便利な魔法
無骨な石の塔は窓がない、明り取りの隙間がちょっとあるだけ、ぶっちゃけ息苦しいしずっとここに棲むとしたら発狂しかねない。
「状況最悪だわ、蒸し暑いし空気淀んでる気がする」そう意識したら急激に呼吸が苦しく感じた。たぶん気のせいだとは思う。密閉というわけではない。
だがしかし、暑い。わたしは暑さにとても弱いよ、風通し最悪だもの……。恐らく夏暑くて冬寒いって環境よね。よく生きてこれたわ。
恐らく蘇った記憶のせいで、我儘な部分が出てきたんだと……。
どんだけ耐え忍んできたのかしら?……小さい私よ偉いぞ。
ノートを使ってあおぐも、空気が生温くて意味がない。
氷抱いて昼寝したい、この国の聖女って氷魔法つかえるのかな?
「氷でろー」
それっぽく手を翳して呟く、……まるで中二病ね。あほか。
ゴトン!
「痛った!なによ天井でも落ちた?……え、なにこれ」
太腿に直撃したそれはガチガチに凍った氷塊、真っ白に表面が結露している。
「ひゃーーー!涼しい~♪首筋が天国ぅでも足元が暑い」
それからボコボコと氷が落ちてきて、終いには大岩ほど落ちてきて潰れかけた。
ちょま、便利な能力だけど命やばくない?
「んー鍛錬とか必要なのかしら……ゲームもスキルアップだか精度だか必要だったかも」
あんまりゲームやらないからわからん……。
王道RPGの魔法とか鮮明に覚えてはいない、それでもうんうん思い出そうと頑張った。
……やっぱダメでした。
うん、わかってたそれでもゲームの齧り程度の知識はぼんやり思い出す。
浮かんだのはスキルとか魔法の種類程度、だがこの世界で使えるかはまったくわからん。
とりあえず物欲と想像に任せ色々検証してみることにした。
白、水、緑、土、風魔法が使えるのを知り、とりあえず手足の枷を土魔法で壊した。とはいえ器用にはいかなくて外す時にあちこち怪我をした。弾けるイメージが良くなかったみたい、礫が飛んで手足を傷つけた。
あわてて半泣きで治癒をかける、覚えておいて良かったと思う。
ジャリジャリの床が不快なので緑魔法でマット、尻が痛いからラグ、眠くなれば柔らかベッドというように。
「へいへい!出来ちゃったよ、快適ワンルーム!土魔法で窓を作って風と氷でエアコン完備に風呂!」
前世住んでたあの部屋そっくりになってしまったけれど贅沢は言わない。
天蓋ベッドもつければ王様よりいい部屋かもね。
いろいろやらかしたけど、魔力切れやらはいまだ来ないので聖女の魔力量は底なしかもしれない。
じぶんの能力値を知りようがないので色々やっては失敗する。
まず氷魔法が得意なのがわかる、水も当然。だがそれだけだったできれば火が使えたらもっと便利だったろう。鍛錬頑張る!
「属性バラバラの魔法が使えるって聖女って精霊の愛し子?よくわかんないな」
小さな林檎の木を生やし実を捥いで食べながら考える。じぶんで愛しいとか痛い発想だ恥ずかしい。
精霊なんて見えてないもの、うんあり得ない。火が使えないのは火の精霊に好かれてないからとか、そんな……。
「はずい……」
そうそう、やらされてた結界張りを止めることにしたから後に現れるであろう神官たち、それに対抗できる程度にはこの塔を要塞化してやろうと思うの。
ふふふ、楽しくなってきた!
「ん?そういえば国絡みの幽閉、いいや誘拐なのかしら?」