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116話:ハドリアーヌ王国御一行1

「と言うわけで、ハドリアーヌ王国をおさらいします」


 家庭教師が増やせない状況から、ハドリアーヌ王国の王子と王女がやってくるホスト役を引き受けることになってしまった。


 だから気合を入れるためにもあえて言葉にしてみたんだけど、机に関連書籍の山を作るウェアレルを見るとしぼみそうだ。


「ハドリアーヌねぇ。あの暴君ようやく大人しくなったと思ったら、結局とんでもない遺恨残しやがるか」

「ヘルコフ、なんだか実感ある感じ?」


 僕は興味をそそられて聞いてみる。


 どうやらヘルコフが軍人の現役時代は暴君も元気にしていて、小国ながら近隣を併合して今の国土を築くという周辺にとっては迷惑なことをしたらしい。


「そのたびに国境のほうから防衛強化の嘆願があってですね。実際挑発酷くて派兵されたこともありました」

「帝国領内の端も端に、この帝都からですか? ご苦労なことですね」


 イクトは呆れたようにヘルコフを見る。


 帝都から北西にハドリアーヌ王国はある。

 元帝国領内だったこともあり、国境が接していて、そっちで戦争があると民が避難してくるという。

 そうすると治安維持や食糧問題で軍が防衛兼食料運びをするんだって。


「場合によっては、誤射したとか言って戦争に巻き込もうとしやがるんですよ」

「なんですかそれは? ふざけるにしてももう少し言いつくろい方があるでしょう?」


 驚くウェアレルに、ヘルコフは手を左右に振ってみせた。


「これが馬鹿にできないっていうか、そうやっていちゃもんつけて突発的な戦争状態に引き込む手だ。これで近隣併呑した実績がハドリアーヌ王国にはあるんだよ」


 戦争の準備万端で当たり屋行為をし、怒って対応すれば戦争に引きずり込まれ、準備が足りずに占領される。

 そのまま実効支配で上を挿げ替え、帝国に仲裁を依頼する暇も与えず併呑するんだとか。


 まさかの国家レベルのヤクザが国王らしい。

 しかも帝都からは距離があるため、帝国側も正規軍を派遣して助けるかというと費用対効果が微妙。

 帝都から国軍を送ると、しつこかった挑発もやめて、勝てない戦いはことごとく逃げる。

 その上で敵対する相手の悪評は大声で喧伝するというなんとも暴君の名に恥じないことを平然とやってのけたとか。


「面倒なところは暴君と国内からも批判があるにも拘らず、国王オクトヴァスは領土を広げ、国力を増強し、強兵を実現した名君の側面もあることですね」


 ウェアレルは一度資料から顔を上げて溜め息を吐く。

 むちゃくちゃやるからこそ、周囲の対応が遅れ飲み込まれ、力にされた結果だ。


「安定のためには直系男子が欲しい。けれど何人もの妻を変えて得られた嫡男はたった一人、しかも安定的な継承と国の維持を望むには心もとないのです」

「暴君在位中だけでも相当軋轢生んでるってわけか。そこら辺も押さえたいけど、まずは直接対応する王子や王女についてできる限り知りたいな」


 僕に応じてイクトが手元の書類を確認し始める。


 ウェアレルはできる限り効率的に教えるため、用意した書籍を速読していた。

 そんな特技あるなんて知らなかったよ。

 ぱら、ぱらと眺めているだけのようなのにちゃんと読んでるそうだ。


「まず第一王女ヒルドレアークレ。最初の王妃が産んだ姫君で、第一子であったため出生当初は暴君も大変寵愛したとか。生まれてすぐに王国最上位の女性称号を与えたと」


 イクトは妃殿下が纏めてくれた、押さえておきたいハドリアーヌ王族の情報を教えてくれる。

 …………っていうか暴君で定着しちゃうの、オクトヴァス国王?


「男児出産を期待された王妃は、流産を経験し、時を同じくして生国のトライアン王国で政変。後ろ盾が揺らいだことで精神的に摩耗し、病んでしまったそうです」


 淡々ととんでもない内容をイクトが読み上げ始めた。


 トライアン王国の政変って、別荘行った時に聞いた、名君から暗君になってその後起きたっていう?


「精神を病んだため離縁。国下へ送り返そうにもトライアン王国は政変中で受け入れ先がない。そのため離宮に隔離したと。ヒルドレアークレ王女は庶子に落とされ、一度は離宮へ移るも、今では王宮での生活を許されているそうです」


 母親が失脚、もしくは死んだら庶子落ち。

 そこは珍しいことではないし、母親が亡くなった僕が皇子やってるのが珍しい例だ。


「次に王妃になったのは、最初の王妃の女官で、婚姻関係が継続している間からの愛人」


 またとんでもない話が出て来てるよ?


