スパルタ教育受けてみた。
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
協力者を得て内心ウッキウキだった俺だが、すぐさまどん底に叩き落されたのであった。
というのも、全てはヒナタの〝スパルタ教育〟にあった。
「やるなら全力でやれ」がモットーの男気溢れるヒナタさんによって、俺はミーチューバ―に必要な技術をひたすらに叩き込まれることとなった。
その始まりは、俺が初投稿の動画をヒナタに見せたことから始まる。
「…………ひどいわね」
一頻り動画を見終わった後、ヒナタがポツリと一言。実を言うと俺も思ってる。
「けどこの動画二万再生されてるんだよね」
「にまッ!? ……世の中わからないものね」
「それな」
美少女が動画に映っているというだけどフォトジェニックなのだろうか。けどそれなら炎上なんてしないだろうし……。難しいな、世の中というのは。
「まあとりあえず悪い所から治していきましょう。またこんな動画出したら世間に恥を晒し続けるだけよ」
「なかなかに辛辣な物言いだな、ヒナタさん」
「じゃあ辛辣なことを言われないように頑張りなさい」
「了解ッス」
——軽い気持ちでそう返答したことを、俺は今でも後悔している。
そこから俺は気づかされるのだ。
隣にいたのは頼もしい協力者でも、優しい幼馴染でもない。
地獄の閻魔だということに——。
「じゃあまず、……はい」
「なにこれ?」
翌日の早朝。学校前に俺の部屋に訪れたヒナタは、一つのノートを俺に手渡した。
受け取りパラパラ捲ると、一切の書き込みもない真っ新なノートだった。
「それはノートブックと言って文字を書いたりする紙をまとめたものよ」
「現代人の俺がノートに対する質問を求めているとお思いか?」
「冗談よ。咲人にはそこに書き込みをしてもらうから」
「書き込みって、何を? ……ま、まさか俺の大っ嫌いな勉強をさせるつもりじゃないだろうな……!」
「それがあんたの動画投稿に役立つっていうならやらせるけど、今回は違うわ」
ホッと胸を撫で下ろす。
しかし、それも束の間。
「あんたには一週間以内にそのノート全部を埋めてもらうから」
「………………はい?」
今のは、聞き違いだよね?
この裏と表を別換算して六十ページ以上はありそうなノートをたった一週間で埋めろっていうのか。
「書く内容はもちろん動画のことね。ミーチューブに限定はしないから、とにかく他の人の動画投稿を見て参考にすべき点や自分には不足していると思う点、全部書き出しなさい」
「え、えっと……」
「やっぱり何事も自分を見直して人から習うのが肝心よ。動画投稿の場合それについての講師がいるわけでもないし、その道で成功している人から技術を盗み取るのが最も効率的だと考えたの」
「い、いや、あの……」
「時間が有り余ってる咲人だったらもう少し多めに分量を用意してもよかったかもしれないけど、最初だしこれくらいでいいでしょ」
「そ、その……」
「じゃあ私は学校に行ってくるから、それまでに七ページくらいは埋めときなさいよ」
「そ、それは……」
「あっ、言っとくけど——」
ドスの利いた声でヒナタが念を押す。
「サボってたら承知しないから」
「……」
ヒナタは部屋を後にしてバタンと扉を閉じる。
部屋に一人、ポツンと残された俺。
俺の軽率な行動によって始まってしまった地獄、それが遂にベールを脱ぐのであった。