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130話:入学体験5

「何かすると思っていましたが、あまりにも早すぎますぞ、殿下」

「僕のせいではないです。というか、最初から僕を疑う姿勢はどうかと思う」

「あなたのやり方は身に染みていますので」


 僕はストラテーグ侯爵と、お互いにチクチク言い合う。

 ルキウサリア国王は僕たちのやり取りを見て、ストラテーグ侯爵を仲間に引き入れることを決めてしまった。

 上手くいってるところを邪魔するなんてひどいよ、もう。


 そしてしれっとレーヴァンもいるし、僕の警護として来てたはずでしょ。

 それに誰も咎めないって、懐刀まで顔パスなくらいストラテーグ侯爵のルキウサリアでの地位って高いの?


「大抵こちらを煽るやり方をするのです。真に受けてはいけませんぞ」


 そしてストラテーグ侯爵がルキウサリア国王に入れ知恵を始めた。


「では、入学しないというのは?」

「あ、いや…………それは数年前から言っていたことですな」

「む、では帝国貴族として学内の処分に口を挟む形のほうか」


 ルキウサリア国王の見解に、ストラテーグ侯爵は頷く。

 本当にわかっててやりにくいなぁ。


 さらにストラテーグ侯爵は僕を見る。


「すでに元近衛の家を処分し、その余波でまとまりも悪い。これ以上貴族の反感を煽るやり方は、行政にも影響する悪手でしょう。少なくとも皇帝に敵を作るのは本意ではないはず。ましてや今後弟殿下方が入学されることを考えれば…………」


 本当にこっちの事情知った上で読んでるから厄介だな。

 けど考えてみれば七年の付き合いだ。

 僕のスタンスくらいわかっているか。


「教師は学園を追い出して処分を決めた後は帝国で好きにされればよい。ただ学生は学園入学が叶えば学生として保護します。そのためには入学志望者を潰させるわけには行きません」


 しかも僕が考えてた落としどころも言っちゃう。

 教師は害悪だし、テリーに近づける実家の力もあるなら皇帝の名の下に処断したい。

 けど子供はその失態で親のほうを揺さぶる以上の価値はない。


「いいですか、陛下。第一皇子殿下を子供と思ってはいけない。ディオラ姫ほどの可愛げを期待してもいけないのです」

「…………レーヴァン、そろそろ止めて」

「あ、はい」


 僕に応じてレーヴァンがストラテーグ侯爵の気を引き、止める。


「あのレヴィが、素直に?」


 そう言えばレーヴァンもルキウサリア王国出身だ。

 しかもこれだけの無礼を見逃してもらえるストラテーグ侯爵に近いなら、王室関係者?

 帝国の宮殿では、ただの文官が何処かの王位継承権を持ってるなんてよくあることだ。

 とは言え、無礼者のレーヴァンに王室との繋がりがあったのはちょっと意外だった。


「レーヴァンは名目上、僕の警護ですから」


 一応そう言っておいて、本題に入る。

 もうこうなったら正面から行くしかない。

 できればルキウサリア国王から折れる形が、こっちとしては話し進めやすかったんだけど。

 向こうに負い目があれば、僕が困るような条件提示とかされないだろうし。


 けどこうなったらもう理詰めだ。


「今回、引率教員に隔意があったのは不幸な縁でした。けれど、数時間僕はその状況に甘んじています。他の教員が様子を見に来ることも、学内でのできごとを見咎める者もいない状況は問題でしょう」


 僕はそれなりの時間学内を見学し、模擬授業も受けた。

 その間に学園関係者と思しき者たちはいたけど、異常を察知できた者はいない。

 さらに対決では、ことが起きている上にいじめっ子は大声を出してもいた。

 なのに様子を見にも来ないって、学内で何が起きていてもわからないってことだ。


「今後、教員が引率する場合には最低一人補助をつけてもらいたい。また、定期的に巡回させ、異変を見逃さないよう人手を配置。これらの改善を、王室として学園に働きかけることは?」

「もちろん。改善案までいただけた以上は必ず」


 つらつらと語る僕に、ルキウサリア国王は引きぎみ、いや、警戒かな?

 これで確約はできないなんて言われたら、王室と学園運営との力関係がわかる。

 けどどうやら手綱は王室にあるらしい。

 だったら大丈夫かな?


