デパート一行ってみた結果。
「ひ、酷いぃ……。もうお婿に行けない……」
デパートのベンチにて穢されてしまった乙女(俺)が一人。
「安心しなさい。もうとっくにいけないから」
「安心できないよ!」
散々弄ばれた挙句いろんな下着を試すこととなってしまい、その度にヒナタから体を弄られた。
「とりあえず安く下着を買えてよかったじゃない」
「代償がでかすぎるけどな」
何故かわからないが、店員さんが鼻血を垂らしながら商品を半額以下にまけてくれたため、買い物としては良いものとなった。
あともっと何故かわからないが、店を出たときやたら知らない男性客にジロジロ見られた。
「じゃあ次は服ね。どんなのがいい?」
「もう選ぶ気力もないからテキトーに買っといて」
「じゃあミニスカとかかなー」
「よぉし! 張り切ってショッピング行くぞぉ!」
より大惨事にならないよう、空元気で立ち上がる。
こちとら立て続けの地獄課題で心身共に悲鳴を上げているというのに、更なる鞭打ちでもはや瀕死寸前だ。
端的に言って休みたい。
「……まっ、その前に昼にしよっか」
俺の疲れ切った雰囲気を感じ取ってか、昼休憩を取ることを提案してくれた。
「今日は連れまわしちゃったし、私がなんか奢ってあげるわよ」
「え、マジ? じゃあ、ミック食いたい!」
「あんたホントファストフード好きよね。絶対太るわよ」
「大丈夫。俺太らない体質だから」
「それ今度言ったらぶっ飛ばすから」
「なにゆえ!?」
意図せず逆鱗に触れてしまう俺。
この時の俺は「太らない体質」というのが女子の中では禁句となっていることを、まだ知らない。
「休日でフードコート混んでるだろうし、ここで食べましょっか。私がお持ち帰りで買ってきてあげるわよ。何食べたい?」
「ダブルチ——」
「ダブルチーズバーガーとポテトLとドリンクLコーラでしょ。つまりいつものね」
「ハハ、流石幼馴染っ」
中学生の頃はよく一緒に行っていたミックでの俺のお決まりメニュー。
未だに覚えていたんだな。
「じゃっ、私買ってくるから」
「よろしくぅ~」
ミクドナルドに向かったヒナタに手を振り、再びベンチに腰掛ける。
……——よく考えれば、ヒナタと出かけるの久し振りだなぁ。
デパートの高い天井を眺めながら、ふとそんなことを思う。
昔、といっても俺が引き籠る前である半年前には、よく二人とかで出かけてたな。
ここのデパートだって、中学の頃からよく行っていた。
用もないのにフードコートに行ってはミックのハンバーガー買ってタベったり、ゲーセンに行ってユーフォ―キャッチャーで三千円近く溶かしたり、確かヒナタの母さんの誕生日プレゼントを一緒に買おうってなった日もここに来たはずだ。あの時買ったネックレス、ヒナタの母さんまだ持ってんのかな?
思い返せば、一番長く一緒に居た友人はやっぱりヒナタだ。
俺が引き籠りになっても、何気にほぼ毎日家に来てくれたわけだし。
——けど、ヒナタは俺と違って普通に学校行ってるんだよなー。
普通に学校行って、勉強もして、友達付き合いもして、青春を謳歌している。
片や俺は、体が変わって外に出るきっかけはできたが不登校のまま。
現在ちゃんと友達と呼べる奴もヒナタぐらいしかいない。
疎外感っていうか劣等感っていうか、時々ヒナタが遠くにいるように感じる時がある。
最も身近にいて、最も長くいて、最も気の置ける奴。
あいつにはたくさん友達がいるが、俺にはあいつだけ。
その差が、どうしても心の突っかかりになっている自分がいた。
もしあいつが俺よりも仲の良い友達を作って、そいつとばかりつるむようになったら、俺はどうなってしまうのだろうか。
柄にもなく、そうネガティブになってしまうことがある。
ヒナタの中で、俺は一体どういう位置づけにあるんだ——。
「あ、ねーねー君。ちょっといいかな?」
「へ?」
唐突に声を掛けられ思わず間抜けな声が出る。
声を掛けてきたのは2人組の男性。大学生くらいだろうか。
片方は茶髪にピアスと明らかにチャラチャラした見た目、もう片方も似たような風貌で気がかりなのがビデオカメラで撮影しているようだった。
テレビ局が持っているようなごついカメラではないし、なによりこんなチャラそうな見た目のテレビリポーターがいて堪るか。
となると、考えられるのは。
「オレらね、今ミーチューブで企画やってんすよ」
ミーチューブ。つまり、俺と同じミーチューバ―であった。
ってか、企画? それってもしかして……。
女の子の俺にミーチューバ―のチャラ男二人が企画と言って接近。
点と点が繋がり、それは線となる。
「それで今暇でしたらご飯とかどっすか?」
ナンパ企画だ。