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161話:水底調査1

 他国からも受験生がやってくる学園の入試結果は、翌日に出た。


「おめでとうございます、第一皇子殿下」

「別に急いで見に行こうとは思わなかったけど、まさか他人から知らされるとは思わなかったよ、テスタ」


 僕はルキウサリアにある屋敷でテスタに、開口一番祝われる。

 会う予定はしてたけど、僕自身さえ知らない入試結果を知ってるとは思わなかった。


 ちなみに今日はまだ他の学園内部にある学校の入試が行われている。

 ラクス城校の次点、アクラー校を主眼にしてる者もいるからまだ滞在は続く予定だ。

 そして僕は今日テスタと出かける予定で、挨拶代わりのお知らせと共に馬車へ乗り込む。


「学園から派閥の人は退いたんじゃなかったの?」

「なぁに、子飼い以外にも話を通せる者くらいはおりますとも」


 うっわ、もしかしてこれ、結果は発表される前に知ったな?


 ってことは、僕が学園で何してるか、テスタに筒抜けになる可能性もあるか。

 僕の警戒を他所に、テスタは馬車に揺られる手慰みのように話題を投げかけて来た。


「面白いほど話題になっておりますぞ」

「聞いていいのか迷うけど、どんな?」


 たぶん学園内でのオフレコの話でしょ?

