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実習任務

『聖剣』


 それは、シェイン含めた全ての国家が有する『対魔物殲滅魔導兵器』


 強大なる砲身の魔法大砲であり、全てを薙ぎ払う、人類の『最終兵器』であった。


 それは、数百年と言う魔物と戦いにおける幾度と起こった『大災害』を終わらせてきた、前線にて戦う者達すらも飲み込む。最終兵器の名に相応しい、有象無象を消し炭にするその威力は、救済の光であると同時に……。


「今でも思い出すよ、目が焼けそうな光だった」


「ぼくもだ、たった一発で、その時代の前線に居た勇者が、骨も残らなかった」


 無慈悲なる、殺戮の光であった。


『聖剣』はそもそも、人類が作り出した産物ではない。数百年続く魔物との戦い『以前』にあった兵器であった。それが各国に配備され、砲身は全て同じ方角に固定されている。


 即ち古代の兵器である。しかして、その機構は単純明快、マナを込めて放つだけの代物。しかしてその『威力』は、今のこの時代を生きる者達の有する技術、魔法では到達できないのだ。単純な機構、されど複製不可能というオーパーツである。


 そして、勇者と魔物との大規模戦闘『大災害』の、今日に至るまで終わり方は……この聖剣の発射による魔物と勇者の双方消滅で幕を下ろしている。これを引き分けと見る者は、勇者達には居ない。結局、劣勢になったが為に聖剣を作動させ、生還者は皆無の繰り返し。


 人類は、勇者は、今日まで魔物との戦いに敗北しているのだ。


 ガラス越しに飾られているそれは、いわゆる模型、レプリカ。シェインの『聖剣』その名は『エクスキャリバ』と呼称されている。これと同じ物が、ロマルナ共和国、アルヴェイシャ帝国とあと二つ配備されているわけだ。


「今、また大災害の兆しが来ているらしい……その時はこれを作動させずに、絶対僕たちで魔物を、魔獣を追い返すんだ」


 小さな聖剣のレプリカを前に、レンは決意を孕んだ言葉を呟く。それに対してユートは。


「できたらいいな」


 他人事とばかりに淡々と宣った。


「お前もそうするんだよユート、今は魔狩人で、勇者だろう?」


「へぇ、扱ってくれるんだ、勇者として」


 他人事の様に言うなとレンの言葉にユートは犬歯を見せて笑う。レンは溜息を吐いてから、もうこれ以上は何も言うかと気怠げに伝えた。


「この見学内容、レポート纏めて提出な?勇者の必須課題だから、サボるなよ?」


「サボらないよ、僕こう見えて約束は守るから」


 こうして、2人は勇者研究工場を後にするのだった。



 魔狩人のユートが編入し、レンが二年次生の第一クラス男子筆頭生徒になり、しばらくが経った。魔狩人のユートはあれから、普通に勇者見習いとして勉学に励み、クラスの勇者見習い達はユートに負けたトラウマからまず触れようとはしない。


 その為、互いに触れないともなれば蟠りや争いも起きない、つまりは平凡な勇者見習いとして学ぶ生活が普通に続いていた。


 しかし、第三班という纏りで、ユートと行動を共にしなければならないレン、リッド、メルディからすれば毎日が心労となる。何か問題を起こしたら自分達に降りかかってくるのだから。


 そんな第三班、いや二年次生達は、一つの試練を迎える事になる。



「これより、実習任務を行う!」


 勇者訓練学校大聖堂、この学校の二年次生たる第一クラス、第二クラス全員漏れなく集められた。実習任務、その言葉を教官より聞いた勇者見習いの少年少女達の顔は、緊張、焦燥、恐怖、それらを煮詰めた様な顔を皆浮かべている。


「実習任務?」


 ユートだけ、首を傾げていた。


「ああそっか、知らないわな」


 近場に陣取っていた同班のリッドは、こいつは知らないからこんな顔できるんだと溜息を吐きそうになった。


「実習任務は、いわば勇者として擬似的に活動する実習なんだ……勇者の仕事、魔物討伐に、哨戒とね」


 補足にレンが説明する事になる。


 シェインの勇者達は、王国領内の様々な場所に配置され、魔物の発生を探知し、討伐するのが仕事である。訓練学校を卒業した生徒達は技能や実力により配備され、日夜魔物を討伐し、発生を防ぐのだ。


 一年次生では、この王都周辺にて教官の下、危険度が低い魔物を討伐してきた彼らは、いよいよ勇者としての本来の仕事に踏み入る事になる。


 それが、実習任務だ。


「つまり職場見学?でも……皆顔色が悪いや」


「死ぬからな、何人も」


「リッド、ユートにその辺理解できないよ、多分」


 職場見学という易い言葉を持ち出したユートに、リッドは自嘲気味に吐き散らすも、こいつに理解はできないとレンは釘を刺した。


 実習任務、勇者と同じ仕事に従事する。即ち魔物、魔獣との戦闘も起こりうるのだ。しかも、教官付き添いによる小型の魔物討伐とは訳が違う。自分達だけで任務に従事し、対応するという事は即ち、死と隣合わせを意味した。


