幼馴染と鉢合わせてみた。
初投稿の結果、炎上した。
それはもうボーボーに燃えた。大炎上だ。
主な原因は、俺の言動が女性視聴者の反感を買ったことにある。
まあ確かに、俺ほどの可愛さを前にしたら嫉妬しない者が出ないはずないよな。いやはや、やはり可愛さというのは罪だなぁ……。
——そんな冗談はさておき、俺の無意識なる言動が意図せずして男性視聴者のハートに突き刺さり、それを見た女性視聴者が妬み僻みで低評価&アンチコメントのオンパレード。
ぶりっこキャラや男性受けを露骨に狙った投稿者が女性視聴者に忌み嫌われるというのは、ミーチューブの常である故、仕方がないと言えば仕方がない。
そう割り切れる気持ちもある反面、苛立ちもある。
だって俺無実じゃん。悪いことしてないのに叩かれるとか納得できないし。あと男性受けとか狙ってないから。何なら女性に受けたいんだよ俺は。
不平不満は当然湧いてくる。理不尽な叩かれ方をしたら怒りたくもなる。
だが、これに関しては本当に仕方がないことなのだ。
受け取り側とは常に勝手だ。
俺だってミーチューブの動画を見て身勝手なコメントをしたり、良し悪しを個人の感情で評価したりしている。
ミーチューブは厳正な評論会ではない。客観的な評価ではなく、純正な主観のみで評価されるのだ。
しかも、評価基準は見る人の数だけある。
「…………きっつ」
思っていたより大変だぞ、これ。
だが、炎上であっても見向きされているだけ俺はまだマシな方か。
女性視聴者からはブーイングの嵐だったが、男性視聴者からの受けはよかった。中にはチャンネル登録してくれる人もいたわけだし。
けど敵を作ってしまったのは事実。ゼロからではなくマイナスからのスタートとなってしまったのだ。
……全く以て幸先よくない。一体誰だよ順調快調とか言いやがった奴。
「……——でも、ここで諦めんのは納得できねえ」
大した理由もないのに学校不登校になってしまうようなメンタルの持ち主である俺だが、ここで諦めきれるほど弱っちいメンタルは持ち合わせていない。
というか悔しい。ここで諦めたらアンチコメしてきた奴らに負けた気がして悔しい。
アンチコメをした奴らは俺を潰すために書き込んだんだろうが、逆に俺の反骨精神を刺激することとなるとは思っても見まい。
顔も見せずに好きかって言いやがる奴らがムカつく。そんな不純極まりない動機だが、俺の芽生えたての投稿者魂に火がついた。
「うっし! もう一本投稿するか!」
パンッ!と両の頬を叩き、気合いを入れる。
……しかし、一体どんな動画を投稿すればいいのやら。
もうこの炎上の仕様だったら、どんな動画を投稿してもバッシングを受けそうな勢いだ。
「……ならいっそ、振り切ってみるか」
この手を使うのは躊躇われる。男としての俺の自尊心が、とてもではないがそれを許してはくれない。
——しかし、俺は才能があるわけでもなければ天才なわけでもない。
どんなに卑劣だろうとも、やらなければ成功はあり得ない。
凡人の俺が成功する手段に、形振りなど構ってはいられない。
俺の壮大なる野望のために、俺は自分のプライドを捨てるぞ!
◆
ピーンポーン。
天谷家の玄関前。
一人の少女がチャイムを鳴らしていた。
「…………」
しかし、応答はない。
「おじさんとおばさん、仕事に行ってるのかな?」
小首を傾げ、玄関の扉とにらめっこをする少女。
仕方なしに彼女は天谷家両親からもらった天谷家の鍵を使い、自身以外の家であるここにお邪魔する。
天谷家両親は少女に全幅の信頼を置いて渡してくれた物ではあるが、少女は人の家に無許可に立ち入るということに抵抗を覚える。
「まっ、アイツにプリント渡すだけだしいいよね」
だがそれでも、自身の家と同じくらいで入りしたことのある家だ。自身の行動の整合性を説き、ズカズカと家に上がる。
「(というか、アイツは一体いつになったら学校に来てくれるのよ。……い、いや別に、どうしても来て欲しいとかそんなんじゃないんだけど……、やっぱり幼馴染のよしみっていうか、クラス委員長としての責務っていうか、まあ、その、そんな感じよ! べ、別にアイツとまた一緒に学校行きたいとかそういうんじゃないし。義務的な感じで毎日プリント届けてるだけだし。……うん、当たり前のことよ。当たり前のこと)」
誰も何も言っていないというのに少女は頭の中でつらつらと言い訳を並べながら階段を上る。
「……っきー……す。……………で………ます」
「……?」
2階の一室、目的である彼がいる部屋から何やら声が聞こえていた。
しかも幼なじみの彼の声ではない。聞き慣れない甲高い女性の声。
その違和感に少女は眉間に皺を寄せながらも、階段を少し足早に登る。
「……ルー…ットで……あた……服を………いでいきます」
階段を上がるにつれ声はより鮮明に聞こえてくる。
訝し気な表情を浮かべた少女は上る足を速める。
「(アイツの部屋から女の人の声? 結構若い声だしアイツのお母さんではないと思うけど、でも他にアイツの部屋に来る人なんて……)」
彼女の疑問が階段を上る速度を加速させる。
「あ……、……、当たった……一枚……脱ごう……います」
「(引き籠りで女っ気なんて一切なかったアイツが部屋に女の子連れ込むなんてありえない。絶対、そんなこと……)」
不安と疑念に後押しされた少女は部屋の前に辿り着く。
扉の向こうからはやはり声が聞こえる。
聞きなれた彼の声ではなく、聞きなれない女の子の声。
何かの聞き間違いだと思いたい。
しかし、実際に声は聞こえる。
機械音声ではない、クリアな女の子の声が扉越しにしっかりと聞こえる。
「……っ」
少女は恐る恐るドアノブに手をかけた。
ゆっくりとドアノブを捻る。
彼女の全身からは嫌な汗が吹き出しそうになっていた。
目の当たりにするかもしれないことに対する嫌悪感が、少女の体に拒絶反応として作用する。
それくらい、彼女にとっては嫌なことだ。
——けど、確かめずにはいられなかった。
捻り切ったドアノブを、今度はジワリと前に押す。
音を立てずに、静かに開く扉。
その向こうにいたのは——。
「…………あんた、…………誰……」
「っ!?」
少女の呼応に対し、扉の向こうにいた人物は驚いた表情を浮かべて振り向く。
艶のある髪、線の細い輪郭、真っ白な肌は新雪のよう。
パッチリとした瞳は少女の姿を捉え、整った顔立ちもまた逆に少女の瞳が捉えていた。
穢れを知らない純白の乙女のような可憐さに、少女も一瞬目を奪われる。
しかし彼女のルックスよりも、少女にとって着眼すべき点があった。
着ている服が、男物だった。
しかも、何度も彼が着ているのを見た服だ。
少女の幼馴染である、天谷咲人が自宅でよく着ていた部屋着であった。
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