「あの顔してる時って、大抵とんでもない発言する前ですよ」

「あぁ、確かに。派兵前にも炙り出しのことでもあんな顔をしていたな」


 頷き合うレーヴァンとストラテーグ侯爵。

 ルキウサリア国王が身構えてしまった。


 やりにくいなー。


「横やりを入れないで。時間がないのは確かなんだ。もうその落としどころでいいので、すぐに処分に関する書面をください。それを僕の名前で直接陛下に送ります。これで少なくともユーラシオン公爵より先に動ける。それで学園としても、もう処分は決定して送付済みと回答できるでしょう」


 色々出入り見張られるけど、僕なら陛下に直接送れるルートがある。

 派兵の時の偽造の事件から、僕の手紙は父に必ず届くよう厳しく言い渡されてるから。


 ルキウサリア国王が片手で合図すると、担当らしい人物が一人部屋を出て行く。

 さらに一人を近くに呼んで耳うちすると、呼ばれた一人の他三人が一緒に室外へ出た。


「第一皇子殿下のお気遣い、感謝する」


 もちろんこれはルキウサリア国王への貸しだ。

 口では感謝しつつも、目はまだ何かあるだろうと構えたまま。

 これは難題が去ったと気を抜いた隙を窺うのは無理だね。

 それほどストラテーグ侯爵とレーヴァンの発言を重く見てるってことだ。

 やっぱり侮られないってやりにくいな。


「では、単刀直入に言います。今回、皇子である僕への失態は目を瞑ります。その代わり、ルキウサリアに留学をさせてください。そしてルキウサリアにある図書館全ての閲覧の許可をいただきたい」


 ストラテーグ侯爵たちも唖然として、ルキウサリア国王は聞き返す。


「留学? 入学ではなく?」

「現状、僕が入学すれば今回と同じことが起きます。それを防げる方策はないと見ました。であるならば、勉学に集中する環境を得るために留学するほうがいいでしょう」


 王室も、生徒一人一人を監視するわけにもいかない。

 そして入学したとしても僕が皇子である限り厄介ごとは降りかかる。

 だったら学園に近寄らず、入学すらしなければもうマナーの家庭教師がどうこういう必要もない。

 妃殿下と相談したとおり、宮中警護を通して時間をかけて習い覚えればいい。


「…………ルキウサリアの書籍を読み、次は何を作るつもりですかな?」


 ストラテーグ侯爵には小雷ランプのことはバレてる。

 陛下が僕の助言から、宮殿内部の設備の改修をしていることも知ってるだろう。


 その上でこう聞いてくるってことは…………。


「復元できる物はお伝えしますし、そちらで再発見という形を取っていただいてけっこう。代わりに学園の図書閲覧も可能にしていただきたいところですね」

「は?」

「学園内部を見たところ、映写機がありました。あれは学業において有用です。内部構造を調べさせてもらえるのならば、修理してお渡しします」


 学園の敷地内に入って、もちろんセフィラが大人しくしている訳もなく。

 離れないながら走査して色々のぞき見をしていた。

 その結果、倉庫のようなところで忘れ去られた映写機を発見してある。


 実はすでにセフィラが走査済みで、原理は民芸品の走馬燈のような物。

 手書きした図面資料を大写しにできる道具だ。

 レンズもついてるから民芸品のようなぼやけも少ないという。

 魔法だと図解って多いし、教科書も買うだけじゃなく作る側にもお金がかかる。

 だから大勢で見られる道具一つあれば有用だろう。


「え、いしゃ、き?」


 ルキウサリア国王は初耳らしい。

 ストラテーグ侯爵もわからないので、説明して有用性を説くところからだった。


「なんでそんなのあるの知ってるんですか? 見学コースじゃないでしょ、絶対」

「…………いやぁ、悪戯してくる子供を避けてたまたまね」


 レーヴァンが無駄に鋭いから、深掘りされないよう言葉を選ぶ。

 その上でこれ以上疑われてもやりにくいから、僕は指を立ててみせた。


「ここからが本題です」


 まだ留学が肝じゃないと伝えると、レーヴァンも口を閉じる。


「学内の者にも極力極秘に、一人分、入学者の枠を偽造してほしいんです」

「…………あ」


 一番最初に意図に気づいたレーヴァンが声をもらした。

 変に鋭いと気づきたくなかったことにも気づいちゃうよね。

 そしてもちろんストラテーグ侯爵とルキウサリア国王、その他室内に残った者の視線がレーヴァンに集まる。

 僕も先を促して手を向けた。


 けれどレーヴァンはわかったからこそ言いたくないと顔で示す。

 すっごい渋い顔をするんだけど、結局周囲の圧に負けて絞り出すように推測を述べた。


「つまり、第一皇子は入学しないってことです」


定期更新

次回:封印図書館

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― 新着の感想 ―
話のバランスめちゃくちゃすぎでしょう。 主人公を理不尽な目に遇わせるために作者さん全力尽くしすぎ。 読んでて皇帝の力が弱いとかじゃなくてもう帝国っていう枠組み自体が寿命としか思えないです。 現皇帝がい…
ストラテーグは何をしてるの? 話は学園内の問題じゃなくて帝国と王国の問題になりかけてる様な場面に、帝国の宮廷警護を取り仕切る様な立場の存在が無理矢理話し合いに首突っ込んだと思ったら、皇子を貶す様な発言…
[一言] 封印図書館 いい響きですよねぇ できる事ならば死ぬまでずっと一冊一冊読んでいたい 本の虫になったきっかけが小説(ラノベ)ではありますが
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