表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

227/649

190話:錬金術科の新入生5

 昨日は錬金術科のみんなと図書館へ行った。

 今朝は朝食を食べながらノマリオラが秘書役で予定を教えてくれる。


 寮のほうでのアズロスは、朝食を食べたり食べなかったりする学生だと思われてることだろう。

 別に寮の食事が不味いとかじゃない。

 ただ朝から打ち合わせや聞きたいことあると、こっちで食べるほうが手間が減るんだ。


「今日は午前の授業をお受けになるご予定ですが、変更はございましょうか?」

「ないよ。社会の授業は教師の方針で出席日数が少ないと評価マイナスの上、試験を受けさせないこともあるって聞いたし」


 リーク元は錬金術科教師ヴラディル先生。

 通学さえしなくなった学生がいるため、その辺りは事前に教えてくれる。


「ノマリオラ、昨日テレサに貸した本、内容は理解してそう?」


 昨日図書館で謎解きの錬金術書以外にも、僕はカモフラージュで初歩的な錬金術書を借りた。

 自分でも読んだけど、四属性で全てのものを分類して説明しようとする概念的なもので、科学的にとらえる僕には適さない。

 そこにテレサが夕食の時間を報せに来たから、渡してみたんだ。


 本のまた貸しなんて、やらないほうがいいんだろうけど、すぐ返すのも不自然だしね。

 テレサに聞いたら喜んでくれたように見えた。

 そしてノマリオラはその時のテレサと似た笑みを浮かべる。


「昨日は寝る時間になっても本を読み続けようとなかなか明かりを消さずにいました」

「別に命令とかじゃないから、無理しないよう言っておいて」

「はい。ただエッセンスの精度が上がらないことに悩んでいたので、光明であったのかと」

「悩むほど下手じゃないんだけどね」

「そこはやはりやりがいの問題でしょう。ましてやご主人から任されたとなればご期待に応えようとしているのです」

「そう、やる気を削ぐのも本意じゃないし、体調崩さないよう見ててあげて」

「はい」


 ノマリオラは嬉しそうだし、大丈夫かな?


 そして僕はアズロスの部屋に行って身支度を済ませた。

 学園の上流階級が通う学舎には、制服というか所属を示すマントと色がある。

 身分で装飾品があからさまになるので、その辺りが就学の邪魔にならないようにという配慮だ。

 平民も頑張れば入れるからこそ、同じ所属だと視覚的に印象づけて上下の別を失くす方針らしい。

 ただ錬金術科にとっては、アクラー校生と違うマントが目の敵にされる目印にもされているけどね。


「…………行ってみるか」


 僕はいつもの登校経路を変えて、少し遠回りをする。

 辿り着いたのは、昨日訪れたラトラスの親がやってる店。

 今思えば、王都のある街じゃなくてこの学園のある街で店舗を開いた時点で、ラトラスのこと気づいて良かったかもしれない。


 まだ開店してない店の前で足を止めると、店の横から見慣れた錆猫が顔を出す。


「あ、やっぱりアズ。どうしたんだ?」

「おはよう、ラトラス。今日は午前から授業に出るから一緒に行けるかと思って来てみたんだけど。よく僕がいるってわかったね?」

「アズってなんか草を千切った時の匂いするから。準備してくるから待ってて」


 ラトラスがまさかの事実を告げて引っ込む。

 僕は道端で一人服の臭いを確かめることになった。


「どうせなら、あの二人のほうにも行こう。正直、寮で何したか聞いたほうがいいと思う」

「そこは触らないほうがいいんじゃないかな?」

「クラスメイトだからって絡まれても困るだろ。情報は持ってたほうがいいよ」


 ラトラスは結構小心というか慎重と言うか。

 いやそれよりも、級友と登校って結構学生っぽいな?


