 ちなみに火を突破した勢いで溝も越えるという魔物の足掻きもあった。

 大抵の人は逃がしそうになったけど、この二人はすぐさま蹴ったり殴ったりして魔物を溝に落とし直していたんだよね。


「うむ、良い武勇伝となった。あの魔物が食いたいのであれば狩人に捕らせておこう。存分に振る舞うとも」


 他の獣人たちさえ驚く二人の活躍に、イマム大公がご満悦だ。

 ヨトシペをさらし者にしてた側のはずなんだけどね。


「…………何故こうなった?」

「まぁ、僕たちも助けてもらったんだから」


 予想外にヘルコフまで気に入られてしまったソティリオスは悩んでしまってる。

 別にヘルコフは政治的な動きするつもりないから気にしなくていいのに。


 そもそもロムルーシに僕は伝手がないし、回せる人員いないし。

 ここでイマム大公と懇意にしても、その後を繋げることはできない。


「ただ次はあまり活躍の機会はないだろう」


 そう語るイマム大公は今、とある塔の地下へ向けて僕たちと階段を降りてる。


 地下二階くらいまで降りれば広間があり、明かりはないかに思ったけど、突然光が灯った。


「この灯り、小雷ランプ?」

「ほう、これを知っているか? 取り外して持ち帰ったがなんの魔法かわからずにいたのだ。そうか、小雷ランプと言うのか」


 言われてみれば、設置されてただろう半分が雑に取り外された痕跡だけになってる。


「魔法? しかし今光らせたのはイマム大公で…………これも錬金術か」

「錬金術科の先生が失伝技術だったのを最近復活させたんだ」


 だから身体強化しかできないはずの獣人でも光らせられる。


「それはいいことを聞いた。さっそくルキウサリアの学園に問い合わせよう」


 あ、これは生産が…………。

 なんかルキウサリアのお城で、伝声装置弄るなら小雷ランプ研究すればなんて言ったせいで、需要が高まってしまったって聞いたのに。


 僕はこっそり心の中で、ルキウサリアに謝っておいた。


「それで、大公閣下。今回はどんな問題が? ここには危険な生き物がいるようには感じられませんが?」


 ヘルコフは探るように鼻を上げて聞くけど、ヨトシペは通路の先を見すえる。


「金属の臭いがするだす」

「そうだ、この奥には金属でできているらしい謎の番人がいる」


 イマム大公が言うには、ここは奇才と呼ばれた者の研究所跡。

 ふらりと住み着いた人間で道具作りに秀でており、周辺とも良好な関係を築いていた。


 話しながらイマム大公は持ち込んだたいまつに明かりをつけて通路の先へ進む。

 あまり広くはないし、天井近くには壊れた小雷ランプがある。

 どうやら取り外す以外でもほとんど壊れてしまっているようだ。


「しかし死後、この研究所が発見された。この小雷ランプとかいうものもあり、奇才が有用な発明を残しているかと探索が行われたのだ」


 その探索が行われたのも死後百年が経過した後で、この地下が見つかりそこで探索は止まったという。


「この先に謎の魔物が住みついている。生き物の臭いはしない。だが、それは探索開始時の奇才の死後百年が経過していても生きて動いていた」


 そう言ってイマム大公が足を止めたのは入り組んだ通路の先の広場。

 通路自体がいくつかの小部屋へ通じる別の枝道があって、正解を知らないとまっすぐは進めない形だ。


 そして円形の広場の真ん中には、だいぶ薄れているけど赤い線が空間を仕切るように引かれている。

 赤い線の先、一つの扉を背に柱のような見上げるものがあった。


「あれが、魔物だす? 臭いしないどす」

「おいおい、待てよ。この金属と油の臭い…………」


 ヨトシペは首を捻るけど、今度はヘルコフが反応を示す。

 それで思いつくものが僕にもあった。


(セフィラ、あれの内部構造を走査して)

(了解しました)


 イマム大公はヘルコフを気にしつつ注意事項を告げる。


「その線から向こうへ行けばあの魔物は動きだす。自然発生する魔物のゴーレムの類には円柱形のものもいるが、移動も何もせずに生きている道理はわからん」

「ロムルーシには魔物のゴーレムがいるのでしたね。我々大陸中央では、ゴーレムと言えば人工物ですが」


 イマム大公とソティリオスが会話する間に、セフィラが走査を終えた。


(内部に駆動構造あり。外装は下半分が厚く強固ですが上部は張りぼてです)

