表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

エピローグ 幼馴染みにありがとう

「やっと最近静かになったね」


 スーパーで買い物を済ませた帰り道、妹が笑いながら言った。

 俺の両手は20キロの買い物袋で塞がっている。

 なんで二人は手ぶらなんだ?


「そうね、人の噂も75日って言うけど、今回は5日で済んでくれて良かった」


「俺は別に心配してなかったぞ」


 直ぐ飽きる、俺は分かっていた。


「よく言うわ、やり過ぎたかもしれないって私達に謝ったのは誰?」


「本当に、真理ちゃんから聞いたよ」


「まあ...結果良ければ全て良しだな」


 真理は翔子に何でも話している。

 翔子から真理にもだ、学校はもちろん家でも隠し事は出来ん。最強タッグだ。


 俺は山口を説得した。

 奴は千秋の家に行き、今までの自己本意な行動の謝罪し、千秋は来週の月曜日から高校に行く事を約束した。


 それは良いが、問題は説得の際生徒会室から俺の声が外に漏れた事だ。

 どこにでも噂好きが居る。

 裏も取らず憶測を広める迷惑な奴等が。


『岸井凌平は佐藤千秋にフラれた腹いせに、佐藤千秋を脅して、それを咎めた山口生徒会長までも恫喝した』


『岸井凌平は佐藤千秋に幼少期からつきまとっていた』


『岸井凌平はゴリラと人間のハーフである...』

 等の噂が校内に広がった。


 ふざけた話だ。

 恫喝なんかしていない、する理由もない。

 声がデカさから間違われたのかもしれんな。


 つきまとい疑惑は...大きくなってからは否定出来ん。

 千秋の気持ちを無視した行動だった。反省だ。


 最後はどう言う意味だ?

 俺は良いが妹もか?...許せん。


 意外にも山口は必死で噂を否定した。

 休み時間の度に各教室で事の真相を話て回った。


『あんなゴリラを庇うなんて、山口さん可哀想...』

 一部の女子からそんな声があったと聞いた。

 言った奴は片っ端から翔子の教育的指導を施されたらしい。


 山口は諦めず、学校に働きかけ全校集会を召集しようとしたが止めた。


 相変わらず山口の人気は凄い。

 否定すれば、する程逆効果だ。

 結局は真理と翔子が学校のグループラインを使って、ようやく下らない騒ぎが収まった。


「山口も少しくらい反省したのかな」


「凌平、これで反省しなきゃ本当のバカよ」


「まあバカなりに反省したんじゃない?」


 二人は山口に辛辣だ。

 少しウザいが悪い奴じゃ無いと思ったんだけど。


「でも、あの二人には上手く行って貰わないとね」


「全くだ、これ以上は面倒みきれん」


 奴に関わると碌な事にならん。

 懲り懲りだ。


「そうじゃないよ、戻られたりしないかって事」


「は?」


 よく分からん。

 戻るって、千秋が学校に戻ったらダメなのか?

 俺の苦労が徒労に終わるじゃないか。

 そう思ったけど二人の様子に余計な口を挟まない事にした。


「そんな事より今日の夕飯楽しみ!」


「ええ、バッチリ練習もしてきたから楽しみにしてて」


「やった!」


 今日は真理が家に泊まるので翔子は大喜び。

 と言っても、勉強するのが目的。

 何故か翔子も一緒だ、当然寝るのも真理は翔子の部屋...無念だ。

 アレやコレは大学に入るまでお預けと決めている。

 悲しくはない、でも虚しい。


「お兄い、そんなに落ち込まない」


「何を言うか、俺は真理と過ごせるだけで満足してるぞ」


 せっかく親父とお袋は旅行で居ないのに...何故翔子は一緒に行かないんだ。

 いや、翔子が誘ったから真理が泊まるんだ。

 ありがとう、妹よ。


「たっぷりスタミナ料理を作ってあげるから、楽しみにしてなよ」


「うむ」


 ちょっと言い方にモヤるが、確かに楽しみだ。

 しかし、余り精をつけたら寝られなくなる。

 発散したくとも、翔子の部屋は壁一枚だ。

 今夜は真理が居るので難しいだろう。

 更に真理の湯上がりなんか見た日には...生殺しだ。


「真理ちゃんって綺麗だし、勉強や料理も出来る完璧女子だね」


「ああ、加えて運動もな」


「もう、褒めすぎよ」


 照れているな?

 本当はスタイルもと言いたいが止めておこう。


「お兄い、真理ちゃんを紹介した妹に感謝してよ」


「そうだな」


 素直に感謝だ。

 翔子が真理を引き合わしてくれなかったら、俺はまだ千秋を引き摺っていただろう。

 フラれて落ち込んで、男としての自信を失っていたまま、間違いない。


「私も翔子に感謝よ」


「真理...」


「恋愛なんか興味無かった。

 告白された事はあったけど、全然好きになれなかったし」


 それって山口の事か?

 聞かないけど。


「だから翔子には感謝してる、凌平と出会わせて貰った事」


「や、止めてよ真理ちゃん」


 頭を下げる真理に翔子は真っ赤な顔で照れている。珍しい事もあるな。

 いつもなら『分かれば宜しい』とか言うのに。


「...あのままじゃ誰も幸せになれなかった」


 翔子がポツリと呟く。

 幸せになれないとはどういう意味だ?


