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149話:留学準備4

 帰国からひと月、大変だった。

 何がって?

 テスタの錬金術に関する質問がだよ。


 ストラテーグ侯爵からレーヴァン伝いに質問状の巻物が届くんだ。

 開いて見せたレーヴァンも、床につくほどの紙の量に引いてた。

 読んで質問の答え書くのも大変で、なのに三日もすると新たな質問が来る。


(あれもしかして、いっそ呼んで話させろっていうアピールだったりする? あぁ、そう言えば、数年前のセフィラもこんなだったな)

(異議を申し立てる)


 相変わらず勝手に思考に混入するけど異論は認めないよ。

 近くにいるから毎日細々聞いてくるか、簡単に会えないから纏めて聞いてくるかの違いしかないじゃないか。

 自分の知的好奇心抑えられてないところは一緒だ。


(九十歳の新しい扉開いちゃったのが駄目だったかなぁ)

(幾つであっても新たな知見を得られることは僥倖であると推察)

(うん、やっぱり似てるよね)


 そう思っていると好奇心に輝く視線を感じる。


 今は宮殿の本館にある、テリーの練習場に来ていた。

 もちろん弟たちと魔法の練習中で、今日は仲間はずれは嫌だと盛大に主張したライアも一緒。

 だから周囲には妃殿下はもちろん侍女たちもいる。

 全員の視線は僕が用意した特別な的に向かっていた。


「面白いことをしているな」

「陛下」


 視線の発生源は、遅れてやって来た父だった。


「微妙に光るあの輪はなんだ? ライアも加えて魔法の練習と聞いていたが?」


 父が差すのは防錆加工をした金属の輪。

 持ち手の棒がついていて、輪の中には透明だけど虹色に光を反射する膜が張っている。


 簡単に言えば、子供くらいなら通る大きさのシャボン玉を作るポイだ。

 種類は二つで、大きな円一つと、小さな丸が中央の大きめの丸を囲む形のもの。

 それらを的として、今テリーたちが風の魔法を放っていた。


「上手く威力を調整して当てられたら、ほら」


 ちょうどテリーが上手く的に当て、膜を破らずシャボン玉を作り上げた。

 同時に調整が上手くいかなかったワーネルが、隣の的のシャボン液を吹き飛ばす。


「洗濯物の泡みたいだな?」

「はい、同じようなものです。少し壊れにくくしているだけで。割らないよう上手くやるとあのシャボン玉が大量に出るんです」

「ほう、面白そうだ」


 父が子供のように興味を示す。

 ただテリーたちも的二つを交代で使用しており、それでも待ちきれずに双子とライアはずっと喋っていた。


 その様子を見守る父は動く気はないようで、僕の隣にいる。


「あの火花を散らせる魔法の風属性バージョンと言ったところか。実用よりもコントロールの練習だろう。風は目に見えない分、イメージも難しいからな」


 魔法はイメージに左右される点で面倒なのが、視覚に頼る人間には風はとらえきれないことだ。

 他の属性も竜人ほど熱に強くなく、海人ほど水の中を自由に動けず、ドワーフほど地下の圧迫感に慣れてない。

 そのことが人間では魔法を極められないと言われる一因だった。


 その中でもエルフは風に適性があり、その長い耳は風を捕らえるためにあるとも言われるほど。

 エルフのハーフであるウェアレル曰く、ただの迷信らしいけどね。


「ライアは実験で見て雷魔法を使えました。だったら、代替できるイメージを強く想起できれば、魔法の向上に繋がると思って」


 実際僕はそれで魔法を使ってる。

 イメージするのは前世の家電やインフラだから、弟たちに教えられないので代替案を考えた結果、目に見える形にして見たんだ。


「呪文もなぁ、一度覚えると頭に浮かべるだけでいいんだが、覚えて魔法にできるようになるまでがかかる」

「上手くなったかどうかは、剣を振るほうがわかりやすいですよね」

「そうだな。ヘルコフの教えはどうだ?」

「ようやく最近、受け流すことに成功するようになりました」


 もちろんヘルコフに打ち返すなんて全然できない。

 ここみたいに思いっきり振れる場所でもない室内での練習だから、ヘルコフは完全に加減をした上でその程度だ。

 それでもやってれば、筋肉はつくし上手く型に入った手応えはある。


 魔法だと魔力から呪文、さらには魔法そのものさえ目に見えないこともあって、正直練習ばかりだと手応えがない。

 父としてはその辺りの違いに苦手意識があるようだ。

 僕もイメージ先行だからやれることはそんなに多くないんだよね。

 ただ他とやり方が違うから珍しがられる感じだ。


「あのような練習方法も過去の知識に?」

