楽しくお話してみた。
すっげー久々に更新した
「ま、まあ別に、構いません、けど……」
別にやましいことをしているわけでも何かの事件に関与しているわけでもない。
なにより恩人の頼みだ。
散々助けてもらって会話の一つもしてやらないなんて、あまりに冷たすぎるじゃないか。
俺が男であるということに触れさえしないなら、俺のことを話すのはやぶさかではない。
「本当ですか?」
「え、ええ、大して面白いこととか話せないですけど、そ、それでよかったら」
「ありがとうございます」
「い、いえいえ、こちらこそ……」
何が「こちらこそ」なんだ?
「それでは質問形式でお尋ねさせていただきます」
「あ、はい。よ、よろしくお願いします」
就活面接のように会話がスタートした。なんでか姿勢を正している自分がいた。
「ではまず、好きな食べ物はなんですか?」
「えっと、お菓子全般です」
「なるほど。休日はどのように過ごされていますか?」
「基本はミーチューブとかアニメとか見てます」
「ふむ、では最近興味関心を持ったニュースなどはありますか」
「て、テレビは見なくて……す、すいません」
「いえ謝罪の必要はありません。では次の質問に——」
「あ、あのぉ……」
「はい?」
「これ……なんかの面接ですか?」
堅苦しい問答に思わず確認を取る。この会話が終わった後に内定通知かお祈りメールが来ることはないよね?
「……? いいえ、ただの雑談です」
「いやいやいや、これ雑談じゃないですよ。どう見たって就職面接かなんかでしょ」
こんな形式的な雑談あってたまるか。思わずほぼ初対面の人相手にツッコんじまったわ。ていうかなんでこの人はきょとんとした顔で頭上に?マーク浮かべてんだよ。ボケてんのか? それとも天然なのか?
「もっとこう、フレンドリーな話にしましょうよ」
「と、言いますと」
「えっと、例えば……………………」
地の底まで落ちた俺のコミュニケーション能力をもってすれば、フレンドリーな会話の一つや二つ、……全く思いつかん。伊達に半年ぼっちしてない。半年まともに同級生と会話もしたことのないような奴がフレンドリー語るなって話だ。
「その、えっとぉ………………」
言い出した手前何も案を出さずに引くわけにはいかない。何でもいいからフレンドリーっぽい話を提案せねば。無い知恵を絞って案を捻り出そうとする。
「…………こ、……恋バナ、……とか?」
乾いた雑巾からなんとか水滴出そうとして、奮闘の末に出て来た一滴がそれだった。
「……恋バナ……ですか」
「その、修学旅行では男子が恋バナをして親睦を深めていたと……風の噂で」
アニメとかではよくあるシュチュエーションだが、実際は見たことも体験したこともない。だって男同士での恋バナとかぶっちゃけ虚しい。特に俺のような女子と大した関わりも無いような奴同士での会話は、虚しい通り越して悲惨だ。
今だって恋バナがしたいわけじゃない。誰が悲しくてよく知らない同級生と恋バナをしなくてはならないのだ。
ただ絞った知恵がそれしか出してくれなかった。ただそれだけのこと。
自分の脳みそにこれっぽっちも中身が入っていないということを痛感した。
「——自分は恋バナなるモノをしたことがないのですが……。それでもよろしければ」
「あ、はい。もちろんです。——……じゃ、じゃあえっと、恋バナを、始め……ます」
「お願いします」
何故か将棋の対局のように互いに一礼してから恋バナがスタートする。
「あ、えっと、……まず、その、……ま、真泉くんは、どんな女の子がタイプです?」
歯切れの悪い問いだ。
何故俺は見ず知らずの男のタイプを聞いているんだ。一体これは何の罰ゲームなんだ。
「そうですね。……自分は、小柄で可愛らしく、少しおどおどした態度で、目鼻がパッチリしていて、髪は腰ほどの長さがあって、不躾なお願いも受け入れてくれるような心の広い方がタイプです」
「な、なるほど」
唐突な質問にも律儀に答えてくれる真泉くん。
……にしても、やけに具体的だな。明確な人物像でもあるのだろうか?
「逆にサキさんはどのような男性がタイプなんですか」
「え、お、私ですか?」
まず男性はタイプじゃない。女の子と付き合いたいというのが本音である。
でもここで男性は恋愛対象外とか言って変な目で見られるのも嫌だし、適当に誤魔化しておこう。
「あ、えっと、……た、頼りになる人、とかですかね?」
「——それは、〝彼〟にも適用される要素なのですか」
ハキハキと喋っていた真泉くんが、その言葉だけは小さな声で口にした。
険しそうに眉間に皴を寄せながら。
「え? す、すいません、良く聞こえなくて」
「…………いえ、大したことではないのでお気になさらず」
「は、はあ……」
真泉くんがそう言うなら聞かないけど、なんて言ったのか多少気になる。
しかし、少しだけ彼の言葉にはとげがあるように感じだ。そのせいか、ほんのわずかだが空気が張り詰めた。
彼は一息つこうとコーヒーカップを持ち、中に入ったコーヒーを啜り始める。
そんな時、俺はふと思ったことを口にする。
「あっ、真泉くんはとても頼りになる人でしたね。いろいろな場面で助けてくれましたし。そう考えると、私のタイプって真泉くんかもしれませんね。あはは」
場を和ませようと冗談を孕ませて言った言葉だった。
しかしそれが引き金となり——。
「ぶほぉッ!!」
真泉くんが盛大に噴き出した。
「うぇ!? だ、だだだ、大丈夫ですか!?」
咄嗟に顔を背けてくれたから俺も含め人的被害はなかったが、あまりに唐突な出来事だった故、俺は動揺が止まらない。
「す、すいません。何故だか貴女にそのようなことを言われると胸が苦しく脈拍が早くなってしまい……」
「それどういう発動条件の病気ですか!?」
俺のようなぼっちは冗談一つ言うことも許されないという天のお告げなのか!? だとしても冗談言ったら会話相手が苦しむって、いくらなんでも質の悪すぎる呪いすぎません!?
「だ、大丈夫です。ただの心筋梗塞か何かだと思いますので」
「絶対大丈夫じゃない奴ですよそれ!?」
「……、……大分収まってきました」
「この短時間で!? 心筋梗塞ってそんな一過性な病気でしたっけ!?」
驚きの回復スピードに声を荒げて驚愕する。
色々とすごいっていうかヤバイっていうか、真泉くんってとんでもない人だな。おかげと言うべきかそのせいと言うべきかはわからないが、とにかく緊張を全て吹っ飛ばして全力でツッコんだ。
「すいません。心配をおかけしてしまい」
「……ははっ」
無意識だった。
全く意図せず、口から笑いがこぼれる。
「……?」
「あ! え、えっと、今のは決して真泉くんが苦しんでいたのを笑ったとかそういうのではなくて、……な、なんて言うか、こ、こうやって会話するのなんか久々だなぁって思って。それで、なんか嬉しくて……」
上手く言葉をまとめられない。ただ、俺が嬉しいと思っているのは本心だ。
家族やヒナタと話すのとは違う。男友達と話すという感覚が、今の俺にはたまらなく新鮮に思えた。
「こうして真泉くんと話しているの、すごく楽しいです」
口下手な俺だから、はっきり言うしかなかった。
なんだか今は、緊張もせず自然と笑えている。