「千秋は兄さんが恋愛対象じゃないのは知ってたの。

 千秋の理想は王子様で護衛兵士じゃない。

 でも兄さんは千秋しか見えてなかった」


「それは...」


 確かにそうだった。

 でも真理の前で言わなくても。


「確かにそうだっわね、最初の頃は千秋、千秋って。私の事は?そう思ったわ」


「...うぐ」


 そんな事今さら言うな、黒歴史レベルだ。


「でも、だからかな」


「何が?」


「こんなに人って一生懸命誰かを好きになれるんだ、恋愛って楽しいのかなって」


 真理の目は真っ直ぐ俺を見つめる。

 その視線に息が詰まった。


「変よね、普通なら彼女が居る人に恋愛感情を抱いたらダメなのに。

 凌平から千秋を紹介されたら逆に諦め切れなくなっちゃって」


「それは...」


 どう答えたら良いんだ。


「それが相性だよ」


「相性?」


「そうね翔子、相性よ」


 相性ってなんだ?

 二人はうんうんと頷いているけど。


「凌平と千秋を見て思ったの、

『これならいつか』って。

 だって二人の相性が良いとは思えなかったし」


「...そうだな」


 認めるよ。

 相性の合わない俺から千秋は逃げた。

 当然の選択だ。


「...ごめんなさい」


「え?」


「あれ?」


「どうして?」


 聞き覚えのある声は千秋だった。

 なんでここに居るんだ?


「ちゃんとお礼を言おうと思って...文章や電話は出来ないし。

 それで近くに来たら、三人の姿が見えたの」


「そうだったのか」


 ブロックは解除した。

 その事は真理も知っているが、連絡をしてないから千秋は知らないんだな。

 でもここに1人で来たのは内気な千秋にとって勇気がいっただろう。


「山口の事なら、礼なんか要らないぞ」


「私達外そうか?」


「いや、構わん。むしろ居てくれ」


 真理達にも聞いて欲しいんだ。


「ありがとう」


「ありがとう?」


 千秋は首を傾げた。

 ダメだ、独り善がりの短い言葉じゃ伝わらない。


「俺が先に進めたのは、お前のお陰だ」


「そんな、私は凌平の気持ちを知りながら...」


「いや、お前の行動は正しいよ。

 誰だって好きでも無い人間から言い寄られたら逃げるさ」


「そんな!私は凌平の事が嫌いで逃げたんじゃない!!」


 そんなに焦るなよ。

 いかんな、どうにも説明は苦手だ。


「千秋の気持ちは分かるよ」


 真理が千秋の前に立つ。

 その表情は穏やかで、小さな笑みまで浮かべていた。


「凌平の言った通りよ、誰だって断るのって言いにくいわ。

 嫌いじゃなく、ただ恋愛に結びつけない人と距離を取るのはね」


 まさか真理は山口の事を言っているのか?


「まあ、私の場合嫌いの範疇に入ったけど」


「あらら、やっぱり」


 おい翔子、心の声を口に出すな!


「だから千秋の決断は間違がってない。

 やり方はちょっと間違ったけどね」


「全くだよ」


 こら翔子また!


「もう凌平は護ってくれない。

 その覚悟をしっかり持ってね」


「...うん」


 千秋はゆっくり頷く。

 まだ不安なのか?


「仕方ないな」


「翔子?」


「お兄い、携帯貸して」


「分かった」


 携帯を手渡すと翔子は自分の携帯も取り出して何かを始めた。


「はい、これで私も解除したから」


「は?」


「千秋のブロックよ、あとお兄ぃのグループに私も入ったから」


「グループ?」


「うん、千秋とお兄いのグループ。

 何の会話したか、全部分かるからね」


「お、おお」


 千秋へ翔子なりの許しなんだろう。


「それじゃ私も」


「真理もか」


 真理は自分の携帯を取り出した。


「これで良し、ここに山口は入れないでね。

 あと呼び捨てを止めさせて、不愉快だから」


「...分かった、言っとく」


 そう言った千秋の顔は神妙だが、僅かな笑みが浮かんでいた。


「それじゃありがとう」


「ああ、またな」


 手を振りながら走り去る千秋に、これで良いのか分からないが、また一つ先に進む事が出来た気がしたのだった。


「またやるわね」


「ええ、人間って簡単に変わらないから」


 感傷に浸る俺の後ろから声が聞こえた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] メインキャストが自分の考え(感情?)に正直に行動してる姿が心地良いです。 陽葵さんがちょっと余計なコトしたみたいですが、ドロドログチャグチャな展開にならずに安心して読み進められました。 …
[一言] 千秋に都合がいい物語と世界だなと思う 便利な男として利用してきたけど恋愛対象外だからと振る→振られた奴が助けなきゃいけない状況に追い込まれて断る事もしない 振られた側から見た幼馴染という関係…
[良い点] 丸くおさまって良かった [気になる点] しかし本当に丸くおさまったのだろうか?w [一言] まあ確かにこの二人は噛み合ってなさそうですよね ある種のかまってちゃん(察してちゃん?)と俺様で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