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幼なじみが鈍感すぎだった。

「ヒナタ」


 確かに、咲人はダメな奴よ。

 向こう見ずで、ブレーキが利かない暴走車みたいな奴で、……何よりバカだし。

 私がいなきゃ、一体何度アイツの人生がいろんな意味で終わっていたかわからないくらい、とびっきりのバカ。


 けど……、バカだけど……、そういうとこが好き。


「そうやって引っ張ってくれるアンタのことが————………………っぅ~~!?!?」

 今気づいた。

 私…………、とんでもないこと言ってる…………!?

 好きとか、もうこれどうしようもないほど隠しようのない、こ、ここ、こく、こくは……!?


「ち、ちが! い、今のは違うの!! え、えっと言い間違えた、じゃ、じゃなくて! 言葉の綾、でもなくて! え、えぇと、えっとぉ——」

 もう今更どんな弁明も焼け石に水だが、それでも誤魔化そうとする口が止まらない。

 私が無駄に言葉を模索し言い訳していると。

「ヒナタ」

 いつになく真剣な表情で、咲人に呼ばれた。

「っ! ひゃ、ひゃい!」

 心臓が跳ね上がった。たった二文字の相槌を噛むほどに動揺している。

 全身が硬直するような緊張感が体中に走る。脈打つ心臓の音がうるさくて、周りの喧騒さえ聞こえない。

 真剣に見つめる咲人の顔を私は顔を真っ赤にしながら見る。

 私なんか比にならないくらい可愛い顔だ。吸い込まれるように綺麗な瞳に、健康的で艶のある肌。もう何処にも、以前の咲人の面影などない。

 ……ない……はずなのに。

 なんで、こんなにドキドキするの……。

 抑えきれない脈動、それはいつまでも彼に抱いていた心がそうさせたものだ。

 顔が変わっても、性別が変わっても、私は咲人のことを変わらずに想い続ける。

 ああ、私、本当に咲人のこと——



「————好きだよ」



「……っ!?」

 彼の口から、告げられた。

 聞き逃しようがないほど、聞き間違いがあり得ないほど、はっきりと告げられた。

「じゃ、じゃあ……咲人も……」

「ああ、俺も好きだよ。——誰よりも俺のそばにいてくれて、どんな時もずっと隣にいてくれて。……いつか離れちゃうんじゃないかって、俺を置いてどこか行っちゃうんじゃないかって、……他のやつと一緒に居るようになっちゃうんじゃないかって、そう思う時もあったよ。……——でも、ヒナタはいてくれた。どんな時も、駆けつけてくれた。ヒナタはいつも、俺の手を取って助けてくれた。まあ、その、男としては情けない話だけどさ。——けど、やっぱり俺は、……そういうヒナタが好きだ」

「咲人……」

 ——違うよ。違うんだよ咲人。

 助けられているのは、私の方なんだよ。

 咲人がいつも私の隣に立ってくれたから、今の私があるんだよ。

 だから、本当は私の台詞なの。

 本来は、私が言うべき言葉なの。

 隣にいてくれて、そばにいてくれて、ありがとうって。

そして……。


「私も……私も咲人のこと……!」




「俺はヒナタのことが好きだ。…………幼馴染として!」





「…………………………………は?」

 素っ頓狂な発言に対し、思わず間の抜けたような言葉が漏れる。

「いやぁ~、今更俺らの友情でこんなこと面と向かって言うなんて恥ずかしいけど、やっぱり言葉にして伝えるって大事だよなぁ~」

「…………」

 やり遂げたような顔で満足気に笑う咲人。

「俺らは一蓮托生っていうか二人三脚っていうか、まあとにかく最高の友達だよな!」

「…………」

 屈託のない笑みで熱い友情を語る咲人。

「これからもよろしくな! 友達として……いいや、最高の親友としてッ!!」

「…………」

 友情ドラマのラストシーンのように握手を求める咲人。

「…………」

 それに対して、私は沸々と湧いてきた。

 怒りなんて生温い感情ではない。

 煮えたぎる熱湯のように、吹きこぼれんとするその激情は抑圧を知らない。

 ……もう無理。流石に限界。これだけは……絶対許せない……!


「…………こぉの」

「……? どうかしたのか?」

 わなわな拳を震わせる私を見て、顔を覗き込む咲人。

 間合いが詰められたその瞬間、私の激情は大噴火の如く爆発した。


「こんのぉ…………ド腐れラブコメ鈍感主人公がァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 響き渡る絶叫と共に渾身のボディーブローが私の殺意を乗せて放たれた。

「ぐはぁッ!?」

 格ゲーのダメージモーションみたいに宙を一瞬浮遊してから、彼の身体は地面にへたり込んだ。

「お、おま、……お前、……か、仮にも美少女の身体に、……なんてことを……」

「知るか! そのまま死ね! 野垂れ死ね!」

 虫の息で喋る咲人に、痛烈な罵倒を放って立ち去る。


 ホントに信じられない。…………バカ咲人。




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