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本当の恋はこれからだ!

「楽しかったね」


 流れる汗を拭きながら、すっきりした笑顔の真理。

 今日は朝から高校近くにあるトレーニングジムに来ていた。

 正月休みですっかり身体が鈍ってしまった俺に真理が言ったのだ。


 『ちゃんと鍛えてないと贅肉に変わっちゃうよ』って。

 最近腹周りがたるんでいたのを知っていたのだ。

 俺の些細な体型の変化にまで気づく真理の優しさ。

 こんな事は初めてだ。

 千秋が居た時は絶対に無かった...


「でも良かったのか?せっかくの休日にジムなんて」


「いいの、私も体動かすのは好きだし」


「そうだな」


 真理はさすがインターハイ選手だけの事がある。

 ハードなメニューを事も無げにこなし、ジムの注目を集めていた。


 もっとも、トレーニングウェアに身を包んだその綺麗な姿にもだろうが。


 良い目の保養になった。


「じゃ、ご飯に行こ」


「だな、腹ペコだ」


 シャワーを済ませ、ジムを出た俺達は駅前にあるレストランに向かう。


 真理がクラブ仲間とよく行く店で、肉料理が特にお勧めと言っていた。

 妹からその店の話は聞いていたが、そんな事は言わない。


 俺は空気を読む男なのだ。

 1ヶ月も返事をしないままだけど...


「旨い!!」


「でしょ?ここのステーキ丼は美味しいんだから」


 なるほど、これは旨い。

 空腹でトレーニングした筋肉に栄養が行き渡るのを確かに感じる。

 真理も嬉しそうに同じ大盛りステーキ丼を頬張っていた。


「さあ、次はお茶にしましょ」


「うむ」


 俺達が次に向かうはお洒落な喫茶店。

 ここも初めての店だ。

 女の子っていろんな店を知ってるんだな、この辺りの店は一軒も行った事が無かった。


 そうだ...千秋は外食が苦手で、誘っても結局直ぐ帰っていたっけ。


「来週から三学期ね」


「そうだな、そして次はいよいよ三年、受験だ」


「楽しみだね」


「どうだか」


 この休み中、真理は俺の勉強に何度か付き合ってくれた。

 俺より勉強が出来ると知っていたが、本当に助かっていた。


「うん?」


「真理どうした?」


「な...なんでもない」


 真理の表情が曇り、下を見たまま俯く。

 振り返った俺の視線の先に、一組のカップルが目に入って来る。


 山口悟と佐藤千秋だった。


「やあ君達も来てたのか」


 俺達に気づいた山口が近づいて来た。

 私服姿も決まってやがるな。

 それより、久し振りに見た千秋の姿に何の感情も抱かない自分に驚いていた。


「ああ、山口もか?」


「良かったら一緒にどうだい?」


「...ちょっと悟」


 何を言ってるんだ?

 千秋が山口の腕を引っ張っているじゃないか。

 俺も嫌だし。


「止めとくよ、そっちもせっかくのデートだろ?

 幼馴染みの邪魔をするほど野暮じゃない」


「そうか...デリカシーが無かったね、すまない。

 真理も悪かったな」


「...ううん」


 山口は真理に一声掛けると店を出ていく。

 店を出る直前に千秋が振り返る。

 何か言いたそうだったが興味無い。それより、


「どうした?」


「凌平は気にならないの?」


「何が?」


「...山口が私を呼び捨てした事」


「それか」


 少し引っ掛かったが、そんなには気にならなかった。

 でも言わないでおこう。


「聞いてくれる?」


「真理が話したいなら」


「...実は私...一年の時に告白されたの」


「ほう...」


「返事は出来なかった、だって山口の事は何にも知らなかったし。

 そうしたら、返事は僕の事を分かってからで良いからって。

 だから私...」


「なんで山口は真理の事を?」


「去年のインターハイ予選で私を見て、それでらしいの」


「なるほど」


 1年生でいきなり大活躍だったからな。

 加えて、このルックスだ。

 家の高校に限らず、大注目の的だったろう。

 当時千秋がいたから俺は興味無かったけど。


 「何回か外で会ったの、絶対に分からない様に遠くの町で...」


 よほど知られたく無かったのか。

 実際俺は知らなかったし、そんな噂も聞いた事無かったから。


「ちゃんと最後は断ったんだよ!

