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118話:ハドリアーヌ王国御一行3

「兄上!」

「求婚されたって本当!?」

「結婚するの!?」


 左翼の部屋に戻ったら、弟たちが突撃してきました。

 あ、後ろでぴょんぴょん跳ねて興味津々のお顔してるのは妹のライアだ。

 金髪が跳ねてかーわーいー。


 そして弟たちも頬を紅潮させて興味津々なんて、もうそんなお年頃なんだね。

 こっちもかーわーいー。


「いやされる…………」

「アーシャさま、できれば実際のところ教えてほしいのですが?」

「俺たちも離宮には近づけなかったんで」


 ウェアレルとヘルコフは、難しい顔して戻った僕に気を使って、待っててくれたはずだけど。

 どうやら長引くと見て急かして来た。

 唯一宮中警護として会場の警備で潜り込んでたイクトは僕を窺いつつ手短に話す。


「お相手はナースタシア第二王女。アーシャ殿下はその場でお断りをしました」

「何が駄目だったか後学のため教えてください、兄上」

「兄上はどんな人が好き? 王女は好きじゃなかった?」

「兄上はどんな人と結婚したい? 王女は嫌だった?」

「お庭のお茶会、楽しかった? どんなだった?」


 わー、家族旅行から僕を兄と再認識してくれたライアもトコトコ寄って来てくれたー。


「あの、殿下? 何やら心ここにあらずというようなお顔ですが?」

「そう言えば、七つのみぎりにもルキウサリア王国の王女より求婚されたと聞きましたね」


 ウォルドとノマリオラはいきなり来た弟妹たちのために椅子や飲み物を整えつつ、そんな懐かしい話をしてる。


 ディオラはねぇ、その後のストラテーグ侯爵の痴態がすごかったからなぁ。


「ナースタシア王女とは違うよ、うん。ディオラと今回は全然違う」


 現実逃避を切り上げて、僕は弟と妹に座るよう勧める。


 テリーたちの警護に目配せをすれば、ある程度現状を理解しているらしく頷いた。

 ライアの侍女だけは、あまり込み入った話はしてほしくないようで首を横に振る。


「騒がれるほどのことではなかったんだ。会って数日だし、向こうも本気ではないよ」


 ライアに刺激が少ないようぼかしつつ、結婚はありえないと告げることにした。


「フラグリス王太子が体調を悪くなさって休憩スペースに案内したすぐ後だったから、感謝の気持ちで僕を持ち上げ過ぎたのかもね」


 僕が言いたいのは、あちらも本気での求婚ではないことだ。

 曖昧な発言に弟たちは考え込む、その間に僕はライアへ答える。


「庭園でのお茶会は、園遊会って言うんだよ。ルキウサリア王国のご一家がいらした時もしたんだ。庭園をいつもより飾りつけて、お客をお迎えするんだよ」

「あのね、準備を母上と見に行かせてもらったの。お花がいっぱいでね、こう、こんなに大きな花瓶にね、いっぱいの人がお花差してたの」


 ライアは楽しげに、身振り手振りでお話をする。

 ひととおり興味を引きそうな様子を話すと、侍女が気を利かせてライアだけ先に帰るように計らってくれた。


「お邪魔しました。…………またね、兄上」


 お姫さまらしく裾を摘まんで見せたのに、すぐに子供らしく無邪気に手を振ってくる。

 抱きついたり騒いだりする弟たちもいいけど、妹もいいものだね。


 さて、ある程度察した弟たちはと。


「何か目的があって、兄上に求婚してみせた?」

「帝国の皇子だから?」

「優しそうだったから?」

「うーん、三人とも正解。多くの注目を集めるために、僕に声をかけたんだろうね」


 そんながっかりした顔しないでよ。

 前世の常識を引き摺ってる僕としては、まだ十代前半で結婚なんて早いから。


「兄上が次のハドリアーヌ国王になったら…………」

「テリー、そういうことは思っても言っちゃだめだよ。それに現国王が遺した事後処理で、一代終わってしまいそうな情勢だし」

「アーシャさま、まだご健在です」


 つい本音が漏れると、ウェアレルに遺したと言ってしまったところを訂正される。


「王女は、兄上と結婚したくないの? できないの?」


 ワーネルが鋭い質問を投げかけて来た。


「いい質問だね。御しやすいと見られたなら結婚はしたいんじゃないかな? 第二王女だけはハドリアーヌ王国外の後ろ盾がない。もし継承権が巡って来ても、妹に出し抜かれるかもしれない状況だ」

