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日常 1
「ありおりはべりぃ、いまそかりぃ。ありおりはべりぃ、いまそかりぃ。」
いそばあの声が響き渡る。
いそばあとは、古典の磯部先生だ。
この年代にしてはグチグチしてない、さっぱりしたばあちゃんだ。
ラ行変格活用とは、こう覚えるらしい。
呪文にしか思えない…。
受験生だからか、1・2年の頃よりはみんな授業をそこそこまともに受けている。
高3でも授業中に寝ちゃうのね…。
苦笑いを堪えながら、美和は板書をノートに書き写す。
窓側最前列の一ノ瀬の様子は、美和の席からよく見える。
目立つ席だ。
遅刻も欠席もよくわかる。
居眠りしているのもよくわかる。
先生達は一ノ瀬の態度には慣れっこなのか、特に触れない。