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240話:ロムルーシへの船旅5

 船の旅は風の具合で六日もずれた。

 それでも大きな問題もなく、僕たちはロムルーシの港へ辿り着く。


「船員減るかもしれなかったし、ひと月違うこともあるから上々だな」


 その減るかもしれなかった船乗りエルフが、そんなことを言って笑う。

 道もない上に宿に泊まるなんてこともできない海上では、人が代わる代わる船を操り続ける。

 その人が数日寝込んだら遅れが出て当然ということらしい。


「いやぁ、今回は運が良かった」


 そんなことを言う船乗りエルフは、何故か船を下りる僕の荷物を下す手伝いをしてる。

 この人海賊のようなギルドの人のはずなのに、下痢止めボーロあげたら妙に恩を感じられてるようだ。


「この後時間あるか? 夕方行きつけの飯屋にお前さんが言ってた女神の飯作ってもらおうと思ってるんだが」

「もう馬車が用意されてるはずだから、僕たちはすぐに港を離れて首都へ行くんだ」

「そりゃ残念だ。だが、本当に運が良かった。精霊と女神のご加護に感謝だな」


 助けたことで船旅の間、挨拶とか立ち話とかしてたら、その中で学園でのことが話題になって、先輩たちから送別会してもらったことも話したんだ。

 だから女神の形をした食事と、その首をもらって食べたことも教えた。


 どうもその話は験担ぎ好きなこの船乗りエルフにヒットしたらしく、女神の形をしたご飯作って食べる気満々になってる。

 それを聞いた他の船乗りも興味を示したそうで、無事入港した打ち上げがてら女神をかたどったご飯を食べに行くんだって。


「女神の首を食うというのは、不敬なんじゃないのか?」

「僕に聞かれてもねぇ」


 一部始終を見てたソティリオスに聞かれるけど、答えに困る。


「本当にただ送別会であったことを話しただけで。薬になるものを持っていたのも、先輩の餞別だから、女神の加護があるかも怪しいんだよね」

「そう並べられると、確かに神がかり的な因縁があるように考えられる。それと同時にアズロスが行動したからこそということもあるが、結局は気休めが欲しいだけだろう」


 それはそうだろうね。

 ただ僕がきっかけで、女神の首を食べるなんていう変な儀式が生まれるのはどうなの?


