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193話:ラクス城校魔法学科3

 ラクス城校の魔法学科との対戦は、授業時間を使うことで余計なギャラリーを排除することになったそうだ。

 そして対戦の場に指定されたのは、ラクス城校にある闘技室と呼ばれる頑丈な部屋。

 いるのは、僕たち錬金術科と魔法学科だけ。


 アクラー校では上級生も参加してたし観戦もしてたけど、今回は同じ年齢の学生同士で、余計な人員もいない。


(帝国貴族もいるけど、僕が知ってる相手は少ないか)

(言葉を交わすほどの上位者は魔法学科に在籍していません)


 学園内部もふらふらするセフィラ曰く、政治や教養の学科にアーシャとして会った者は固まっているそうだ。

 テリーも入学するとしたらそっちになるだろうけど、さらに下の弟妹だったら魔法学科もありだろう。


 ただ現状、魔法学科に入学したいと言われたら全力でお兄ちゃんは止めます。


「おい、エフィ! また泥だらけになるなよ。教室汚れるから!」

「今度騙されたらもう馬鹿の代名詞だぞ!」

「これ以上恥の上塗りは止めてよね! 迷惑なんだから!」


 野次がすごい。


「あのエフィと呼ばれている人が、入学式で絡んだという?」

「そうだな。あの時には従う者が二人いたが、それも離れたようだ」


 眉を顰めるイルメに、いっそ白けた顔のウー・ヤーが応じる。

 獣人のラトラスとネヴロフはやる気がしぼんでいる様子が、耳の下がり具合でわかった。


「たぶん囃してるのが同じ勢力で、うるさそうにしてるのが敵対。後は傍観か無関係だろうね」

「げぇ、突き上げるにしてもあれもうそんなんじゃないぜ。馬鹿にして楽しんでるだけじゃん」


 僕たちもラクス城校の施設内でアウェーな扱いを受けるくらいは予想してた。

 けどまさか、ハマート子爵令息のほうがバッシング受けてるとは思わないじゃないか。

 完全にサンドバック状態ではやし立てられ、もはや虐めだ。


 ハマート子爵令息と一緒に僕らの前に来たほか四人も、責めるように敵意を込めて見るのはハマート子爵令息。


「私刑の片棒を担ぐつもりはないんだけどな」


 僕の呟きにクラスメイトが頷き、イルメが言葉にする。


「作戦どおりにしても、あちらの虐めに加担するような形は業腹だわ」

「けど負けるなんてしてやる義理もないだろ?」


 ネヴロフはそう言うけど、まだ耳は下がったまま。

 ラトラスも長い尻尾の先で不機嫌そうに自分の足を叩いてた。


「言葉の端々から錬金術を詐術だって見下す感じあるし、いっそ叩きのめすのもありかも」

「叩きのめすか。魔法を使えなくさせる程度では見た目の強さがないかもしれないな」


 ウー・ヤーが不穏だけど言いたいことはわかる。

 ただやっぱり戦意を削いで戦闘不能にするのが一番安全だ。


 一応こっちも対策はしてるけど、ラクス城校の魔法学科は覚える魔法に難易度が高くて高火力を求めるとウェアレルに聞いたことがある。

 無駄に怪我はしたくないし、させたくない。

 対抗するにはこちらも火力ということで、アクラー校生にやったよりも派手なことをする道具も準備してた。

 ただ怪我を考えてそっちは本当派手なだけのこけおどしだ。


「変に遠慮してこっちが怪我しても本末転倒だよ。もう速攻を狙って先に樽を使おう」


 今回持ち込んだ錬金術のための道具を使う僕の提案に、クラスメイトも賛同した。


 闘技室の真ん中に両者揃ったことで先生たちが説明を始める。


「杖を手放した者は戦闘不能としてこちらへ下がれ」

「申請された錬金術の道具を使いきったらそれまでで終了だ」


 あらたに勝敗条件を明言して、ヴラディル先生たちは同時に手を上げ、振り下ろした。


「「始め!」」

「道具を出す前に潰す!」


 号令を出したハマート子爵令息は魔法の準備でその場に残り、魔法学科の四人がこっちへ向かって走り出す。


 アクラー校生とのやり方は調べられているんだろう。

 けどこちらもそれくらい予想してた。

 だからこそ用意した樽にすぐさま全員で準備にかかる。


「空気充填…………発射」


 複数用意した樽には圧力を加えるための機構がつけられており、ネヴロフがポンプを上下に動かして空気を充填する。

 そしてイルメが水鉄砲を改良した口径の大きな射出口を構え、走って来るラクス城校生に向けて樽の中身を発射した。


「ぶえ!? 目が!」


 近づいて来ていた魔法学科は避けようとしたけど、発射の速度に対応できず命中。

 しかも顔面を狙われ顔半分にべっとり粘着質な液体がまとわりついた。

 水でも良かったけど圧力のかかりが悪かったから、スライム状に粘着力を持たせたエッセンスを射出している。