「だったらなんでできないの? 兄上に好きって言ってもらえない人? 言えない人?」


 続いてフェルが核心を突いてくる。


「言えない、かな。僕を本気で抱え込もうとすると、ハドリアーヌ王国内部で、他国のバランスゲームが始まると思う」


 第一王女はトライアン王国の後援があり、その下心は落ち目の自国と上り調子のハドリアーヌ王国との対等な同盟。

 帝国皇子の婿入りなんて阻止したいだろう。


 妹王女はすでに帝国で有力なレクサンデル侯爵の後援があるからこそ、帝国皇子が介入するなら退くしかない。

 けど父を侮る帝国貴族と思えば、皇子だからこそ張り合ってくる可能性もある。


「ナースタシア王女のほうにも絶対阻止の動きが出るはずだ」


 姉妹からの妨害以外にも、他国の介入を嫌がる国内勢力からの反発があるだろう。

 何よりこれから帝国にいる間、お喋り雀な帝国貴族をさばかなければいけない。

 もちろん僕を排除したい勢力がナースタシアの本心を探り、本気なら盛大に邪魔をする。


 そんな説明を、なるべく刺激がないよう弟たちに教えた。


「つまり、兄上を利用しただけ?」

「えっと、もてあそんだ、だっけ?」

「違うよ、もてあそばれたんだよ」


 おっと、双子がけしからん言葉を覚えているね。


「ワーネル、フェル。僕は弄んでもいなければ、弄ばれてもいないよ。そして、テリー。弱い立場から相手の力を利用することは決して悪いことじゃない。その上で、君はきっと僕よりもこういう厄介ごとが降りかかる可能性があるんだ」


 何せ現状でも僕より立場が強い皇帝の嫡子だ。

 上を目指そうという未婚のご令嬢たちは、ジャイアントキリングよろしく隙を突くどころか意表を突くアプローチを敢行する可能性が否定できない。

 今は宮殿での生活で守られてるけど、その内公式行事を取り仕切るようになれば狙われるだろう。


「き、肝に銘じておきます」


 あれ、怖がらせすぎたかな?

 けど本当、継承権四位の僕よりも弟たちのほうが帝位に近いから、つき合い方は今からでも考えたほうがいいと思う。

 まぁ、そう言うのを教えるのもマナーの家庭教師だから、そんな人いない僕が言ってもあまり説得力ないかもしれないけどね。


 弟たちに、ロマンスなんてなかったんだという寂しい話をして、夜を迎えた。

 僕は本来就寝している時間に庭園にいる。

 目の前には四阿の基底部に開いた暗い通路に繋がる抜け穴。

 用途はずばり、夜這い用だ。


「過去の皇帝、女好きすぎない? 政略結婚で愛がなくても尊敬と信頼は築けるって聞いたことあるんだけど?」


 まぁ、前世で大統領夫人になり上がった日本人タレントの格言だけどね。

 これ作られたのが曽祖父にあたる皇帝の時代って言うのが世知辛い。

 祖父になると大手を振って公妾囲うことしてたから、どっちがましかなんて言えないけどさ。


 僕は一番小柄で足音を忍ばせられるイクトに付き添われ、無人の庭園から離宮の壁の中へ入り込む。

 ちなみにこの抜け道を見つけたのは知的好奇心の鬼、セフィラ・セフィロト。

 曽祖父の代に隠し子について記録していた側近の日誌を発見して、この通路のことも把握してた。

 正直、宮殿にそんなもの隠したまま亡くならないでほしい。


「夜分遅くに失礼。非礼は幾重にもお詫びいたしますが、どうかそちらへお招きいただけませんか?」


 僕はイクトが示す壁をノックしつつ、セフィラに室内の様子も走査させる。

 そこは寝室で、すでに灯りは落とされ控えの侍女も扉の外だ。

 寝台にいた者は身を起こして耳を澄ましているという。


「…………そのお声は、もしや、アスギュロス殿下でしょうか?」

「はい、ナースタシア王女」


 意を決したナースタシアの許諾を得て、イクトに指示し、通路側にある開閉用の仕掛けを動かしてもらう。

 すると壁を止めていた金具が外れる音がして、どんでん返しよろしく壁が動いた。


「まぁ、これは…………」

「ナースタシア王女、今宵、僕と夜の散策をいたしませんか? 互いを知る、良い機会となりましょう」


 繕わない僕に、ナースタシア王女は笑みで隠すことも忘れたように、しくじったと言わんばかりの表情を浮かべていた。


定期更新

次回:ハドリアーヌ王国御一行4

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― 新着の感想 ―
[良い点] アーシュ夜這いとは、 ディオラ可哀想 [気になる点] 学園で、みんな、どうなるか? 公爵公子 迂闊そう。 [一言] 頑張ってください 毎日、楽しみにしてます。
[良い点]  やっと兄弟妹勢ぞろい!  癒やされる‥‥‥。 [一言]  王女サマー、釣り針が小さ過ぎて獲物に狙われてますw  相手からしたらこの第一皇子とんだ地雷だよ‥‥。
[良い点] 兄妹で仲が良いとほのぼのして読んでて楽しい。 [一言] アーシャの夜這いは成功するのか!(待て) アーシャの目的は牽制か見極めかなのかな。
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