困ったアイツを探してみた。
◆「ヒナタ」
「ったく……! 何処行ったのよ……!」
息を切らせながら、私は大通りで咲人を探し回っていた。
とりあえず人通りの多い所を重点的に探しているけど、こんな道行く大人数の中からアイツを見つけ出すなんて砂漠の中で一本の針を見つけるようなものだ。
でも今のアイツの容姿はかなり目立つし、もしかすると見かけた人がいるかもしれない。
私一人の目ではやはり限界がある。こうなったら周りの人に聞き込みをして——。
「あれ? 深山さんじゃん」
聞き覚えのない声で名前を呼ばれる。
振り返って視認した声の主は、私と同じ学校の制服を着た男子生徒だった。
染めた様な茶髪に気崩された制服、一言で形容するなら「チャラい」って感じね。
しかし、本当に見覚えがない。タイの色から同学年みたいだけど、クラスメイトではないわね。
「誰?」
回りくどいのは嫌いなため、単刀直入に聞く。
「ひどいなぁ、隣のクラスの純也だよ。ほらっ、体育の時間一緒じゃん」
「知らないわよ」
「ば、バッサリ言うね……」
隣のクラスの生徒など把握しているはずもない。ましてや男子なら尚更だ。体育の時間っていったって男女別だし、一週間に二回しか授業はない。
時々他クラスの男子から声を掛けられたり告白されたりするけど、そのうちの一人かしら? いちいち覚えていないからそうであってもわからないけど。
「っ、そんなことどうでもいいのよ」
咲人を探している状況でよく知らない同じ学校の生徒の名前なんて聞いている場合ではない。
「ど、どうでもいいって……」
ショックを受けたように彼は肩を落とす。
「それより純一君」
「純也だよ!」
「まあどっちでもいいけど」
「よくねえよ! 俺の大事な名前だわ!」
「あっそ、それでちょっと聞きたいのだけど」
「俺の発言はオールスルーかよ!」
雑談をしている余裕はないためすべて適当に受け流して本題に入る。
「あなた、可愛い子見かけなかった?」
今の咲人のことを表するのに最も適した言葉があるとすればこれだ。
女の私の目から見ても、咲人の容姿は可愛い。通りすがり様に一目見ただけでも、アイツの顔を見れば可愛い子という認識が見た人の脳内に植え付けられるはずだ。
答えがノーならそれまで、イエスなら特徴を深堀していく。いちいち咲人の特徴を説明する手間を省ける効率的な探し方だ。
「かわいい子? え、深山さんナンパでもしてんの? 女の子を?」
「そんなわけないでしょ、人を探しているのよ。それで、見たのか見てないのかどっちなの?」
知らないなら他の人に聞くだけ。早々に結論が欲しい私は回答を急かす。
「深山さんが探してる子かどうかはわかんないけど、可愛い子なら見たぞ」
「っ! どんな特徴の子だった!」
「えっと、髪は腰くらいまであって、目がパッチリしてて、なんか小動物って感じの子だった」
大体の特徴は一致している。多分咲人だ。
「何処で見かけたの! 時間は! どっちの方向向かってたの!」
「ちょ、お、落ち着けって」
「いいから全部吐け!!」
「は、はいぃッ!!」
鬼教官に一喝された新人のようにビシっと姿勢を正す純二くん。
こっちは切羽詰まっているんだ。グダグダ言うようなら張り倒してでも喋らせる!
「見かけたのは十分くらい前で、場所はここを真っ直ぐ行ったゲーセンの近く、今は喫茶店にいるはずです!」
「喫茶店? なんで場所がわかるのよ」
「えっと、実は俺の連れがその子と知り合い?ぽかったんだよね。それでなんか、話をしたいだとか言って向かいの喫茶店に入ってったんだよ」
知り合い? そんなのいるわけない。だって今の咲人を知っているのは私と咲人の家族だけだもの。
引き籠りで部屋から出てないから知り合いを作りようがないし、例えコッソリ外出していたとしても、今のアイツに知り合いを作れるだけのコミュニケーション能力があるとも思えない。
とにかく、行って確かめよう。
「なんか真泉、……あっ俺の連れのことな。そいつがやたら真剣な面持ちでその可愛い子と二人きりで話をさせて欲しいとか言ってな。せっかく失恋したっていう真泉に気を使って外に連れ出してやったのに、席を外せとかあんまりだと思わない? ——ってあれ? 深山さん? どこ行ったのぉ!?」




