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133話:封印図書館3

 僕たちは船を出してダム湖の教会へ向かった。

 何度も調べが入っているので、桟橋もあれば島に滞在して調べられる部屋もある。


「ただすでに無人です。ダムとなる時に教会自体は移転し、建物は放棄されました。そのため手入れの行き届いていないところもあることはご了承ください」

「うん、大丈夫。階段は使えるかな。この教会の地図はある?」

「はい、お渡しした資料の中に」


 僕は好奇心に突き動かされて急いでしまうのに、ディオラもつき合ってくれる。

 皇子と王女なので城にいた学者や、土地の管理人、なんか封印図書館研究第一人者の助手という微妙な人まで一緒に上陸していた。

 そっち側から妙に生暖かい視線が漂ってくるのは気のせいかな?


 なんて思ったらすぐ側の警護二人がこそこそ言い合う声もする。


「トトスさん、まさか、まさかですよね?」

「どう考えても、目途があっての行動だ。諦めろ」


 うーん、これはこのままだと止められそう?


(発見、したいけど…………ストラテーグ侯爵もいるし面倒ごともなぁ)

(推奨、推奨、推奨)

(わかってるって、僕も気になるから。けど、確かにこの状況で僕が見つけてその後の処理をどうするかは考えないと)

(ルキウサリア国王には全ての図書館の利用を求めています。であるならばここも範疇です)

(それはそうだけど、何があるかだよ。しかも本当に見つけたら大発見で、どうやっても発表は大々的になる。僕が目立つの避けるつもりなのに)

(小舟での移動のため人員少数。口止め可能範囲です)


 なんかセフィラがいけない方向に学習してる気がする。

 ただ確かにそのとおりでもあるんだ。

 学者と助手と管理人の他は僕の警護二人とヘルコフ、ディオラの警護二人と侍女二人で十人。


 僕は侍女二人と管理人には、疲れた時の休憩所の準備をお願いして、七人にする。

 ディオラのほうの警護二人は、先に内部に危険がないか、その後は外部を回って島の中に危険がないかを確認と言って引き離し、同行は半数の五人にした。


「これでいいと思う、レーヴァン?」

「…………やめません?」

「せっかく来たんだから疑問は解消しておきたいからね」


 早くもレーヴァンが消極的だけど、気にせず僕は地図で目星をつけた地下へ向かう。


「ここは地下の、物置ですね。資料によると、かつては台所でしたが、改修工事の後に不備があり、解消できずに物置にしたそうです」

「そう。ありがとう、ディオラ。あるなら下だと思うんだ」

「いえいえ、定説としましては扉か壁と言われております。それと言いますのも、詩文の六段に語られる軍についての記述は、侵入者に備える内容が主となるためです」


 たぶん否定する助手としては、善意と学術的な考えを語りたい気持ちなんだろう。

 それに城の学者も大いに頷いて知ることを語る。


「この教会全体はすでに調べ尽され、地下には何もないこともわかっています。特に物置は教会が移転した際に物資もすべて移動されており今では見てわかるほど何もありません」


 無駄足を止めようとするけど、僕は気にせず暗い地下に向かった。

 天井近くに明り取りがあるけど、半地下は暗い。

 ただそれでも石造りの室内には何もないことは見てわかる。

 残されているのも、かつて厨房だった名残の作り付けの棚や台、暖炉くらいのものだ。


「アーシャさま、お考えをお聞かせいただけませんか?」

「資料にあるとおり、詩文の王について語られる一段目は封印の経緯。司祭について語られる二段目は危険性。聖所について語られる三段目は警告。四段目と五段目の国と法について語られる箇所はこの場所。それらは合ってると思う。だからこそ、六段目の軍について語られるのも、封印図書館へ行くための道順という解釈もわかる」


