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ナンパされたった。

「え、いや、あの」

「ホント、メシ行くだけでいいんで!」

「あ、え、えっと」

「変な事とか全然しないんで、ホントちょっとだけお願いッス!」


 カメラの前での独り言、両親とヒナタとの会話。これ以外での言葉を発する行為は、俺が大の苦手とするところだ。

 しかも、よりによって俺が最も苦手なタイプの人種2名が言い寄って来た。

 チャラくて軽薄、そしてナンパするような輩。

 一生無縁と思っていたこの手の人間に、まさか絡まれるとは思ってもいなかった。

例え絡まれるとしても、金銭目的のカツアゲくらいと考えていた。しかし、ナンパされるというのは予想できなかった。


 だが一番の問題は絡まれてしまったことではなく、俺にノーと言えるだけの勇気がないということ。

 今だってテンパって全く言葉が出てこない。

「ね? いいでしょ? 全然時間取らないからさ!」

 何とか食事に連れて行こうと必死なチャラ男ミーチューバ―に気圧される。

 断らねば引いてくれない様子だ。

 しかしこういう輩との食事は絶対嫌。あと絶対食事だけじゃ済まないだろ。


なら、断るしかない。

 なけなしの勇気を振り絞り、手に汗握りながら口を開く。

「と、と、友達と! き、来てるので、無理です!」

 テンパりながらも、しっかりと聞こえるようにハキハキと断る。だが——。

「じゃあ友達と一緒でいいからさぁ」

 チャラ男はしぶとかった。


 ま、まずい。まさかこれだけはっきり言っても諦めてくれないなんて……。

 振り絞った勇気はさっきの発言で底をついてしまった。

 二の手三の手の持ち合わせなど当然ない。

相手は諦めずこちらは断ることもできない。背水の陣まっただ中である。


 嫌な汗が全身に湧き出る。

 緊張と不安、何より恐怖が体を強張らせた。

 対人の免疫が薄れ貧弱な女の子の身体になった時、年上男二人に言い寄られるという恐怖を知った。

 肉食動物に睨まれた草食動物のような体感。

脳からの危険信号が震えや汗となって伝わってくる。

 どうする? どうしたらいい? 走って逃げるか? でも腕を掴まれて無理やり連れてかれたら……。

 嫌な妄想ばかりが脳内に流れる。

 恐怖でとにかく悲観的になってしまう。


 もう自分ではどうにもできない。

けど、周りが助けてくれる様子はない。

 困っている俺は見えていても、チャラそうな2人が怖くて誰も近づこうとせず、足早に去って行くだけ。

 自力も他力もダメ。現状はとにかく絶望的だ。

 ああ、やばい。もう……なんか……、泣きそ——。


「おい君たち。やめないか、その子が困っているだろう」


 涙ぐんだ瞳の先に一人の男性が写る。

「あ? 今ちょっと取り込んで——っ!」

 振り返ったチャラ男の目にもその男性が写り、そしてその見た目に驚愕する。


 190cmほどありそうな巨体で、おまけに筋肉質でがっしりとした体つき。綺麗に分けられた七三分けに、フレームの太い黒縁眼鏡から覗く眼光は見る者全てを威圧せんとする勢いだった。ターミ●ーターに委員長属性を付けたしたような、そんな見た目の男性だった。

しかし彼の姿、何処かで……。


「女性に無理やり言い寄るなど不誠実だ。しっかりと相手の気持ちを尊重してだな」

「わ、わかった! うん、オレたちが間違ってたよ。き、君も悪かったね! し、失礼しました!」

 す、すげえ、あのしつこいチャラ男を眼光だけで慄かせるなんて、まさにター●ネーターそのものだ。

「全く不埒な輩だ」

 去って行く彼らの姿を憤慨した様子で見るターミネ、じゃなくて男性。

 救世主のように現れ、ヒーローのように助けてくれた彼は、男の目から見てもカッコよく映った。

「君、大じょ——」


 ——そんな彼が俺の方を向いた瞬間、なんの脈絡もなくフリーズした。


 古いパソコンみたいに急に動かなくなった。

 俺の顔を目で捉えたまま、瞬き一つしようとしなかった。

 しかも顔を真っ赤にして。


 彼の身に起きたのがどんなことかはわからないが、ただ事ではなさそうだ。

 けど俺の精神状態もまたただ事ではなかったのだ。

 自分の顔がどうなっているかはわからないが、今にも涙が零れ落ちそうなのはわかる。恐怖からの安心感で、感情の起伏の激しさで涙腺が緩んでしまった。

情けない話、今にも泣きそうなのだ。


「ず、ずいまぜん!」

 変な箇所に濁音の入った謝罪を叫び、俺は走ってその場を逃げてしまった。

 人の前でなく恥を回避するため、俺は一目散に逃げたのだ。


                    ◆


「えっ!? 咲人!? こ、こんなとこでどうしたの!?」

 あそこのベンチから少し離れた曲がり角の隅で、俺は膝を抱えうずくまっていた。

 そこをミックで昼飯を買って戻って来たヒナタに鉢合わせた。

 零れそうな涙を周りに見えないように拭こうとし、あといろいろ安心して力が抜けた結果、このような姿勢になってしまったのだ。


「ま、まさかどっか身体の調子が——」

「大丈夫。何処も痛くないから」

 強いて言うなら心が痛いけど。

「じゃ、じゃあこんなとこで何してんのよ。そんなうずくまって」

「……それは」


 いい歳して言い寄られただけで泣いてしまう自分の情けなさとか、助けてくれた人にお礼一つ言えない自分の恩知らずさとか、そんなことに凹んでいた。

端的にまとめると——。


「自己嫌悪中」


「…………?」


 幼馴染に体を弄られ、チャラ男にナンパされ、助けてくれた人をガン無視して逃走。

 そんな一日となり、休憩がてらのこの課題は終了した。


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