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朝起きたら美少女になったいた。


 どうしようもない引き籠り。


 天谷咲人あまやさきとという人間を表するなら、その一言で十分だ。


 高校一年生までは普通の学生として生活をしていた。友達がいて勉強も運動も並くらいにはできて、没個性の人間ではあったが真っ当な人生は遅れていた。

 しかし、二年生に進級したと同時にクラス替えが行われ、クラスメイトと馴染めなかったり、二年生の勉強について行けなくなったり、バリバリの運動系部活所属の生徒ばかりが在籍するクラスだったが故に運動能力はクラス内では並みから下の下に変わってしまった。

 そんな小さな悪い変化の積み重ねが、俺を部屋の奥へと追いやった。


 漫画やアニメみたいな劇的且つ悲劇的なきっかけがあるわけでもない。いじめられたわけでもフラれたわけでもない。

 徐々に徐々に俺の弱いメンタルが削られていき、とうとうメンタルブレイクしてしまっただけ。


 ——それが半年前のこと。

周りの同年代の奴らが進路について色々考えている最中、俺は飯食ってゲームして寝るの繰り返し。

穀潰しコースまっしぐら。

時間と親の金を浪費し続ける毎日。


俺はこのまま、腐り続けながら生きていくんだと思っていた。



けど、その生活はなんの前触れもなく、終着点を迎えた。




                 ◆


「…………んがッ」

こんにちは、の時間帯に目が覚める。

 ベッドから転がり落ちた時の衝撃での起床、というなんとも画期的な目覚ましシステムのおかげで気分はすこぶる最悪だ。

遮光カーテンのおかげで昼夜問わず俺の部屋は暗いまま。

 爛々と輝くモニターには、深夜アニメが意味もなく流れていた。


 今日も今日とて劣悪な環境での起床。

 相も変わらぬ一日の始まり。

 惰性と怠惰のいつもの日常。


 ——その中に、一片の違和感があった。


 だらしなく着崩したパジャマ。

 もう彼是10日以上は風呂に入ってない。

 そうなると服も着替えてもいない。

 男物のありふれたパジャマ。


 それが、——今日は何故かぶかぶかだった。


 引き籠りで食っちゃ寝生活をしていたが、体質的に太らず瘦せ型の体を能動的に維持できていたため、「突然脂肪がなくなって痩せた」ということはない。



……まさか、朝目覚めたら別人の体になっていた展開、——いや、もしかすると若返っていたパターンかッ……!



 …………いやいやないない。マジでない。

 そんなフィクション御用達みたいな展開あるわけないし。ただ服が捲れてぶかぶかになっているような気がしているだけだろう。

 まったく……、妄想も大概にしろよ俺。

 俺は確かに人生を悲観するレベルで酷い現状にある俺だが、そんな妄想で認識をこじらせるほど病んではいない。

 異世界転生を空想することはあれど、現実逃避したりはしない。

 俺はこの現状から目を背けないし、逃げたりもしない!

 つまり開き直ったヒキニートということだ!


 自分で思っていて恥ずかしくなってきたな……。

 自己嫌悪で我に帰ることができた俺。

 すると、色々考えるのが面倒になってきて体が二度寝を欲する。


 バカな妄想なんてやめて三大欲求の一つを満たすとしよう。

 斯様な空き時間も睡眠にあてがう。俺は引き籠りだが睡眠時間に気を遣う健康な引き籠りなのだ。お菓子だってポテ●とかじゃが●ことか野菜系のモノしか食べないし。

 

 というわけで再びベッドに舞い戻る。

 ——あっ、でもその前にログインボーナスだけもらっとくか。

 睡眠も大事だがスマホゲームも大事だ。

 ベッド付近に投げ捨てられたスマホを手に取り、画面を見る。



 …………あれ? 俺、いつの間に美少女の顔なんてロック画面にしたっけ?