 やっぱり違う、この人は合わないって。

 何も無かったの...」


 必死の表情で真理が叫ぶ。

 そんな事分かってるさ。

 真理はアイツ(千秋)と違って、好きな人が出来ても、黙って俺の告白を断ったりしない。


「信じるよ」


「...本当に?」


「当たり前だろ、真理は嘘を言ったりしない人だ。

 俺の好きな真理は...な?」


「...今なんて?」


 ありゃ、上手く伝わらなかったか。


「好きだ真理。

 こんな俺だけど、これからも宜しく頼む」


 これならどうだ。


「今の言葉....キャンセルは効かないよ?」


「当然だ、二度も言えるか」


 人生一回こっきりにしたい。


「ちゃんと私を見ててくれる?」


「愚問だ、もうお前しか見られない」


「...キザ」


「そう思うよ」


「どうして急に?」


「そうだな...劣等感が消えたから...かな」


 ちゃんと説明をしよう。

 真理に偽らざる気持ちを。


「劣等感?」


「そうだ、俺は山口に勝っている所は1つも無いって卑屈になっていた」

「そんな事...!」


 そんなに慌てるな、あと泣かないでくれ。


「まあ待て、真理が言っていた山口の話は本当だろう。俺もそう思う位だし」


「...うん、でも私は」


「千秋がいなくなってますます落ち込んだ。

 人間として山口には勝てない、千秋も行ってしまったのは当然の結果だと、でも違った」


「それって、もしかして...?」


 ようやく分かってくれたか。


「真理のお陰だ。

 さっきの言葉は嬉しかったぞ、真理は山口の事を知っていて、それで俺を選んでくれたんだから」


「ずっと、ずっと...凌平を見てきたんだから」


「ありがとな」


「気取らない所、周りを気遣える所、千秋に一途でだった事と...妹にシスコン気味は...少し妬けたけど」


 指折り数える真理。

 いつか見た光景と重なり、俺達は笑い合う。


「千秋は終わった事だな。妹は...ありゃ特別だ」


 千秋にもう何の感情も抱かない。

 ずっと一緒だった俺は盲目だった。

 思えば、ずっと一方通行、好意の押し売り、そりゃ離れるな。


「もう私だけの凌平になんだね」


「うむ」


「...嬉しい」


 涙を流す真理の笑顔が滲んで見えた。





「ただいま!我が愛しの妹よ」


 デートを終え、元気よくドアを開けると妹は玄関でスマホ片手に座っていた。

 狭くないのか?


「おかえり。お兄ぃ、今日はいつもに増して元気な帰宅だね」


「ああ。

 もう過去は振り向かない、新しい門出だ」


 晴れやかな笑みを妹に向けた。


「なにそれ、変な物でも食べたの?」


「つまりそういう事だ」


 決まったな。

 でも妹は訳が分からないだろう。


「え?まさか橋本先輩?」


「なんで分かる?」


「だって...橋本先輩は...兄ぃが好きで」


「知ってたのか...」


 そんなバカな。

 誰にも気づかれて無いって真理は言っていたが...


「橋本先輩なら許す!

 あんな奴より絶対お似合いだよ!!

 今日から私も真理ちゃんって呼ぼうっと!

 早速ライン、ラインっと!!」


 妹はスマホに向かい、目にも止まらぬ早さで何やら文章を作り上げる。


「誰に送るんだ?」


「クラブのみんなだよ、真理ちゃんを心配してたんだ!」


「まさか?」


「女の勘は鋭い物...いや、お兄ぃと真理ちゃんが分かり易過ぎるんだよ。

 はい送信っと」


 妹が笑顔で一斉に送信した、

 あれが拡散されたら...


「こりゃ学校に知れ渡るのも覚悟しないとな」


 そう覚悟を決めて迎えた三学期。

 案の定、噂は学校を駆け巡っていた。

 沢山の奴等に聞かれたが、慌てる事なく、事実だと認めた。


 一部の生徒から、似合わないだの、美女と筋肉だの言われたが、気にならなかった。

 それで良いのだ、俺達の恋は本当なのだから。


 そして2ヶ月後、新しい噂が流れて来た。


『山口悟と佐藤千秋が最近上手く行っていない』

 その噂に波乱の予感を感じた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 山口胡散臭いな。 [一言] 早く続きを読みたい
2022/04/24 16:31 退会済み
管理
[良い点] やったね真理ちゃん! [気になる点] 前の女が突撃してくるんかな? 間男が突撃してくるんかな? [一言] 蹴散らせ真理ちゃん! タマ獲ったれ真理ちゃん!
[気になる点] 見る奴が見れば関わらないほうがいい奴、というのはいる 悪意の有無は関係なしに イケメン君のそのパターンかな、何かもうその片鱗が見える
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