「よし、ソーが言うならもう知らないふりをしよう」

「待て、私に丸投げするな。こっちは関係ない」

「女神さま、どうか変な儀式を怒るなら、僕以外の人に」

「おい、やめろ」


 茶化したら嫌そうに小突かれる。


 ひと月半寝食を共にして、それなりに仲良くなった。

 さらに留学中に思わぬ協力関係を迫られてもいる。


「あ、そうだ。念のために聞くけど」


 僕は船乗りエルフに、ソティリオスから離れてひと言。


「知り合いにエルフのクリツィーニーって家の子がいるんだけど、カメオ見せて大丈夫?」

「…………やめとけ。俺が捕まる」


 簡潔かついい笑顔で、身の危険を語られる。

 どうやら船乗りエルフは、宗教関係のご落胤であることがほぼ確定したようだ。

 困ったら使えとは言われたけど、記念品くらいに思っておこう。


 そして用意されてた馬車に乗って、僕たちは首都へ向かった。


「これから首都スリーヴァへ向かう。まずはスリーヴァの学校に到着の挨拶だ。たぶんそこから免除のための試験の準備がある。数日の内に試験が行われるだろう」

「ちなみにソーはスリーヴァに行ったことは?」

「ない。イマム大公家の者とは、屋敷に挨拶に現れた折顔を合わせたこともあるがな」


 ロムルーシの首都スリーヴァは、帝国傘下に入ってから遷都した都だ。

 それまで港はなかったのが、帝国と通じることで技術が入り港を整備。

 その港と交通の便がいい所に遷都をした歴史がある。


 旧都という物はなく、それまではロムルーシ大公になった大公家の城を持つ街が都扱いで、ロムルーシ大公が代わる度に首都も変わっていたそうだ。


「ルキウサリアはけっこう帝都の常識通じるけど、スリーヴァは異国情緒強いんだろうな」

「いや、帝国と通じたことで作られた首都であるため、街並みの建築様式は帝国に近いそうだ。古式の建築が見たいのなら大公の街に行くべきだな」


 大公の街というのは、大公家の城がある街のことだそうだ。

 そちらはロムルーシと言う国が作られる以前から存在し、伝統建築が残っている。


「じゃあ、木製の城があるのかぁ」

「あぁ、聞いたことがあるな。イマム大公家には、美しい寄せ木細工で作られた広間を持つ城があるそうだ」


 寄木細工というと和風なイメージだけど、それで広間を作るなんて聞いたことはない。

 きっと別ものだろうと思えば、興味が湧く。


「早くことが済めば、そういう観光もできるだろう」

「そう言われると、話を聞かないとなんとも言えないのがなぁ」


 僕はメイルキアン公爵家の秘宝と授業免除につられて協力をするんだけど、ソティリオスは秘宝を開陳してはくれない。

 その上、借りを返さなければいけないイマム大公家も、何を解決するために秘宝が必要かは教えていないそうだ。


 山脈にトンネルを作れることを思うと危険物で、そんな物が必要となれば相当なことだ。

 だから人を直接送り込まないと、話も聞けないと言うのはわかるけどね。


「ともかく、まずは試験を受けて合格できないと。僕、対策何もしてないし」

「私が出題した例題に、あれだけ答えられていれば問題ないだろう」


 船の中でソティリオスに対策問題を出された。

 ただ内容はルキウサリアの学園の入試問題を、ロムルーシ語でやるようなもの。


 まだ入学して三カ月ほどで、入試の内容も忘れてはいない。


「やはり、学園の入試で困らないなら大丈夫だったな」


 スリーヴァに着いて、すぐに試験は受けられた。

 先に馬を走らせて、僕の分の試験も用意されていたお蔭だ。

 その上で厄介ごとに専念したいソティリオスが、着いてすぐ試験を受けるといった。


「留学ってなんだっけ?」


 僕は挨拶と試験、そして結果を受けとるだけで、もう出ることになったスリーヴァの学校を振り返る。


 お城だったルキウサリアの学園と違って、こっちは帝都のギルドに近い民家を巨大化したような建物。

 すでに所蔵する書物は試験中にセフィラが漁ってしまっているから、あまり心残りもない。


「さて、それではこれから住まう屋敷に向かうぞ」

「あ、僕宿舎借りる予定だったけど、場所聞きそびれてた」

「それはすでに変更してある。私の屋敷に泊まれ。宿舎よりも住み心地はいいはずだ」

「ちなみに誰の持ち物?」

「元はメイルキアン公爵家だが、今はユーラシオン公爵家のものだな」

「わぁ、そういうのも受け継ぐんだね」


 受け答えしながら時間を稼ぎ、セフィラ伝いにヘルコフへと変更を告げる。

 ヘルコフが同行したのは里帰り名目で僕の護衛だ。

 宿舎の予定だったからその近くにヘルコフも宿を取ってた。


(返答を受領。主人の安全面においては、ユーラシオン公爵家にゆだねることで防備の内側にあることを優先。ただ合流の難しさを問題点として上げられました)

(僕が第一皇子だとばれない限りは、確かに公爵家の屋敷にいるほうが安全ではあるよね)


 話も途切れた時に、ユーラシオン公爵家の侍従がやって来た。


「この先の広場を馬車が横切ることはできないと言われまして。今少しお待ちを」

「歩けるなら馬車の所まで歩く。アズロスも街を少しくらい見たいだろう?」

「いいの? 僕は歩くの平気だよ」


 言いながら、近寄って来たヘルコフの姿を確認する。

 学園関係者はまだ学校のほうや宿舎にいて、こっちは完全にユーラシオン公爵家の者。


 近づけもしない中、どうしようかと思ってたら、広場から妙な声が聞こえた。


「たーけーてーすー」


 見れば、広場のお立ち台のような所に、木の板に首と手をはめられ動けないようにされた獣人が一人。


「あれは、何かの罪人か? 狐?」

「え、犬だと思ったけど。あ、ちょうどいいや。ヘルコフさん、あの獣人はなんの獣人ですか?」


 僕の反応でソティリオスも足を止めて、謎の言葉を叫ぶ獣人を見る。

 話の流れで、僕は離れていたヘルコフを呼び寄せた。


「ありゃ犬に見えるが、見たことないな。狐にも似てるが、それにしちゃ目が丸い」


 ヘルコフもわからないと言うのでびっくりしてしまった。

 だってどう見ても顔が秋田犬なんだ。


 そうして見てると何やら声を上げていた獣人もこっちに気づいた。

 瞬間、今まで垂れていた耳がピンと立つ。


「ややや! そこを行くは我が後輩! お願いでげす! 助けてだす!」


 妙な語尾だけど、僕たちに向けて発されたのはルキウサリアの言葉だった。


定期更新

次回:円尾と厄介ごと1

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― 新着の感想 ―
>ただ僕がきっかけで、女神の首を食べるなんていう変な儀式が生まれるのはどうなの? 饅頭か人形焼(頭部のみ)になるんですよ、きっと。 罪悪感は福岡銘菓ひよ子と同じぐらい……?
[一言] 現地語に不慣れな帝国か他国の獣人か あきたいぬなら忠犬になる可能性もあるのか?
[気になる点] 「たーけーてーすー」が誤字なのかわざとなのかわかりません。後を見ると「助けて」って言ってるから、ふざけて言ってるのかな?だとしたら拘束されてるのに余裕あるな。
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