 それだけ影響力が残るって、歳の功は侮れないなぁ。


 そう言えば、ディオラが帝都にやってくる理由にもなった、魔力回復薬の素材である薬草は学園で栽培してた。

 薬作りの権威なら、そっちにも噛んでそうだ。

 長年の積み重ねで顔が広いってこともあるかもしれない。


「今年は錬金術科には勿体ないほどの受験生がいると」

「…………何人?」


 聞き返したら、テスタは驚く。

 意趣返しはできたようだ。


「既にごぞんじでしたか。話題に上がったのは二名。もちろん、一名は殿下。もう一人はエルフの少女だそうで」

「うん、錬金術科を受験してた中に一人だけ女の子のエルフがいたね」


 僕に次ぐとセフィラが言った相手だ。

 帰ってからウェアレルに心配されたので、セフィラがカンニングしてたことは伝えた。

 もちろん僕ができすぎたってことも言ってある。

 ウェアレルも錬金術科の知り合いから、インクをぶちまけた受験生については聞いてて、やっぱりあれは目立ってしまったようだ。


「ラクス城のほうにある学科でも、十分やって行けるだけの共通科目での点数を取ったそうですな」

「あぁ、やっぱり錬金術科ってそういう扱いなんだね」


 錬金術科もラクス城校ではある。

 だから絶対落ちる他の学科よりも、不人気と舐めた錬金術科なら合格できるんじゃないかと受ける者が例年いるのは周知なようだ。


 もちろんそんなことはない。

 だって今年の新入生いないって話だし、ちゃんと基準クリアしないと入学は難しいんだろう。


「ではこれはごぞんじか?」


 まだテスタにはネタがあるようだ。


「錬金術科に補欠入学が二人出ました」

「え、そんな枠あるの?」

「いえ、今年からの特別措置ですな」


 今では在学生の数を減らして分校に追いやられている状況。

 そんな状態の錬金術科ではまともな受験生も集まらずにいた。

 けれど封印図書館から、僕の介入、錬金術を見直す動きと、ルキウサリア国王も苦慮して錬金術科を立て直そうと考えたそうだ。


 それで手始めに錬金術科教師に聴取した。

 すると熱意のある受験生がいないこともないと。

 けれど基礎学力が足りずに、入学を逃すのだとか。

 だからまずはその熱意ある学生を逃さないよう、補欠枠を二つ用意したそうだ。

 すると二人、共通科目では低い点数ながら、錬金術科の課題では相応の能力を示した受験生がいたという。


「まぁ、錬金術科教師はもっと別のことを気にしておりましたがな」

「…………合格者は何人?」

「五人ですな。錬金術科教師は、インクを盛大に零して答案を駄目にした受験生に興味を引かれているようでしたぞ」


 話題逸らしたのに結局教えられる。

 言うってことは、零したの僕ってわかってるな。


 あと、合格者はたぶんセフィラがカンニングして把握したそれなりに解答していた受験生たちだろう。


「して、何故そのようなことを?」

「予想はついているんでしょう。周りと違いすぎるし、一度は論文読まれてる。そのまま書いたらばれる可能性あるから、書き直したんだ」

「気づいたのは何故?」


 何か疑ってる? あ、カンニングか。


「筆の進み具合と集中具合?」

「ふむ…………」


 それらしいことを言ってみるけど、納得しかねるようだ。


「あとは秘密」

「なるほど」


 なんでそれで納得するの? まぁ、いいけど。


 そんな話をしてる内に馬車が止まるけど、目的地じゃない。


「確認で止められるの多いね」


 僕らが向かってるのは封印図書館のあるダム湖。

 以前は止められるなんてことなく進んだんだけど、今回は三回も止められている。


 もちろんこっちは許可があるので、確認したらすぐ通された。


「やはり盗人が来たようでして」

「うわ、大丈夫だった?」

「大抵は見張りが発見して事なきを得ております。ダム湖に入っても、殿下の策が功を奏し発見。例の小島にも常駐の見張りを置いておりますれば」


 未遂で済んでいたようだ。


「まぁ、入っても仕掛けは解けないでしょう。ましてや毒があると言われる緊張感の中では、到底無理でしょうなぁ」

「慢心は良くないと思うよ」

「いえいえ、盗人どもは宝狙い。誰もさらに深くに真の宝が眠っているなど考えませぬ」


 どうやらルキウサリア国王のほうで、噂を撒いたそうだ。

 封印図書館のことは知られてるけど、取り出せないという噂は知ってる。

 けどその上で、地下には宝があると少しだけ漏らしたとか。


 すると細い噂を辿るだけの力量ある盗人が、八百年手つかずの財宝を狙って現れた。

 封印図書館や錬金術なんていう眉唾な知識の宝庫よりも、目に見える財宝に飛びついてくれたらしい。


「危険じゃない?」

「あえて入れて毒の信憑性を増したそうです」


 毒で倒れたところを確保するなどしたらしい。

 実際はそこまでの害じゃないから、そういう風に喧伝したってことだろう。


「私が戻ったからには、そのような不埒者近づけはしませんが」


 何する気だか。


 僕がテスタとダム湖に着くと、すでに用意されてた船で島まで真っ直ぐ移動。

 するとそこには見たことのあるテスタの助手たちが顔を揃えていた。

 帝都まで来たノイアンもいれば、最初に同行した王城の学者もいる。


「わぁ、みんな重装備」

「俺らも用意したほうが良かったか?」

「私はあまり」


 今回ついて来たヘルコフの疑問に、素潜りができるイクトは危機感なく答える。

 ウェアレルは今回も学園関係で来ていない。


 そして助手たちはベルトにポーチが鈴なりで、いろいろ持ち込む様子だ。

 あと防寒してるっぽい人や、耳栓してる人もいる。

 水底だからね。

 封印図書館の持ち出しは禁止したけど、そう言えば持ち込みは制限してなかったな。


「まぁ、いいか。下行ってからナイラに聞こう」


 今回のルキウサリア入りは事前に決めてあったし、相談もしていた。

 その上でルキウサリア国王から要請があったんだ。

 もちろん内容は、封印図書館の調査。


 今回はできれば目に見える形での成果が欲しいそうだ。

 そのために、テスタと助手たちは画板やインク壷なんかも持参している。

 今日は封印図書館の内部を絵にして様子だけでも持ち帰る予定だ。


「じゃあ、行こうか」


 気楽な僕と違い、初見の人たちはおっかなびっくりついてくる。

 それでも知的好奇心は止められないのか、文句も言わず僕の後について水底へと下り始めた。


定期更新

次回:水底探査2

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― 新着の感想 ―
[良い点] おっかなびっくりでも、知の探求はやめられません。
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