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魔狩人のユート 下

「来ますよ!魔導機の使用を許可します!必ず生き残りなさい!」


「はい!」


「うす!」


 走り向かって来る魔狩人の少年、ユートを前に教師たるグラードゥスが、レンとリッドに、魔導機の使用を許可した。これに応え返事をした2人は、それぞれ腰元のサイドパックより、レンが緑色、リッドが赤色の液体に満たされた硝子筒を取り出すや、レンは柄尻の穴に、リッドは手甲をスライドさせ覗かせた窪みに差し込み、捻った。


 筒に満たされた溶液が、一気に吸い上げられ空気の音を鳴らし、レンの握りしめた剣の刀身が緑色に、リッドの手甲が赤色の光に包まれた。



 勇者だからとて、魔物を討伐できるわけでは無い。


 強大強力な魔物に対峙するには、兵器が不可欠であった。幾数百年の血統による選別の最中、魔物を討つ為に開発された、勇者のみが扱える対魔の兵器。


 それが『魔導機』である。


 人間の執念と狂気、ドワーフの鍛治と細工技術、エルフの魔法知識が産み出したそれは、失われた『魔法』を発動する為の装置であり、魔物を殺す為の武器である。


 勇者が産まれ落ちた際の、母体との臍の緒から流れる胎盤血を魔術加工して作成した『胎盤血晶』をコアとして、それをベースに組み上げた兵器である。形状こそ様々であり、血統や自分の好みから組み上げる事もできる。


 そして、魔導機にはそれぞれ窪みがあり、そこに『エーテル剤』と言う、マナを溶液加工した薬品を補給する事により、魔導機を作動させる事ができる!


「オラいくぞぉお!」


 ユートが右腕を振りかぶる、それを見て反応したのはリッドだった。恐怖心を押し殺し、赤熱する手甲を腰だめに構えてグラードゥスの前に飛び出て、魔狩人と対峙する!


「らぁああ!」


 アッパーカット気味に放つ、リッドの手甲型魔導機に包まれた右拳と、ユートの振り下ろす右裸拳。


 拳同士がぶつかった瞬間、金属音が鳴ると、リッドの右腕が跳ね返され、勢いのままに身体が切り揉みに回転した。


「ぁあぁあああ!?」


 魔導機にて強化された拳が、意にも介さず押し負けて跳ね返された!しかもその力が残ったままに腕に振り回され、身体が宙を舞ったのである。さながら早馬車に跳ねられたかの如く宙を舞うリッドに、グラードゥスもレンも戦慄した。


「何だ?撫でたつもりかよ?」


「何というーーッッ!?」


 勇者の強化された一撃を、撫でたと嘲笑う魔狩人のユートに、グラードゥスが身体を震わせた。そして標的とばかりに目が向くと、ユートは両手を広げて飛び込んできた。


「マジックシールド!」


 グラードゥスが間髪入れず、魔導機に搭載された護身の魔法を展開した。球体状の障壁がグラードゥスを包み込むや、それに対してユートが糸切り歯を見せて笑った。


「ハストゥルスパーダ!」


 魔狩人な少年が何やら叫べば、その両腕から黄色に輝く、鋭く細身の鋭利な刃が具現化したのだ。そしてその刃を袈裟に振り下ろせば、マジックシールドの障壁が、切り裂かれたのである!


「こ、れは!?ハストゥルだと!?」


 グラードゥスが叫んだ名前に驚愕していても、攻撃は止まない。左に右に、黄色の刃がマジックシールドを切り裂くが、修復が追いつき何とか防ぎきっている。


「UAAASYAAAaaaAAAAA!!」


 そして、一度背中を見せながらまるで獣の咆哮の如く声を上げた魔狩人の少年が、更なる密度の斬撃を放ち続け、グラードゥスのマジックシールドを遂に破ったのである。


「素っ首落としてやらぁあ!!」


「グラードゥス先生!」


 黄色の刃が教官の首を刈り取る刹那、レンの魔導機の刃がそれを阻んだ。刀身から火花が散り、眩い光にユートは、少しばかり怯んだ。


「うぉあぁああ!!」


「うっ!?」


 そのままレンは思い切りに身体をぶつければ、ユートは後方に身体を転がして、そのまま受け身を取り、レン達から離れる形になった。


「なんて力だ、肩やら肘やら、外れかけたぞ!?」


 宙を舞ったリッドがレンの真横に陣取り、グラードゥスをレンと守る形に立つ。


「リッド、全力じゃないと死ぬぞ!魔導技を!」


「よっしゃあ!」


 レンがそう言うや、魔導機たる剣の柄を捻り、リッドは手甲のスライドを引いて戻した。刀身の輝きが、手甲の輝きが、強く、熱を帯び、レンはそれを唐竹に振り抜き、リッドは正拳を宙に放つ!


「風撃一刃!!」


「豪炎撃!!」


 魔導機が呼び覚ますは、風の刃と炎の弾丸!それが魔狩人の少年ユートに容赦なく放たれ、襲いかかる!


