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124話:初恋の君4

 ソティリオスが温室の外にいた。

 気づいてしまった僕は、ディオラと一緒に様子を見るため外へ出る。

 するとこっちの動きに気づいたソティリオスは小走りにやって来た。

 その落ち着きのない様子は年相応に未熟な少年らしい姿だ。


「こ、これは偶然で、ですね! ディオラ姫!」


 噛み噛みの上、見たことないくらい浮ついてる。

 その上で僕は眼中外らしい。


 それに困ったのはディオラだ。

 うん、僕を蔑ろにできないよね。

 ここで答えたらソティリオスの僕に対する扱い肯定するようなものだし。

 だからって招かれた側で、僕を紹介するような立ち位置に収まるのおかしい。


(いや、本当何やってるんだよ?)

(大変貴重なサンプルケースを発見)

(セフィラはちょっと待って。浮足立ってるだけだから。しっかり記録しないであげて)


 あれだ、紅潮した顔、普段にも増して高い声、そして早口の割に顔が強張って上手く言葉が出ない様子。


(これ、お年頃のやつだから)

(仔細を求める)

(求めないで、その、恋だよ。年齢的に多分初恋。本人もどうしていいかわからないんだから、そっとしておいてあげるべきなの)

(…………該当文言過多。隠された文書に多く見られる言葉であると認識)


 色々突っ込みたいけど、今はセフィラ・セフィロトより目の前のことだ。


 ここは僕が言うしかないか。

 けど問題もある。


「…………ディオラ、ちょっと驚かせるけど知らないふりをして」


 僕は声をかけるため、ディオラに耳うちをして注意を促す。

 それでようやくソティリオスも僕を見て、そして認識した。


「やぁ…………久しぶり、という、ほどではないかな…………?」

「え? あ…………」


 ディオラは僕の不自然なくらいに間延びした口調に驚き、慌てて口を手で覆う。


 ソティリオスはそんなディオラの反応に不思議そうなだけで、まだ僕の演技には気づいてないようだ。

 まぁ、昔会った時からだからそういう奴だって僕のこと認識してるだろうしね。

 逆に疑問に思うなら、なんで子供の時から演技してるんだって話になる。


「こ、これは、第一皇子、殿下…………」


 ソティリオスもばつが悪そうだ。

 僕相手にずいぶん偉ぶってたしね。

 今のあれな言動と浮かれ具合見られたとなると恥ずかしいよね。


(何故態度が違うのでしょう? 取り繕う理由の詳細を求む)

(本当好奇心に突き進むよね。簡単に言うと、僕には嫌われてもいいから尊大に接してたわけだ。けどディオラには好かれたいから尊大な態度を取って嫌われたくない)


 で、どんな態度を取るべきか迷って言葉が出ない。

 いやぁ、大人ぶって偉そうだなぁと思ってたけど、年相応の反応を見ると微笑ましすぎてこっちが恥ずかしくなる。

 うん、恋する中学生って感じだよね。


 前世で自分がその歳の頃は受験だなんだで余裕がなく、高校でも大学受験を見据えてた。

 大学になったら就職が待っていて、ようやく家を出て暮らし出した時には、恋愛ってどうするものかわからず三十だったものだ。


「何故、ディオラ姫と一緒に?」

「私は、アーシャさまにお会いしに来たのです」


 ディオラの答えに、何故かソティリオスがショックを受ける。


「わ、私のことは、ソーとは呼んでくれないのに…………」


 つまり愛称で呼んでほしいらしい。

 しかも親からは確かソートと呼ばれてたから、また違った家族以外での親しい人からの呼ばれ方なんだろう。

 ちらっとディオラを窺えば、気まずそうにしている。


(これはあえて呼ばないようにしてるみたいだね)

(何故でしょう?)

(ディオラもソティリオスの気持ちわかってる。だからこそ、その気がないディオラは親しくならないように線引きしてるんだ)

(呼び方ひとつで?)

(まずは一歩進まないと関係性なんて発展しないでしょう? 呼び方っていうのはその距離を詰めるとっかかりかな)

(理解しました。隠された手紙にも、本人たちにしか通じない呼びかけが散見されますが、あれは関係の秘匿を重視したものではないのですね)

(ないだろうね。いや、それもあるだろうけど、たぶん二人だけにしか通じないっていう共通の秘密がある分、関係が深まったように感じて楽しんでたんじゃない?)


