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37話 いるでしょ……彼女!!!

 

「とりあえず私はお手洗い行ってくるから、待っててよね!」


 最後に俺の頭をひとなでした安良岡さんはそう言うと、ビシッと宝山院くんに指差して、この場を後にしてしまった。

 残された宝山院くんはというと、唖然としていて、安良岡さんの後ろ姿を見ていた。


「み、みずさちゃん……」


「あ、あの、宝山院くん……ごめん」


 俺は謝った。

 さっきまで、ずっと安良岡さんに抱きしめられていたんだ。


「いいよ、いいよ。みずさちゃんの方から隠川くんを抱きしめてたんだし。…………まあ、よくはないけど」


「…………」


 ……怒ってらっしゃる。


 でも、当たり前だ。

 自分の彼女が、他の男に抱きついていたんだ。

 俺だったら、耐えられない……。宝山院くんと安良岡さんは、いつもこうだ。


「でも、僕が悪かったんだ。虫が飛んできたのを、みずさちゃんでガードしたんだ……。彼氏ならこう言う時、守らないといけないのに、よりにもよって僕はみずさちゃんを虫除けに使ったんだ。最低さ……」


「宝山院くん……」


 遠くを見ながら、後悔するように言う宝山院くん。


 その顔がなんだか様になっているように見えた。

 虫が嫌いというのも、なんだかイケメンにぴったりだと思った。


「隠川くんはどうだい? 虫は嫌いかい?」


「俺は大丈夫かな……。この一年で、慣れっこだし」


 物置に引きこもっていたこの一年で、俺は虫と何度も格闘していた。

 物置は隙間があるから、しょっちゅう虫が入ってくるのだ。


「やっぱり君はすごいよ……。僕なんかとは大違いだ」


 宝山院くんが「完敗だよ」と言って、爽やかな笑みを向けてくれた。


「とりあえず、僕はみずさちゃんのところに行ってくるね。やっぱりちゃんと謝らないと」


 そう言って、宝山院くんはファサッと前髪を揺らすと、教室を後にしていた。



 そして。

 俺のそばでジーッとした視線を感じた。


「は、春風さん……?」


 春風さんだ。


「……隠川くん、さっき安良岡さんの胸に顔を埋めて、喜んでた」


「そ、それは……」


 春風さんが、不服そうに俺の顔を見ていた。


「彼女がいるのに……だめなんじゃないの?」


「彼女……?」


「いるでしょ……。隠川くん、彼女!!」


 ぐいっと身を寄せた春風さんが、目に涙を溜めながら問いただすように言った。


「い、いや、彼女、いないいない」


「いるもん!」


「い、いないよ!?」


「いるもん! ほら、あの転校生の子……」


 春風さんが、絞り出すように言った。


 転校生の子……というのは、多分、詩織のことだろう。


「私、見たの……。土曜日、隠川くんと転校生の子が一緒にデパートに行ってたのを……。隠川くん、転校生のこと、仲良いんだよね……?」


 その春風さんの声は、消え入りそうな声だった。


 そして、お互いに向かい合うと、春風さんが聞いてきた。


「付き合ってるんでしょ……?」


「俺と詩織はーー」


「あっ、ご、ごめん! やっぱり言わないで!」


「……ぐぇぇっ」


 春風さんが慌てて俺の口を手で塞いでいた。


 今の春風さんはパニクっているようだ。春風さんは、先週からよくパニくる。


「……ごめんね。私、変なことばっかり言ってる……。わがままで、最低だ……。でも、知りたくなかったよぉ……」


 もごもごと口を動かす春風さん。そのときにチャイムの鐘がなり、最後の方はチャイムの音に遮られてしまった。


 と、ここで、ガタンという音がドアのところから聞こえた気がした。


「も、もおくんが女の子とイチャイチャしてる……」


「あ、詩織……」


「ぎゃ!?」


 詩織だ。


 現れたその詩織を見て、春風さんがバランスを崩してコケそうになっていた。

 それでも、近くにあった机に手をついて、なんとか体制を整えると、焦ったようにバッグを手に取り、教室から出て行ってしまった。


「ごごご、ごめんなさい!」


「「あっ」」


 その後、春風さんなき後の教室に俺と詩織は残されることになり、翌日から、春風さんは俺たちの顔を見るとギョッとして、さらに挙動不審になるのだった。



続きが気になる。


そう思われた方は、ぜひ、評価とブックマークをしていただけると嬉しいです。

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