 僕は暗い中、魔法で火を出し、列にして天井に浮かべる。

 室内をよく観察して、石壁や柱に施された装飾を見えるようにした。


「その上で、帝室の所蔵する図書に書かれた、水底図書館という記述。あれが封印図書館のことであるなら、場所はもうわかってる」


 僕が下を指差すと、途端に助手と学者が反論した。


「まさか! 水の底で建造物は潰れます。保っているはずがありません」

「そうですとも、それに図書館があっても蔵書の維持などできないのですよ」

「暗くて寒い水の底は、水圧に耐え湿気を遮断できれば、蔵書の劣化しない環境を作れる。そして、図書館として機能させられる設備が、高度な錬金術を使うなら可能なんだ」


 そこまでは僕の考えを聞いてたのに、錬金術と言ったら半笑いされる。

 酷いなぁ。


「確かに詩文の内容は外敵を防ぐための軍備。けど、撃退を想定した内容で軍馬や歩兵、戦車、兵糧についても語ってる」


 ただ詩文なので内容はそう多くない。

 語られているのも国についてという体裁で、国とはこうあるべき、王が目指す治世とはこういうものだと語る珍しいことはない詩だ。

 その上で場所を特定するための数字への置き換えは、まず前提として詩に語られた名詞が数字に置き換えられるというルキウサリアでの常識を踏まえていなければいけない。


「ディオラ、軍馬、歩兵、戦車、兵糧について、連想できるものってある? あ、それとも軍備のためにお金や小麦についても語ってるからそっちかな?」

「軍馬については千年ほど前に国営の馬房があったとか。歩兵は、その頃槍が主流で、戦車は珍しく、持っているのは王侯で数も制限があったと。兵糧は、思い当たりません」


 その他にも八百年より以前の貨幣の柄や小麦の産地など、僕たちは話しながら地下を三周。

 うん、これは諦めた。


(狡いけど、出番だセフィラ。床下を走査して仕掛けを見つけて)

(すでに済ませています。床下には機構を隠す部屋が存在。しかしそこへの出入り口はこちらにはありません)

(早すぎるけど、今はいいや。その機構が作動してこっちに作用する仕掛けの場所は?)


 僕はセフィラに聞きながら、暖炉へ向かう。


「あ、この暖炉。もしかしたら馬車と関わるかもしれません。王の馬車には鏡を張るという形式がありました」


 ディオラが暖炉の石に彫られた丸を差して言う。

 たぶん正解で、セフィラが言うにはこの暖炉の下に機構の仕掛けが働くそうだ。

 その上でどうも仕掛けが作動するには不備があるという。


(壁に機構を一部露出させる隠し扉があります)

(うわ、すっごい綺麗に壁の石はまってるから、これは知らないと動くとは思えないな)


 僕はセフィラに言われた壁周辺を調べる。


「ディオラ、この意匠の意味はわかる?」

「点が不規則に並んで…………もしかして、馬座でしょうか?」

「あぁ、星座か。なるほど」


 星座は、もともと方角や季節を知るためにあるもので、もちろんこの世界にも独自の星座がある。


 ディオラの言葉で気づいたふりで、僕はセフィラのあんちょこで壁の隠し扉を開けた。


「あぁ、なるほど。あえて仕掛けが動かないよう外してるのか。よし、これは…………パズルだな」


 僕は壁の中で細切れにされた金属の筒を動かす。

 始点と終点だけは外れないようになっていて、他は方向や位置を嵌め直すことで、全ての筒を使い始点と終点を繋げた。


「これで一つ。次は歩兵に合致する物があるといいんだけど」

「歩兵、槍、兜? あ、兵科の隊長は兜に特徴的な飾りをしています。そうした絵を見たことがあるのです」


 ディオラは部屋を見回して、天井近くの柱の上にヤシの葉っぱにも見える扇状の模様を見つける。

 どうやらそれが歩兵隊長の兜飾りに似ているらしい。


 そこにあった仕掛けを解くと柱が全て開き、中には壷がぶら下がっていた。

 どうやら錘になっているようで、正しい量の水を入れて仕掛けを動かせる均衡を作らなければいけない。


「よし、ここはこれで終わり。次だ」

「はい、アーシャさま」


 僕たちは部屋を動き回って仕掛けを解いていく。

 光度センサーやフックで引っ張って反応させる古い天井照明のような物まであり、正直謎解きゲームみたいで面白い。


 そして、最後に隠されていた暗号を見つけ、その暗号どおりに作り付けの棚の飾り文字のタイルを並べ替えれば、暖炉から重い音が響き始めた。


「開いた! 地下への扉だ」

「すごいです! アーシャさま!」


 僕はやり切った思いでディオラと喜びあうと、レーヴァンが震える声を漏らす。


「うそぉ…………」

「おーい、これは今まで発見されていたか?」


 ヘルコフが確認すると、助手と学者は揃って激しく首を横に振った。

 暖炉の中は奥が広くなり、下も床が開いて階段が現われ、イクトが安全確認で覗き込む。


「しっかりした造りの階段ですね。アーシャ殿下、何故わかったか聞いても?」

「ダムの放水路の所に水車があったでしょ? あれたぶん、小雷ランプの大型を動かすための装置なんだよ。それだけの明かりが必要な場所って、太陽の光が届かない水底だろうなって」


 イクトに答えて、僕は階段に足をかけた。

 すると人感センサーまであるのか階段に明かりがつく。

 ただ明かりがあってもなお、下へと向かう階段は果ての見えない長さがあった。


定期更新

次回:封印図書館4

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々、段取りは考えなきゃですが、今はデートを楽しみましょう!
[良い点] 閑話用モブすき
[良い点] 推奨を連呼wwwセフィラさんの押しが強いwwwwww まだまだなんだろうけどだいぶ感情が豊かになってきたというか、知識欲は元からだけどそれを満たすために知恵を捻るようになったなぁと感慨深さ…
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