 しかし2人は見た、群青だった瞳が、黄色く輝くやユートが天に指を指すと、巨大なる風の、円状の刃が音を上げて現れたのだ!


「ハストゥル……バズソォォオオ!!」


 そして、それが振り抜かれるや、風の刃が、炎の弾丸が、霧散しながら地面をまさしく丸鋸の様に削り上げて土煙をあげたのだった。


 土煙の中から、無傷の魔狩人が低い姿勢で構えを取り、こちらを見ていた。


「魔導技が、こんな簡単にあしらわれるなんて」


「しかもあの魔狩人、魔導機無しで本当に魔法を放ちやがった!?」


 勇者見習いからしても、驚愕の連続だった。魔物に匹敵する馬鹿力、教官の魔法を打ち砕き、魔導技をあしらう魔法、それを魔導機無しで扱うと言う事実。


 外法に生きる者達の、常識はずれの力を前に2人は冷や汗を垂らすのだった。


「全く退屈だ、これが勇者なら呆れて笑う、もういい……飽いた、だからーー」


 ーー死ね。


 それは呪詛の如く三人の耳に響き渡った。失われた魔法には、相手を呪い殺すなんて魔法があったと聞く、三人はそれぞれが、一斉に、明確な死の映像が浮かび上がったのである。


 血と臓腑を撒き散らし、誰の肉片かも部分かも分からない程に散乱した肉体が、血の海を広げる様を見てしまった。


 レンの、リッドの足がすくんだ、膝が震え出した。


「ぐぶ、げぇぇええ!!」


 レンは、思わず込み上げてきた内容物を止めれず、膝を突いて吐き散らしたのである。


 そんな事など知らぬと、魔狩人は狂った笑みを見せて、一歩、また一歩と近づいた所。


「そこまでだ、魔狩人の少年」


 その首に、剣が突きつけられ、静止を言い渡された。



 勇者見習い達は、この訓練校にて鍛え、学び、そして魔物討伐の任の為王国軍に属する事になる。こうしてやっと、名目上、立場上初めて『勇者』とは呼ばれる事になるのだ。


 しかし……それで終わりでは無い、勇者として魔物を討ち果たす剣となり、民草を守る盾としての責務を果たして初めて、彼らは勇者たりえるのだ。


 そして、様々な功績を挙げた真なる勇者には『冠名』を国王より贈られる。そんな強大なる勇者は、民草や他の勇者達より『冠持ち』として羨望と賞賛を贈られ呼ばれている。


「何だ、あぁ?あれ?こっちが本物なのか、これは強そうな、眩しい勇者だ」


 魔狩人の少年ユートは、物怖じも無しに振り返り、その現れた人物を見て、言われるがままに静止した。


「話は聞いている、できればその爪を下げてはくれまいか、これより我々勇者と魔狩人、来たる災害に協力の為、君達に接触したのだ」


 銀の鎧を身に纏い、後ろにも同じ銀鎧の者達を追従させ、いつの間にか彼らは立っていた。足がすくんだリッドは思わずその立ち姿を見て目を見開く。


「竜爪のバルドー……冠持ち様が出っ張って来たのか!?」


 レン達の目の前に現れたのは、その冠持ちの勇者であった。竜爪のバルドー、そう呼ばれた勇者を前に、魔狩人のユートは振り返りながら、突きつけられた剣の刀身を、ギリリと握りしめた。


「んぅ?」


「おっ、おっ」


 どうやら、剣を下げさせようとしているらしい、魔狩人の手のひらに剣の刃は無論食い込んでいる、そしてレンとリッドは目の当たりにした。手のひらから流れ出す血液、それが、黒い色をしている。まるで魔物を構成する不定の液体の色そのものであった。


 そして、先程レン達を追い詰めたユートの、人外の膂力に、竜爪のバルドーは互角に対抗していたのである。


「……まずさぁ、剣納めなよ、話するならよ?それとも何か、魔狩人は人じゃ無いから話す気無いか?」


「それもそうだ、では納めさせていただこう」


 剣を下げろと言う、魔狩人の命令。普通の勇者や見習いならば、戦闘続行を意味するだろう、獣からの言葉に、バルドーはニッコリ笑って剣を下げた。


 レンも、リッドも、教官たるグラードゥスも驚愕の連続に追いつかない。殺意を霧散させた魔狩人、その獣たる魔狩人の話を聞く、冠持ちの勇者、それと対等に渡り合う彼の膂力。


「で、協力云々だっけ?僕、何も聞かされずに檻にぶち込まれてさ、連れて来られたんだけど?」


 手の傷から流れる血を、着こなした深緑のジャケットにて拭きながら、魔狩人の少年は自分が先程までどうなっていたかを、冠持ちの勇者に話すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔導機の設定いいですね。何の代償も無しに超常現象を引き起こすよりこういった物資の消耗があるのは戦闘を縛って戦術の意味が強くなるから大好きです。
[一言] 風だからハストゥル(ハスター)なんですね。 バルドーさんが特に偏見が無い人なのか、ある程度実力のある勇者は魔狩人を認めているのか……多分前者ですね(失言) 前話でレンが軽くユートの首を切…
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