7/142
始まり 6
「恋かぁ…。」
声に出してしまって思わず口を押さえる。
JRで帰る香織と別れ、地下鉄のホームで電車を待つ。
派手ではない。
それなりに悪くない見た目だと思っている。
ぱっと見清純派と言われている。
別にスレてる自覚は無いんだけど。
美和に対し好意を伝えようとしてくる男子はいない訳ではない。
ただ、好みでない。
良い人なんだけど。
でも、その人とキスとかその先とか無理。
手を繋ぐことすら多分無理。
そんな風にしか思えないのに付き合うだなんて、相手に対しても失礼だと思うのだ。
「矢崎さん?」
低音の声に振り向く。
長身の茶髪くん…えーと、一ノ瀬くん…よね…?
「今帰り?」
「うん。友達と…ご飯食べてて」
ラーメン食べてた、だなんて言わない方が良いのは何となくわかる。
「矢崎さんもK塾だったんだ」
「うん…ウチの高校、K塾の人は少数派みたいね」
「俺もあんまりS高の人は見ないなあ。」
ウチのクラスの派手グループの男子。
まさか声を掛けられるとは思わなかった。
無難な会話をしていると、駅のホームに電車が滑り込んできた。