風薫る 7
型の通りに動いて。
無の後。
的中の瞬間。
これだけは好きだった。
こんなに無になることは、きっともう無いだろう。
弓道自体は好きだった。
控室には出場校の部員の荷物が所狭しと置かれている。
片付けをしようと自分の荷物に近づいた。
私の鞄…?
全く同じ鞄が2つある。
同じデザインの鞄を買った人がたまたま近くに置いたのだろう。
ただ、全く同じでは迂闊に荷物を開けられない。
困っていると、もう1つの鞄の持ち主であろう他校の子が近づいてきた。
栗色の髪。恐らく地毛だろう。
すらっとした姿に袴がよく似合う。
「あ…」
彼女は察したらしい。
「たぶんこっちが私…かもです。こっち開けてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
彼女が開けた鞄は彼女のものであるようだった。
「みずきー!もう準備行くよー!」
「うん、今行く」
みずきと呼ばれた鞄の主はすぐに立ち上がった。
「じゃあ…」
「どうも…」
まだ唖然としたままの美和は彼女が去った方をぼんやり見ていた。
「へぇ、矢崎さん、他校の子とは仲良くできるのねぇ…」
メンヘラとその取り巻きが絡んできた。
さっさと荷物整理をして、この場を離れよう。
最後ぐらい、気持ち良く終わりたい。