「生まれたのが娘で暴君は落胆。主人を裏切っていたことからもこの王妃は評判が悪く、その鬱屈を庶子となったヒルドレアークレ王女を継子イジメすることで発散していたとか」

「そんな情報外に出るの?」

「殿下、ここは人少なすぎるくらいですし、出入りも限られてるんで。参考にするなら、弟殿下方に会いに行かれた時の人の多さと、出入りを考えてください」


 ヘルコフに言われてみればそうだ。

 常に誰かいるし、絶対一人になれない。

 何をしても見られている、聞かれている。


 しかも二番目の王妃はすでに故人だ。

 だったら関わった者たちも今では口が軽くなり、噂に流すこともあるんだろう。


「そして生まれた第二王女ナースタシアですが、こちらは母親が浮気の冤罪で処刑。庶子に落とされています」


 なんだか国王反対派閥と繋がっているというのが納得の背景だ。


 そして王子の母親は二番目の王妃の血縁で、王子を産んで亡くなったため軋轢はなし。

 国内貴族であったため、暴君の与党も推す王妃だったとか。


「四番目の妃がレクサンデル大公国公女。この頃トライアン王国に新たな王が立ち、その者は最初の王妃の従兄で元王妃の処遇に大変立腹。トライアン王国に宣戦布告の気配があり、ハドリアーヌを守るために帝国の有力者と結ぶ政略結婚だったそうです」


 本当に勝てない戦いはしない暴君だね。

 そして生まれたのがまた娘で、第三王女はユードゥルケというそうだ。

 政略でハドリアーヌにこだわりのなかった公女は、娘を連れて帰国。

 そのままスムーズに離縁になり、庶子になった。


「あれ、でも庶子のままだと継承は…………」

「そこで六番目の王妃、今も健在の方が関わるようです」


 浮気して処刑された五番目は子もないので飛ばす。

 さらにこの六番目は第二王女ナースタシアと王太子フラグリスの血縁らしい。

 二人を養育し、ナースタシア王女に国内の有力者と結ばせる橋渡し役をしたとか。

 王太子の看病も率先し、今は病に伏した暴君につきっきりだという。


 だからこそ冷静に、今の王妃は暴君を説得して庶子にした王女たちを嫡出子に戻し、継承権を復活させたそうだ。


「つまり、フラグリス王太子が二十歳まで持たないだろうっていうのは、周知の事実なわけか」


 ホスト側から見て優先順位をつけるなら王太子一択だ。

 帝国が継承に口を挟むつもりはないのなら、王女たちに順位をつけるべきじゃない。

 けど、帝国の国内貴族はそうでもないのが問題だ。


「帝国の貴族と関わりがあるのは、フラグリス王太子とユードゥルケ王女だけ?」

「そうでもないようですね。ヒルドレアークレ王女はトライアン王国の後ろ盾を受けています。それをより強固にするため、トライアン王国の王子と結婚。このトライアン王国と所縁ある帝国貴族は後押しをするだろうとの皇妃のご意見です」


 妃殿下しっかりトライアン王国関係の貴族をピックアップまでしてくれていた。


「その筆頭は皇太后であるので、決して近づけないようにと注意書きがありますね」

「へ?」


 予想外の名前だ。

 皇太后は本来皇帝の母親だけど、父の母はニスタフ伯爵夫人で妃ではない。

 では誰か? 先帝の正妃だ。

 先帝が存命の内から離宮に住む人で、今まで父に接触したとは聞かない。

 それは無言の反発。

 父を皇帝とは認めないという意思表示と共に、そうする以外の政治力がないからだ。


「あぁ、陛下が皇太子に立てられるまでは自分の娘の子を皇太子にしようと派手に動いて、最終的にルカイオス公爵に幽閉されたって言う、あの」


 ヘルコフまでとんでもないことを言い出した。


 今まで関わってこなかったから注目せずにいたけど、これは無視できない話のようだ。

 ルカイオス公爵と競るくらいの人なんだとしたら、出て来られると厄介だなぁ。


「ウェアレル、悪いけど皇太后についても」

「押さえておいたほうがいいでしょうね。こうなれば、国内のほうはウォルドに回します」

「頭数が足りないのであれば、いっそもう一人の警護を連れてきますか?」


 イクトが言うのはたぶんレーヴァンで、なんだかんだ情報持ってるからだろう。

 僕は二人に向かって頷きゴーサインを送る。


 ウォルドは不安そうだけど快諾したのに、レーヴァンは文句と抵抗を見せた。


「そこユーラシオン公爵も噛んでるんで、ストラテーグ侯爵的には中立決め込んで巻き込まれたくないんですよ!」


 うん、まぁ、言い分はわかるよ。

 でも僕が何か言う前に、側近たちが囲んで説得してくれました、合掌。


定期更新

次回:ハドリアーヌ王国御一行2

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[気になる点] 説得(物理)?w
[一言] 王太子以外の年齢が分からん。
[一言] さすがレーヴァン君かわいそう
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