2話 優しさが怖くなった。
そして、それからのことーー。
よっぽど印象的なフラれ方をしたからだろう。
昼休みが終わった後も、みんなは俺に同情するような視線を向けていた。
授業の担当の先生も何かを感じ取ったのだろう。妙に俺に優しかった。先生だけじゃなく、みんな、俺に優しかった。
そして、春風さんは次の休み時間に声をかけようとしてくれていたけど、俺と目が合うと途端に真っ赤になってしまい、俺もなんだか彼女と顔を合わせずらくなってしまった……。
あと、俺を振ったことになっている栗本さんは気を使うような表情をしていて、その日の放課後のうちに俺に喋りかけてくれた。暖かいホットレモンを差し入れしてくれた。「ご、ご迷惑でなければ……」とかなり気を使った様子で、その顔は申し訳なさそうな顔だった。
「…………」
……誰が悪かったわけじゃない。
強いていうなら、春風さーーいや、違う……。
春風さんは悪くはない。
……そもそも。
誰も悪いことをしていないのだ。
俺が好きだと勘違いされている栗本さんに振られて、みんなが同情してくれただけのことなのだから。
誤解が誤解を生んでしまった。
そして振られた俺に対して、みんなが優しくなっただけのことだった。
誤解というのなら、俺だって誤解をしていた。
だから、誰も責めることはできない。
そして、翌日も、翌日も。
そのまた翌日も、その次の週も。
俺の謎の失恋の出来事は、クラスのみんなの思い出に根深く刻まれることになったようで、みんなは俺に優しかった。そのことがきっかけで、今まで友達がいなかった俺にたくさんできて、俺はクラスメイト全員と友達になれた。
……なのに。
しばらく続いた日の朝。
学校に向かっていると、俺はなんだか学校にいけなくなってしまった。
通学路の途中で、足が動かなくなり、立ち止まってしまって、学校に行くのが怖くなってしまった。
動悸が激しい。心臓が、変な風に鼓動している。
目の前がクラクラして、悪寒が全身を駆け巡る。
……あの教室中の同情の視線。
……気を遣う態度。
それが申し訳なくて、なんだか、学校に行けなかった……。
俺がいると、みんな優しいし、俺が教室に入るとそれぞれの会話をやめて、みんなが俺に「おはよう」と言ってくれる。……嬉しいけど、申し訳ない。
俺がいなかったら、みんなはそんな気を使う必要はないのだから……。
そう思うと、怖くなった。学校に行けなくなった。行かない方がいいと思ってしまった。
「……優しさが怖い……」
近くの電柱に手をついて、お腹を押さえて下を向く俺。
……なんで、こんなに怖いんだろう……。
こんなことで怖がるなんて、情けないと思われるかもしれない。俺自身でさえそう思っている。メンタルがもやしだ。
だけど、それでも怖くて足が動かなかった。
その日、俺は学校を休んだ。
次の日も、次の日も、学校を休んだ。
それが、一年前の出来事。
それが今も続いていて、現在俺は家に引きこもっていた。
次回から本編になります。