言い訳失敗した結果。
「それで、テンパって自分の彼女とか嘘ついちゃったわけ?」
「……はい」
「…………バカなの?」
「面目のしだいもございません……」
理由は不明だが抜け殻みたいな状態で大男が帰って行った後、一時間が経過した頃ぐらいに戻って来たヒナタに事の経緯を話した。
「まあでも、いいんじゃない、別に。ここに来たのが誰かは知らないけど、咲人にとって見覚えもないような人なら今後また会うかどうかも怪しいくらいでしょ?」
「ま、まあ……」
「だったら別に誤解させたままでいいのよ」
「そ、そんなもんなのか?」
「そんなもんなのよ」
言われてみれば、この嘘を吐いたからって俺に実害があるわけではない。嘘を吐いた罪悪感はあるが、それは「家族」と言っていても同じことだ。
なら、どのみち変わらない。
影響しないなら、そのまま放置でもよいことだ。言われてみればヒナタの言う通りだ。
「まあどうしても気になるっていうなら、次にでも会った時に誤解だったって伝えなさい。会えるかどうか事態怪しいけどね」
「ああ、そうするよ」
名前も知らない大男さん。また会えたらちゃんと「カノジョ」じゃなくて「家族」だって伝えます。嘘だけど。
「——それよりも、ちゃんと投稿できたの?」
「あ、ああ、うん。しっかりアップロードした。……ほらっ」
パソコン画面を見せ、俺のチャンネルに二つ目の動画が上がっていることは確認している。
投稿してまだ一時間弱しか経ってないけど、既に1000回再生せれている。
「サムネもテキトーな場面を繰り抜いただけだし、企画も正直在り来たりなモノで、カット編集だって一度もしてない、……なのに短時間でこれだけ動画が伸びるとはね」
「やっぱり俺の美少女性がなせる業……かな?」
「言ってしまえば顔だけってことね」
「ぐはっ!?」
わかってはいるからこそ冗談で茶を濁していたというのに、コイツはこうもバッサリ言ってしまうんだよなぁ。
——ヒナタの言う通り、俺が今こうして視聴者の数を稼げているのは、間違いなくこの偶然手に入れられた美少女の顔のおかげだ。
逆に言えば、それ以外は何もない。
顔だけでただ視聴者の数を増やしているだけ。今の俺は顔だけミーチューバ―なのだ。そりゃあアンチも沸いてくるよね。
「でもまあ、顔だけでも視聴者の注目を得られているってのは大きいわね。大体のミーチューバ―なんて注目もされずに廃れていくのがほとんどだから、顔だけでもアドバンテージがあるのは大事よ。けど所詮は顔だけだからいずれは飽きられるでしょうね。顔だけよくても動画は面白くない顔だけ配信者になったら、ほとんどと同じように廃れていくだけだから」
「あの、傷つくんで顔だけって連呼するのやめてもらえます?」
自覚はあっても、他者にこうも念を押されるように言われると本気で落ち込む。
「事実なんだからしょうがないでしょ。——それよりも、どうすれば顔だけ配信者にならなくて済むかを考えなさい」
「はぁい」
まるで教鞭をとっているかのような手厳しさである。
「まずは編集方法から学びましょう。必須なのはカット編集ね。今は簡単な動画しか投稿してないからいいかもだけど、これからいろんな種類の動画を投稿するってなるならそうはいかないわ」
「なるほど」
「無駄な箇所はできるだけカット編集を加えて見やすくするのよ。視聴者だってダラダラ続いた動画なんて見たくないでしょうから」
「確かに」
「後はテロップの挿入だけど、これは多少加減すべきよね。まだ始めたばかりの動画編集や動画制作の時間を鑑みると、……まあ週三回のペースくらいでの投稿が理想くらいかしら」
「……」
「そこでテロップを毎発言ごとに入れるとなると労力は倍になるわよね。視聴者にできるだけ飽きずに動画を見てもらう最低ラインが週三回だから、これを下回るのはできるだけ避けたいのよ」
「……」
「だからテロップは重要なキーワードだけに厳選して出すとして、段々慣れてきたら数を増やして——って、ちょっと、さっきから返事ないけど、ちゃんと聞いてんの?」
「あ、ああ、聞いてる聞いてる」
怪訝そうな目で睨まれながらも、俺はしっかり聞いていたことを伝える。
事実ちゃんと聞いていた。むしろ聞いていないどころか聞き入っていたから返事ができなかった。
「——なあ、ヒナタ」
だからこそ、疑問に思ったことがあった。
「どうかしたの? まだ話は終わってな——」
「なんでそんなに詳しいんだ?」
ミーチューブの事、動画投稿の事、編集方法の事。
まるで専門知識があるかのような喋りっぷりだ。
それによっぽど詳しく知っていないと、そんなにスラスラ言葉も出ないはずだ。
「……別に、こんくらい普通よ」
しかしヒナタは言葉を濁して答えようとしなかった。
……もしかして、……………もとからミーチューブのこと好きだったのか?
はは~ん、さては俺にミーチューブが大好きなことを知られるのが恥ずかしいんだな。まあ昔からヒナタは意地っ張りなところがあったし、オタクっぽい自分の一面を俺に隠したいという本音があるのだろう。
まあここはヒナタの自尊心を尊重して、その言葉に納得してやるとしよう。