(駆動構造ってやっぱり、ナイラやヴィーラと同じオートマタか)


 思わぬ発見と同時に、表面の物騒な傷に目が行く。

 戦闘の名残は襲ってくる証明で、そうなると解決方法も見えて来る。


(ナイラたちのみたいに識別するカメラかマイクがないようなら、赤い線のこちら側に停止するための機構があるはずだ。ヘルコフにそれを上手く伝えるようお願いして)


 僕から言うより反応したヘルコフが話したほうがいいと思う。


「あれには尾がついていて、それが壁に埋め込まれている。そのためこの広場から出られない程度の行動範囲だが…………」

「いや、これ。俺は似たものを見たことがありますよ。うちの主人が調べた古い技術でオートマタってんです」


 ヘルコフがイマム大公に応じる。

 けど声を上げたのは、ヘルコフの主人を知ってるソティリオスだ。


「そんなことをいつ? いや、これはつまり魔物ではなく…………」

「いつでもいいでしょう。古いもんを掘り返すことに制限はなかったんですから。ましてやあの方が何してるかなんて発表の場もなかったわけですし?」

「対処を知っていると思ってもいいのか?」


 イマム大公は現実的な部分をまず確認した。


「正直主人がやってたことは半分もわからないんでほぼ推測ですが。それで言うと、赤い線からこっち側にあれを操るもんがあるはずですよ。確かこう、壁触って…………」


 たぶん封印図書館の仕かけ開けるための動作を思い出してるんじゃないかな?

 そして予想は当たっていたようで、入り口の柱の一部がスライドして開く。

 中には上下に動かすハンドルあるけど、ヘルコフは動かし方がわからないようだ。


「人間のための機構ならさび付いてなければそんなに力いらないんじゃないですか? 形から力を籠める方向を考えると上か下に動かすんだと思います」

「おう、ありがとな。で、これを…………うわ!?」


 上に上げた途端、電気が弾ける。

 どうやら動かさなすぎてショートしたようだ。

 何処か経年で癒着していたか、漏電していたか。


 僕がそんなことを考えている内に、柱のようなオートマタは一度駆動音を上げ、次には力が抜けるように動きを止めた。

 これは、完全に切れたんだろうな。


「本当に止まったな…………」


 イマム大公は驚きを込めて虎の耳を激しく動かす。

 そして尾というのはコードだと、近づいてわかった。

 これを切っていれば早かっただろうけど、どうやらイマム大公はこれがオートマタをここに留めていると思っていたようだ。


 さらに奥の扉はまた壁にある仕掛けを探すところから始まった。

 配管のパズルを作ると水が流れて、その水で重しを動かし均等にすると扉のロックが外れる仕かけだ。


(どう考えてもこれ、ルキウサリアの封印図書館と同じだ。つまり、ここにいた奇才は錬金術師で、八百年前の天才の技術を受け継いでいた?)

(中を走査し終えました。すでに内部の資料の大半が持ち去られるか破棄されています)

(つまり、奇才にも弟子がいて、その人はここを放棄して何処へ?)

(内部に伝言があります)


 勝手に走査してたことは置いておいて、入ってみればセフィラが言うとおり、正面の壁に大きく文字が書かれていた。

 それは古い字体の帝国共通語。


「贖罪の旅は未だ最果てに至らず、しかしなおも贖いの使徒は誕生の地を目指す。後に続く者よ、過ちを忘れるな」


 イマム大公は思い当たることはない様子で、虎の尻尾が不機嫌そうに揺れる。

 有用な物がない様子も見てわかるからだろう。


 僕にとっても謎のメッセージだけど、どうやら八百年前の天才の後悔を知る者だということだけは確かにわかる内容だった。


定期更新

次回:獣人豪族の禍根1

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― 新着の感想 ―
[一言] オートマタの技術と、それに人間の知識と意思を転写する技術… エネルギーとメンテナンスの問題をどうクリアするか…。 いやいっそ人間に転写する…?時は超えられるやも? 800年前の倫理かぁ…。…
[一言] ・・・死んだ錬金術師の方が弟子だったんじゃ? で師匠の方が逃げてんじゃね?
[一言] これは帝国外から錬金術への評価見直しのチャンス? ただ封印図書館の技術出しにくくなったのではとも思います。 贖罪って書いちゃってるし。
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