 呼び方で特別感なんて、それこそ学生がやりそうな考えだ。

 まぁ、ここじゃ大人もやってるみたいだけど。

 そして隠してある手紙を話題に出すのを叱ったせいか、見たって言わないだけで走査して文章抽出することは続けてたな、セフィラ。


「何故、なぜ第一皇子殿下に会われているのです?」


 嫉妬の籠った目で睨まれるのは気づかないふりで、僕は困るディオラに代わって応じる。


「僕は、ディオラと…………文通を…………して、いるよ」

「は、はい。アーシャさまとは長らく。それで、今日は去年お手紙も交わせなかったので」

「心配…………かけた、みたい、だね…………」

「えぇ、とても心配しました。手紙でも、書きましたが、本当に、ご無事でよかった」


 僕の喋りに困惑ぎみだったディオラは、思い立った様子で僕にずいっと近づいてきた。


 テーブルがなくなった分しっかり近くで見つめる。

 改めて僕に傷跡も何もないのを見て微笑みを浮かべた。


「近い! …………のでは、ないでしょうか? せ、節度と言うものを、ですね」


 ソティリオスが歯ぎしりしそうな顔で、僕とディオラの距離を咎める。

 指摘されたディオラは照れて頬を染めた。

 そんな表情にソティリオスはあっけなく目を奪われる。


 可愛いのはわかるけど、まだまだ思い人の前で浮足立ちすぎてるんじゃない?

 っていうか、こう、なんか…………優越感あるな。

 いや、ディオラに失礼だし、今のはなしなし。


「ソティリオスは…………どうして、ここに?」


 もちろんディオラが目当てだろうけど、僕は危ない思考を逸らすために聞く。

 まだちょっと、中学生くらいのディオラを恋愛対象に見るのは、いやいや、王女って言う立場があるから僕とそんなに近くいても後で困るんだよ、ディオラが、うん。


 僕の言葉で思い出したようにソティリオスは慌てる。

 できる子風だったのにどんどん残念になって行くな、ソティリオス。


「ディオラ姫、学園の入学体験にはもちろん行かれますよね?」

「えぇ」

「それまでは帝都に滞在なさるとか。でしたら、ぜひ我が家の馬車で共にルキウサリアに」


 どうやら建前は旅路のお誘いのようだ。

 けどディオラは困った様子で僕を見る。


「帝室の馬車を、出したほうが…………いいかな?」

「いえ、お招きしますのは私のほうですから。申し訳ありません、ソティリオスさま。私はアーシャさまをお招きしますので、アーシャさまと共に参ります」


 もちろん僕が先約だから、何処に恥じる必要もないけど。

 ちょっと泣きそうな目をしたソティリオスに同情してしまう。

 ハドリアーヌ御一行の時もそうだけど、間が悪いなぁ。


 けどディオラも近づく気はないみたいだし、ここは僕が間に入るべきだろう。

 いや、僕もディオラみたいに態度で示すべき?

 けどお友達でいたい、というか、ディオラはまだ僕が好きなのかな?

 友人としては確実に好かれてるけど、これって異性としてで合ってる?

 今だいぶ駄目な言動見せてるけど、それでもまだ好きでいてくれるのかな?

 あれ? これって確認すべき? でもどうやって確認すればいいんだろう?

 うん? とんでもない難問来たぞ?

 ディオラを傷つけず、今後の友達関係なくさないように、それとなく?

 …………無理じゃない?


「わ、私も一緒に参ります!」

「え?」


 僕が思わぬ難問に意識を持っていかれていると、ソティリオスが勢いで何か言い出した。


「行く先は同じなのですし! 殿下とは浅からぬ縁がありますから!」


 ソティリオスがもう躍起になってそんなことを言い出した。

 時期ずらす理由もないし、僕たちにユーラシオン公爵子息の行動を制限する権限なんてない。

 僕はディオラと顔を見合わせて、特にお互い言うことがないのを確認する。


「好きに、すれば…………いいんじゃないかな?」

「そうさせてもらいます!」


 なんか喧嘩売られるような勢いで返された。

 この後どうしようと思って視線を逸らすと、温室の陰に誰かいる?


 紫色の髪を縦ロールにして、目を涙に潤ませ、ハンカチを噛んで声を殺したドレスの少女が睨む先は…………ディオラ?

 僕の視線なんて眼中外らしく、悔しげにしていた少女は、突然耐えられないような表情になると、ドレスを翻して走り去っていった。


定期更新

次回:初恋の君5

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― 新着の感想 ―
甘酢っぺぇーと言うか案外俗物思考あるんだねアーシャ 前世が大人になりきれてない大人だった弊害もあるんだろうけど仙人みたいな思考回路してる部分あるし
[良い点] アーシャのなんだかんだで染み出す俗っぽさ [一言] 罪な男と女だねぇ誰がとは言わないが
[気になる点] 城ですからね、貴族子弟やご婦人方が自由に出入りできるよう解放されてる庭園があってもなんら不思議はないですね。 ただ、ストラテーグ侯爵が余人を廃してるはずなのに…?という疑問は確かにある…
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