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幼馴染から誤解受けたった。

日間載ってた。ありがとうございます。

 俺には幼馴染がいる。

 深山みやまヒナタ、性別は男寄りの女。

 女だが男より勝気な奴で、けど何かと面倒見がいい奴。

 姉御肌より兄貴肌っていう言葉が似合うような、そんな男勝りな奴だ。


 髪も短く切り揃えてるし、ワイルドというか大雑把というか言動に女っ気がない。

 今でこそ凹凸の激しい体つきをしていたり女子の制服を着ていたりするから分かるものの、子供の頃は中性的な名前と何よりお淑やかさのおの字も無いようなフレキシブル極まりない言動ばかりだったため男だと勘違いしていた。

 こんなことをヒナタに言ったら地の果てまでぶっ飛ばされそうだから口が裂けても言わないが……。


 でもまあ、仲が良い友人ではある。

 俺が引き籠りになった現在でも、平日はほぼ毎日プリントを届けてくれるくらいには仲が良い。


 だからこそ、ヒナタに俺の身に起きた事態をどう説明すべきかは悩んでいたのだ。

 幼馴染が突然女になったなんてヒナタに混乱しか与えない事象だ。

 男友達のように慕っていたヒナタには当然報告しなければいけない事態なのだが、如何せん良い説明方法が思いつかない。

 そこで俺の悪い癖が出てしまい、俺は事態を先延ばしにしようとしていた。

 しばらくは風邪気味とか嘘ついて、何とか接触を控えるようにしようと思っていたのだ。

 けどまたしても俺の悪い癖が出てしまい、まず嘘を吐くことさえ先延ばしにしてしまった。


 ——結果から言おう。


「…………あんた、…………誰……」

「っ!?」


 俺とヒナタは、なんの事前情報もなく鉢合わせてしまったのだ。


「……あ、……え、えっとぉ……」

 言葉に詰まる。

 なんて言えばいい? 正直に言って理解してもらえるような事態じゃない。

 けど、他に良い言い訳が思いつくわけでもない。

 だから、両親同様ありのままに事態を報告するしかないのだ。


「あ、あのな、ヒナタ、お——」

「誰よ」

 鋭い眼光がギラリと俺を睨みつける。

「え?」

「あんたは誰かって聞いてるの」

 喧嘩した時だって向けてこなかったような刺々しい言葉。

 敵意むき出しの野犬のように、今にも噛みついてきそうな勢いだ。


 友人の家に知らない奴がいるということで警戒しているのか?

 いや、それにしても言葉のとげが鋭利過ぎるというか……。

 ……だが、ヒナタの方から聞いてきたのはむしろ都合がいい。これですんなりと事態を説明することができ——。


「——いや、やっぱあんたが誰かなんてどうでもいい」

「ふぇ?」

 ヒナタは疑問を撤回し、更に刺々しくなった言葉を投げつけてくる。

 いやいや全くどうでもよくないでしょ。幼馴染の家に全く知らない美少女がいるんだよ。もう無条件で疑問でしょ。最優先疑問事項でしょ。

 だがヒナタは他の質問へと切り替える。

 

「あんた、咲人とどういう関係?」

「…………はい?」

 昼ドラの浮気現場でしか聞いたことないような台詞に困惑を隠せない。

「言っとくけど、親戚とか家族とかそういう嘘は通じないから」

 小学生の頃からずっと家族同然で一緒に居て、家族旅行どころか親戚の集まりにまで参加してくるほど仲の良い幼馴染だ。従妹設定も姪っ子設定も生き別れの妹設定も通じるわけがない。


「いや、あの、えっとだな。大変言い辛いと言うか……」

「っ! い、言い辛いってどういうこと! なんかやましいことでもあるわけ!」

「ち、違います!」

 俺が衝撃的な告白をする前のワンクッションとして置いた前言葉に過剰に反応したヒナタは、怒りと同様の入り混じった形相で怒鳴り出す。

 今まで見たことも無いような彼女の気迫に気圧され、思わず敬語が出てしまった。

「や、やましいとかそういうのではなく、その、複雑なことで」

「ふくざッ!? ふ、複雑な関係って、そ、その、せっ、……ひ、一つになった、とか、その、そういう意味での……」

 一つになった? 合体ロボみたいなこと?

 濁そうとしている言葉を察せられずに、返答が即座に出ない。

 まあでも、男の俺と女の俺はイコールの関係なわけで、一纏まりの関係と言えるし、一つになっていると言えば一つになっている…………のか?


「ま、まあ、——うん」

 意味も解らず頷いた。


「~~~ッッッ!?!?」

 その結果、何かしらの感情が爆発寸前のヒナタは真っ赤な顔を更に赤く染め上げる。

「だ、大丈夫か?」

 その尋常ではない様子に心配し近づいてみるも、再び同じように、いいや前よりも鋭利な眼光を俺に突き刺してくる。

 何故かわからないが彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。ついでにものすごく恨まれているようだ。


「こ、このビッチッ!」

「え、ちょッ!?」

 怒り心頭な彼女はとうとう堪忍袋の緒が切れ、俺の胸倉を掴んで押し倒す。

「ビッチ! 痴女! あばずれ! アホォ! バカバカバァーカ!!」

「お、落ち着けってヒナタ!」

「うるさい! 名前で呼ぶな! ——私の方が……! 私の方が先だったのに、どうしてあんたみたいなのに!」

「い、意味わかんないってマジで!」

 唐突にゴングが鳴らされたキャットファイトに困惑しながらも、掴みかかってくるヒナタに必死の抵抗をする。

 元運動部なだけあって力が強い。

だが、所詮は女子の腕力。男の俺にかかれば……、あっ、俺今女じゃん。——あ、やばいやばい、めっちゃ圧されてる。普通に負けそう。超絶ピンチなんですが。

 絶体絶命の状況、このまま幼馴染に押しつぶされるのかと覚悟した時。


「…………二人とも、何してるの?」


 俺の部屋に木霊した一つの声が、静寂を作り出す。

 そこには、買い物帰りの母さんがいた。

——母さんの眼前にはくんずほぐれつしている俺とヒナタの姿。


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