「いえ、あれは僕の思いつきですよ」

「そうか、やはりアーシャは賢いなぁ。俺が子供の時にあんな風に教えられていたらもう少し魔法の呪文も覚えただろうに」


 父は封印図書館からと思ったようだけど、本当にただのお遊びだ。


 だって危険がなければ魔法、面白いじゃん。

 絶対魔法でぶわーっとシャボン玉とんだら喜ぶと思ったんだよ。

 そう、僕は弟と妹の笑顔が何よりのやる気です。


「それで、この後少し時間はあるか?」


 一緒に楽しげな弟妹を堪能して、父がそっと聞いてくる。

 致し方ないけどこうして来てくれたなら用事があるのは察していた。


 まだテリーたちは遊び続けているので、僕はこの場を離れるため妃殿下に声をかけた。

 けどその動きにテリーが気づいてしまう。


「ちち、いえ、陛下。兄上とどうなさったんですか?」

「少し、ルキウサリアのことでな」


 つまり封印図書館関係かな。

 妃殿下にも伏せているから、知ってるのはルキウサリア国王に貸しを作る形で僕が留学することくらいだ。

 その調整にも僕が関わっているため、妃殿下には貸しの点を教えている。

 けどテリーはルキウサリアで問題があったくらいにしか知らない。


 そのせいか、声をかけて来たテリーは緊張ぎみだ。

 心配してくれてるんだろうけど、大したことじゃないと今回言えないのが申し訳ない。

 というか、引き篭もってる以外で外出ると何かしら問題が起きるな、僕。

 あれ? これは、兄として僕、頼りない感じじゃない?


「…………まだ早いと思うが、先を思えば、どうだ?」


 父が僕に耳うちして来た。

 確かに密約は皇帝として知っておくべきことだし、それを継ぐテリーに報せるのはあり。

 ただしっかりしてるとはいえ十歳だ。

 巻き込むには相手もある内容なので、この場で決めるべきではない。


 父も早いとは言ったけど、ルキウサリアの学園に僕と入れ違う形で入る。

 だったら今の内から噛ませるのはありというか、いっそ国同士の交渉相手として僕は役者不足だから、テリーが出るのはいい案な気がする。


「一度先方に確認を。その上で、あちらの姫君が知る程度は共有すべきかと。ただ、一つ条件を設けてはいかがでしょう?」


 僕の轍を踏まないように、前振り的なことをするべきだと思う。

 その上で達成感と予行演習になればいいんじゃないかな。

 僕が兄として、将来皇帝になるテリーにできるのはこの程度だろう。

 それでもやれるうちはお兄ちゃんとしていたいしね。


「その上で、そちらとは別に、サロンについては関わることも必要だと思います」

「それは、アーシャのほうが」

「いえ、妃殿下。僕は来年には離れるので、テリーこそ必要ですよ」


 こっちで話す間、テリーはわからないままだ。

 双子はライアの相手だけど、どうやら気にしてはいるらしい。


「あの、兄上。条件とは?」

「テリー、焦らないで。それを決めるためにもまず陛下も考える時間がないと、ね?」


 父が僕を見るけど、発案僕のままだと密約主導する立場がないだろうに。

 父としては僕が持ってきた話だし、僕が主導してるようなものだと思ってるんだろうけどそこは意欲的に皇帝として取り組んでほしい。


 息子の手柄と思ってるからか、僕に対しての姿勢が一歩引いてるのがな。

 けどここは皇帝に立ってもらわないと、僕の留学後の身の振り方に関わる。

 ひいてはテリーたちの未来にもだ。


「陛下、お話はどちらで行いますか」

「あぁ、私の書斎で話そう」


 言われて父に続こうとすると、テリーが僕の袖を掴んで引き留める。


「あ、あの、僕に、手伝えることはある? 兄上」

「もちろん」


 咄嗟のことでテリー自身が驚いているけれど、確認する声は真摯だ。

 その真剣さに僕が笑みを浮かべると、テリーはようやく年相応に微笑んでくれたのだった。


定期更新

次回:留学準備5

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― 新着の感想 ―
[良い点]  徹頭徹尾家族想い、特に兄妹たちへの想いが伝わってくる。  前世での悔いというか果たされなかった人生をきちんと今世でなんとかしようという姿勢がはっきりと伺えるのがとても好感が持てます。  …
[一言] 風圧を飛ばしてシャボン玉ね…子供だけでなく学生のカリキュラムとしても有用じゃないかなぁこれ。
[一言] これだけ全力で愛されてると兄弟達はお兄ちゃんを憎んだり出来ないよなぁ。だからこそ全力で接触を阻止してたんでしょうが
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