 圧力と水分の重みで結構な反動があるので、命中させられた生徒は派手に尻餅を突いていた。


 その間にラトラスがポンプ係で、ウー・ヤーも射出口を構えて命中させる。

 二人倒れたところで僕は狙いを定めないために、一人でポンプ役もしつつ下を狙った。


「緩さ変えるとけっこう滑るんだよね」


 足元にスライムよりも緩くした地のエッセンスを撒く。

 エッセンスはガラスやつぼに保存するか、調合して別の物にしなければ、何故か蒸発するように消えてしまう。

 けれどこうして粘度を高める手を加えると、小一時間はその場に残り続ける。

 これは入学して対人での活用を考えなければ、気づけなかった性質だ。


 そうして撒いた結果、顔に来るエッセンスを警戒していた魔法学科の残り二人は足を取られる。

 その間に空気を充填したイルメとウー・ヤーに結局エッセンスを当てられた。

 もちろん事前に参加者の情報は集めておいて、得意な魔法属性も調べ済み。

 エッセンスを入れた樽も、属性ごとに粘度を変えたものを用意してあった。


「べたべたして取れない! う、魔力の流れが引っ張られる!?」

「くそ! あんな早く飛んで来るなんて聞いてない! 避けられるわけないだろ!」


 向こうも対策は考えてたようだけど、こっちもアップグレードして避けられないようにしてる。

 アクラー校生は近づいて不意を突けば制圧できたけど、それは僕たちにも言えること。

 だからまずは近づけないように、さらに追撃のスライム状エッセンスを射出する。


 とはいえ、ラクス城校の魔法学科からも対策は打たれてた。

 前に出た四人が壁になってハマート子爵令息に射線が通らない。

 その間に魔法の準備が整う。


「食らえ!」

「ネヴロフ!」


 ハマート子爵令息が結構な威力がある火球を放つ。

 入学前にもそうして攻撃して来たけど、得意な上に以前よりも強力な魔法となっているようだ。

 そして以前より確実に速度もある。


 ただこれも予測はしていた。

 だから力の強いネヴロフに合図の声を上げて、エッセンスに満ちた樽を投げてもらう。


「よいしょ………! って、ぶわ!?」


 水のエッセンスの入った樽は破壊されて粘液が辺りに飛び散る。

 それにぶつかった火球は水蒸気を周囲にまき散らして消えた。


 予想以上の火球の威力に、ちょっと水のエッセンスが突き破られたけど誰も怪我はなし。


「悪い! 杖二人からしか取れなかった!」


 ラトラスは身体強化が速度に秀でてる。

 だから火球で退避することに意識の行った魔法学科から杖を奪取してもらった。

 できれば四人とも無力化したかったけど、左右に割れたことで二人しか杖を奪えなかったようだ。


 杖を奪われたことで退場者が出て、形勢は五対三。

 しかもこっちは杖を持つのは四人だけ。

 元から魔法が使えないネヴロフは道具を使いきらせるしか、人間に無力化するすべはない。

 気絶なんかで退場狙っても、僕たちの中で一番耐久力が高い獣人はネヴロフだ。


「は、こんなもんか」


 いきなり頭数を減らされたのに、ハマート子爵令息が笑みさえ浮かべる。

 安堵の混じった言葉に、仲間の魔法学科の学生も驚くようだ。


「皇子のほうがまだわけがわからなかった。それに比べればまだわかりやすい」


 それは、まぁ…………、あの時は大きな道具なんか持ち込まなかったからね。

 エッセンス使ってたのも良くわかってなかっただろうし、過剰評価なんだけど。


「いったい帝国の皇子はどれほどのことを? 粘液塗れになって杖を奪われる以上に屈辱的で不可思議な負け方?」


 イルメが誤解、というかもういっそ風評被害なことを言い始める。


「あの皇子はすごいから」

「まぁ、皇子ならすごくても不思議じゃない」

「すごいのか、皇子は…………」


 あー、全肯定するネヴロフのせいで、誤解がー。


「と、ともかく、こっちは当初の予定は崩された。気を引き締めていこう」


 そういうけど、あまり士気は上がらない。

 だって、ずっと周囲からは魔法学科の聞くに堪えない野次が叩きつけられているんだ。

 しかもほとんどがハマート子爵令息と杖を奪われた同級生に対するもの。

 ラクス城校の魔法学科が荒れているというのは、本当らしかった。


定期更新

次回:ラクス城校魔法学科4

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― 新着の感想 ―
[一言]  んんー、香ばしいけどなるべく関わりあいたくはないなこれ。  最悪権力使えば距離はとれそうだけど、そもそもなんでこんなレベルになっているのだろうか。
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