「あれ、アズとラトラス」


 寮に行くと、ちょうど登校しようとして出て来たネヴロフと会った。

 その後ろから、ウー・ヤーも顔を出す。


「二人は登校いつも一緒?」

「ここアクラー校生もいるからな」


 聞くとウー・ヤーが寮を振り返る。

 どうやらアクラー校生らしき通りがかった学生が、足早に寮を出て行った。


 そっちを見ないふりで、ラトラスは頷いて笑う。


「それで言えばうちは大人がいるからね。イルメの所も従者がいるし。アズの寮は?」

「帝国貴族で政治にもあまり強くない集まりだから大人しい人ばかりだよ」


 所属する学舎はけっこうばらけてるし、アクラー校生もいるけど裏が第一皇子の屋敷となると馬鹿なことする学生もいない。

 基本、皇帝派閥を集めてあるしね。


 そんな話をしながら僕たちは揃って登校する。

 そして全員がなんとなく、真っ直ぐ学園ではなくイルメの借りている家へ向かった。


「そう、では今日は見送りはいらないわ。かばんも自分で持ちます」

「いってらっしゃいませ、お嬢さま」


 イルメはなんとなく集まって登校と説明したら、一緒に登校することを受け入れた。

 どうやらエルフのお嬢さまは学園の門まで送り迎えの上、荷物も持ってもらっていたらしい。


「知ってた?」


 僕の問いに男子は揃って首を横にふるけど、イルメはなんでもないことのように言う。


「同じように登校する学生はいるわよ。この国の姫は馬車で通ってくるようだし。ところでアズ、昨日の本は持ってきたのでしょうね?」

「う、うん。大丈夫だよ。けど、教室についてからね」


 ディオラの登校風景なんて見たことなかったから、そっちに気を逸らしていた。

 慌ててイルメに答えると、ウー・ヤーが思い出した様子で聞く。


「あ、昨日図書館でメモした紙、誰か持ち帰ったか?」

「それなら俺が持って帰ったよ。ちゃんと持って来てもいるから大丈夫」


 ラトラスが暗号を解く途中の紙をカバンから取り出して見せる。

 するとネヴロフが、メモ書きを覗き込んで呟いた。


「そう言えば、結構みんな文字の形違うよな。言葉だけじゃなくて、もしかして文字も身分で違ったりするのか?」

「「「「ただの慣れ」」」」


 思わぬところで声が揃った。

 それと言うのもネヴロフの書く文字は、覚えたての子供のようにいびつだ。

 ラトラスは書けるけど雑で文字の大小がばらばらで書き慣れていない。

 そして筆を使っていたというウー・ヤーの文字も独特だし、イルメはエルフの文字に倣って左に払う癖がある。


 僕は僕で、いくつか専用の筆記を覚えたから、なるべくそれが出ないように結構力入れて書いちゃってた。


「ともかく早く教室へ行こう。教室移動の時間までは暗号を解いていいから、前見て歩いて」

「イルメ、幻覚剤にそんなに興味があるの?」


 メモに吸い寄せられるイルメに注意すると、迫ってこられたラトラスも話を逸らそうとする。


「これはただ単に謎解きが面白かっただけじゃないかな? 本読むの好きみたいだし」

「自分はせっかくだから謎を解いた後にその幻覚剤というのも作ってみたい」

「よくわかんねぇけど、面白そうだから早く行こう」


 うーん、これは纏まってるのかどうか。

 ひと先ずヴラディル先生のホームルームは無視なのかな?


 そうして揃って登校した僕たちは、広い学園の門を通り過ぎる。

 学園の始めは、ラクス城を中心にした城の敷地だったそうだ。

 そこから増改築で広げて、学舎も増えたため、ラクス城校は学園全体からすると奥まった所にある。

 同じ門を使っても、進んでいくうちに周囲からは学生の姿は消えるのはいつものことだった。


「なんだか騒がしいね」


 それなのに、今日は普段よりも足を止めて囁き交わす学生が多い。

 僕は周囲に目を向けて足を緩める。

 けどクラスメイトたちは昨日書いた謎解きのメモ書きに夢中で先に行ってしまった。


 僕もそっちに行こうとした時、見慣れた色が視界の端に揺れる。


「…………ディオラ」


 橙色につられて振り返ると、そこには確かにディオラがいた。

 けどその周囲にはお近づきになろうという貴族の子女がすでに集まり出しており、もう姿は見えない。


 もちろんディオラは変装した僕には気づかない。

 つい呼んでしまったけど、声でばれることはラトラスの一件で確定なんだから、今後は気をつけないと。

 そんなことを考える僕の近くを通りすぎて、ディオラはラクス城校へと去っていく。


「あれ、アズ?」

「どうしたの?」

「早く行こうぜ」

「離れると危ないぞ」

「…………うん、そうだね」


 僕はクラスメイトに答えてアクラー校のほうへ足を向けた。

 現状に不満はないどころか思った以上に楽しい。


 けど声が届くのに、声をかけられない。

 せっかく同じ国、同じ学園にいるのに、その距離が少し、歯がゆかった。


定期更新

次回:ラクス城校魔法学科1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
+30歳で拗らせてる転生者だから仕方ないのかな
初恋と言われても否定できないよなぁアズロス君
小賢しいからやぞ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