 整った顔立ちだ。千年に一度の美少女とか、そういうコンテストで優勝してそうだな。

 目もパッチリしているし、ちょっと幼さは残るけどそれがまた可愛らしさを仄めかして良い。小さな唇がなんとも言えぬ男心をくすぐる。

 顔だけだからよくわからないが、多分スタイルとかもいいんだろうなぁ。

 女の子との免疫がない俺など一目見ただけで惚れてしまいそうだ。

 それぐらいの美少女だった。


 ……にしても、この画面おかしくないか?

 カラー、ではないし……。白黒、でもない……。

 なんか、暗い画面に輪郭や顔のパーツだけ映っているって感じで……。

 ——まあいっか。

 悪い癖のめんどくさがりが出てしまい、画像の不自然さに目を瞑った。


 しかしなぁ、本当に身に覚えのないなぁ……。

 昨日なんとなく変えたのか?

 代り映えのしない日々しか送っていないから、昨日の記憶さえ危うい。

 でもロック画面はお気に入りのアニメ画像しか設定しないから、三次元美少女の顔になんて変更は——……ん?


 ——そこで、違和感に気づいた。



 ————電源を付けていない。



 寝ぼけ眼だったため視界も若干霞んでいるし、頭もまともな思考ができるほど冴えていなかった。

 そのため、十秒間くらいは画面とにらめっこしていた。

 今も眉間に皴を寄せて睨みつけている。


 すると、画面の美少女も眉間に皴を寄せていた。


「……ん?」

 不可解な事象に、思わず声が出る。

 最先端のスマホ技術、……とかではないよな?

 ってか、さっき何気なく出た声のトーンがいつもより高い気がしたんだが、……それは俺の気のせいか?


 …………い、いやいやいや! ま、まさかな! そんなまさかだよな、うん!

 だって、そんな痛々しい性癖拗らせ中学生の妄想みたいな展開あるわけない!

 きっと寝すぎたせいで頭がどうにかなっちまったんだよ。そうだ。そうに違いない。

 まったく……、いくらどうしようもない引き籠りだからって、そんな酷い妄想拗らせるなんてどうかしてるぜ……、やれやれ。

 ハァ、俺ってばホント痛々しいわぁー。引き籠り属性に妄想癖までプラスしたら終わりだよな、マジで。

 あー、寝よ寝よ。布団入ってあと半世紀は寝よーっと。


 ベッドの上で寝る姿勢を整えるため、布団にもぐったまま捲れた服を元に戻そうとする。

 すると、その拍子に——。




 ふにょ。




 今まで感じたことのない触感。

 それが俺の右手に触れた。


 柔らかく、しかし弾力のある触感。

 俺の貧困なボキャブラリーでは決して形容できない触感。

 ワンタッチで「至高である」と感じさせるほどの触感。

 すべてを包み込まんとする母の大地が如く触感。

 まるで、神秘に触れたような、そんな——。


「ッ!?!?」

 神秘の触感から我に返ってきた。

 そこで、ようやく異変が確たるものになった。

 流石におかしい。俺の体の隅から隅まで探しても、こんなスベスベモチモチで、そして至高の柔らかさを兼ね備えた部位など見つかりはしない。


 ベッドから跳ね起きる。

 漁船に吊り上げられた魚のように飛び跳ねた。

 そこで、すぐさま視線を下にやった。

 ベッドの上で立ち膝になる自分の体を、俯瞰して見た。



「…………気のせいじゃ……ない」



 服は、ぶかぶかになっていた。

 気のせいじゃなく、本当にサイズがあってない。


 それだけじゃない。

 縮んだとか若返ったとか、そういうレベルじゃない。

 年齢とか体格とか、そういう部分的な変化じゃないんだ。

 もっと、大きく変化している。


 根本から変わっているのだ。


 あるものがなくて、ないものがある。


 天地がひっくり返ったような豹変。


 だってこれ……、どう見たって……、







 女の体じゃん。









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