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お話してみた。

◆「咲人」


首を縦に振った理由は、罪悪感からだった。

正直、俺はよく知らない人とは会話したくない。というかできん。会話能力がからっきしなのである。

けど、今回ばかりはそれ言い訳に逃げていい状況ではない。


何が言いたいかと言うと、俺は真泉くんに負い目を感じている。

それも一つではない。

第一、デパートでナンパから助けてもらったのにお礼も言わずに逃走したこと。

第二、部屋に訪れた時彼女だと嘘をついたこと。

第三、今の今まで真泉くんを泥棒等の犯罪者と疑っていたこと。


一言謝って済む事象の限度を超えている。

だからまあ、彼から話をしたいと言われた時、それくらいなら……と思った。

ちょうど近くにあった喫茶店に入り、テーブルを挟んで椅子に座る。

向かい会う男女。その実態、女の方は中身が男である。

「ご注文はお決まりですか?」

着席と同時にすばやく店員が注文を取りにやって来る。

「エスプレッソをお願いします」

「あ、おれ……、わ、私はココアで」

一人称を変えるの忘れていた。真泉くんの前では、変な誤解を与えないよう女の子のフリをしておくべきだよな。

「かしこまりましたー」と店員はオーダーを伝えるため、そそくさと厨房に向かう。


「……」

「まずは自分の頼みを聞いてくれてありがとうございます」

「い、いえ、それは別に、だ、大丈夫です」

わざわざ改まって礼を言う真泉くん。律儀な人なんだなぁ。

「そういえば名乗って居ませんでした。自分は正岡真泉といいます」

「あ、わ、私は咲人――」

「咲人?」

ピクリと彼の鉄面皮が反応する。

「あっ、いや! 違くて! 咲人じゃなくて、え、えぇっと、……サキ! サキと申しますって言おうとました!」

「なるほど、サキさんですか」

あ、あっぶねえ……。なんとか誤魔化せた。

ここでは天谷咲人ではなく、女の子のサキとして振る舞わなければいけない。ボロを出さないように気を付けないと。


「…………」

「…………」

「………………」

「………………」

――いやなんか喋ってよ。

なんで喋らんの? 話がしたいって言われたから来たのになんで沈黙突き通されてるの俺……。

真泉くんも緊張しているのだろうか。しかし、彼の仏頂面から感情を読み取るというのは難解だ。何考えてんのか全くわからん。

致し方ない。相手がこの調子では会話にならないため、こちらから話を振るとしよう。


「え、えっと、……い、いい天気ですねぇ」

「確かに今日は快晴です」

「そ、ソデスネー」

「ええ、そうです」

「……」

「……」

――うん知ってた。

絶対こうなると思ってたもん。俺のコミュ力舐めんなよ。


「お待たせしましたー」

店員がオーダーのエスプレッソとココアを持ってきた。

一息つくため、ココアを1口。

「甘い飲み物好きなんですか」

「えっ」

唐突な質問に、すぐ返せなかった。

何故このタイミングで話しかけてきたんだ? まあ、相手の方から話を振ってくれるのは、俺としては助かるからいいけど。

「ま、まあ、その、人並みには」

我ながら何とも煮え切らない回答だ。

「なるほど、素敵です」

 何が?

 素敵要素皆無だった回答への返答として適切じゃなさすぎる。彼なりのフォローだったのだろうか。

 

どうやら、彼も俺同様口下手なようだな。

 まあ、あの直接的すぎる誘い方で、口下手だっていうことは大方予想できたけど。

「と、ところで、一体何を話されたいんですか?」

 本題に戻そう。このことの顛末は、彼の口下手すぎる誘い方から始まった。ならばその誘い通り話をしよう。

 とはいっても、俺に話せることなんて何も……。

「サキさんの事でしたらなんでも」

「…………はい?」

 聞き取れなかったわけではないが、聞き返す他なかった。


「自分は貴女のことを知りたい。どんな些細なことでもいいです。少しでも、サキさんから話が聞ければと思っています」

「……」

 淡々と気持ちを伝える真泉くん。

 彼は俺のことが知りたくて、長く話をしておきたい。

 それって————…………事情聴取?(ツッコミは現在留守にしております)



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