表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/29

人気動画投稿者目指してみた。

「ふぅ……、疲れたぁ……」

 帰宅早々、俺は自室のベッドにダイブした。

 久々の外出で心身共に疲労が溜まっている。

 もうこのまま一世紀くらいは眠りに就きたい。


 けど、眠るに眠れんなぁ。

 医者に相談できたということで気が楽になったと思えたのだが、いざ帰っていろいろ考えてみると、むしろ不安な気持ちが増大していた。

 楽観視してきた事態が、現状誰にも解決できないと思われる事態だったということを改めて再認識された。その事実は間違いなく俺の重荷となっている。

 ずっとこのままだとして、今後どんな変化があるかもわからない。今はよくても、これからどう事態が転がるかなんて張本人である俺ですら見当もつかない。

 それが、正直——。


「だぁあああ! ヤメだヤメ! シリアスになっても余計気持ちが沈むだけだ」

 うっし、切り替えていこう俺。

 今後は不安だらけだが、現状だけに目を向ければ最高の展開だ。

 朝起きたら超絶美少女になっていたんだ。夢にも思っていなかった夢の展開だ。

 俺以上にこんなラノベ的な展開を味わっているのは、世界中探しても誰もいないだろう。


「いえええい! 美少女さいこぉおおおう!!」

 意味もなくベッドに立ち上がり、謎の雄叫びを上げる。

 一階にいる両親には息子が更におかしくなってしまったと思っていることだろう。

 我に返るのは、後の後悔が怖いからやめておこう。


 ——しかし、美少女になったけど、どう活用すべきなんだ?

 忘れてないとは思うが、現在俺は引き籠り中のダメ高校生。美少女になったからと言って、これからすることは変わらず食っては寝るの生活。これじゃあ宝(美少女)の持ち腐れ、豚に真珠ならぬ引き籠りにTS展開だ。

 こんな恵まれまくった肉体に生まれ変わっても、部屋にいるだけじゃ何の意味もない。ただ引き籠りに美少女属性が追加されただけ。

 それは引き籠りの俺でも勿体ないと思う。

 こんな美少女が世に出ずただ狭い部屋に埋もれるだけなんて、日本の、いいや、世界の損失だ。


 だが、世には出たくないというのが本音。

 俺は既に半年かけて形成された引き籠り最終形態の人間なのだ。さっき外出しただけでも「お外恐い」状態で、とてもじゃないが出歩いたり、人と話したり、ましてや眼だったりするのは不可能だ。

 美少女になったからって、別に引き籠りが卒業できるわけじゃないからな。

 除毛しただけで人生変わるみたいな、動画投稿サイトの広告じゃあるまいし……。


 ……ん? 動画投稿サイト?

 …………。

 ……………………。

 ………………………………ハッ!


「これだぁああアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 けたたましい咆哮が、住宅街にある小さな一軒家に響き渡った。


 家に出たくない、目立ちたくない、しかしこの美少女を世に出したい。

 この願いを全て叶えられることがあるじゃないか。

 俺はすぐさまパソコンを開き、とある動画投稿サイトを開く。

『MeTube』

 世界的に有名な動画投稿サイトの一つ。

 投稿される動画のジャンルは千差万別で、部屋一つという狭い空間でのみの動画投稿を行っている人も決して少なくない。

 俺もこの動画サイトはよく利用していた。引き籠りで誰かに分け与えられそうなくらい時間を持て余していた俺にとって、ミーチューブという一切の労力を必要とせず受動的に暇をつぶすことができる引き籠り御用達の娯楽は、利用しないという選択肢が存在しないほどの代物だった。


 それを、俺は今受け取り手ではなく発信者として、つまり視聴者ではなく投稿者としてそのサイトを利用しようとしている。

 確かにこの俺の可愛すぎる姿を世に自慢したいという気持ちもある。何ならそれがきっかけで始めようとしていることだ。

 しかし、あわよくば、将来の安定化が図れる。

 何が言いたいかって? 要するに、親の脛をカジカジせずとも、食っていけることが可能になること。

 つまり、収益化だ。金だ。マネーだ。

 家に出なくていい、可愛さを自慢できる、お金も稼げる。

 一投で鳥が二鳥どころか三鳥も仕留められたようなお得さ。


 やるしかない。

 俺は、心の中で決意した。


 ——こうして、俺の人気動画投稿者への道は、怠惰と傲慢と浅ましさによって背中を押されスタートしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