 現に毎年ここで、命を落とす勇者見習いも居るのだ。やれ可哀想だとか、酷いとか思われるかもしれないが、ここで死ぬ輩はその程度で、どの道いつか死ぬと思われて仕方がないのである。


「これよりクラスで決められた班ごとに集まり、勤務地を言い渡す、班に分かれ!」


 教官の号令により、クラスは班に分かれて集まった。無論、女子側列のメルディもレンを見つけて近寄ってくる。そして彼女もまた例に漏れず、怪訝な顔を見せた。


「いよいよですねレン様、リッド、足を引っ張らないでよ」


「努力する……生きて帰ろう」


「ああ、必ずーー」


 勇者見習い三人が、班として集まり決意する中で。


「ピリピリし過ぎだよ、気楽にしなよ三人とも」


 ユートだけは笑みを浮かべたままだった。これに対しーー。


「あんたねぇ!?」


「やめろメルディ!」


「うお!?」


 メルディは携えた杖型魔導機の先で、ユートの喉を突きに掛かった。それをリッドが制し止めたものの、ユートは思わず仰け反った。一度は肉体を焼かれた相手、やはりその怨嗟やら怒りもあるだろうが。


「野の獣に分からないわよね!私たち勇者の事なんか!」


「やめろメルディ、やめろ、また燃やされるぞ」


 メルディは許せなかったのである、勇者の厳しき生存への道を、これから本当に何人も死ぬかもしれないと、何知らぬ顔で気楽にしろなどと宣う魔狩人に、メルディは怒ったのだ。


「ユート、メルディに謝れ」


 レンも、これはユートに対して命じた。擁護できない、無神経過ぎると。レンも勇者であるからこそ、メルディと同じ気持ちだった。だから謝れと、ユートに強く言った。


 それに対してユートは……。


「そうか、無神経だったな……申し訳ない事をした」


「え?」


 謝ったのだ、普通に。深々と、頭を下げて謝ったのである。メルディからすれば、この後それこそ『弱いから死ぬから仕方ないだろう』とか『俺に負けた雌が強気に言うなぁ?』とか、その辺りを嘲笑いながら吐き散らすかと。現に戦った後そうされた。


「ごめんなさい」


「あ、えぁ」


 頭を下げるユートに、メルディはどうしていいのか分からず、湧き上がった怒りすらも霧散した。梯子を外された気分に、メルディは歯軋りをしてそっぽを向いた。


「な、何なのよ全く……訳わからない」


 まるで、嬲られた方がマシだったと言わんばかりにユートから背を向けぶつぶつと文句を呟くメルディにユートは首を傾げた。


「謝ったのだが、レン?」


「まぁ、うん……仕方ない」


「仕方ないか、そうか」


 謝ったのに反応がよろしくないとレンに尋ねたユート、どうも言えない仕方ない事なのだと言うレンに、ユートはならそうかと納得したのか、鼻息を吐き胸を張った。こいつ、本当に悪いと思っているのか?態度だけ見せただけかとすら思える切り替えの早さに、レンは顔を顰める。


「第一クラス三班、来なさい」


 そうしている間に、教官勢の1人がレン達第三班を呼んだ。レンが率先して教官に向かって歩き出し、メルディとリッドが続き、ユートが一番後ろに続いた。


 教官が第三班が集まったのを確認、そしてやはりユートに一度奇異な、侮蔑も混じった目を向けたが、咳払い一つをして、羊皮紙を開いた。


「第一クラス三班、配属先はここだ、明日出発し、昼までに現地勤務の担当と合流し、職務にあたる様に」


 開かれた羊皮紙をレンが受け取り、そして目を通した。


 しばらくして……レンの顔が青く染まり始めた。


「おい、レン……どうした?まさか、最前線引いたか?」


「バカじゃないの?最前線に私たち見習いが送られる訳ないじゃない……ロマルナ国境とかですか?」


 レンの反応に、リッドとメルディが、配属先がまずい場所と分かってしまった。リッドの最前線かと言う意見に、見習いを配属わけないと否定し、メルディのロマルナ国境という、予想が飛び交う。言わずもがな、どちらも様々な事から、死地として名高い配属先だった。


 しかし……レンは、青ざめた顔のまま、皆に振り返り羊皮紙を開いて見せて、言った。


「な、南部の……ラーナ租界周辺」


 ピシリ、と2人して凍りついてヒビが入った。


「あ、あ、あの、教官殿……ら、ら、ラーナ租界周辺って……見習いの配属先……なんですか?」


 思わずメルディが震え声で教官に尋ねた、何かの間違いではありませんかと。


「昨年から新たに拠点が置かれたのだ、尚これは厳正な抽選の結果だ、交代は受け入れられん」


 教官も、心無しか目線をレン達に向けようとしなかった。許してくれと言いたげに。


「ら、ラーナ租界って……あのラーナの民の!?魔狩人の治外法権区!?僕らそこで実習するの!?」


 リッドの叫びに、他のクラスメイト達がざわついた。


 ラーナ租界、それはシェイン王国内にある『もう一つの国』であり、しシェインの民草、ひいては見習いを含めた勇者達にとっても、口にする事も憚れる単語であった。


「ラーナかぁ……今年もサクラ綺麗に咲いてるかな」


 そして、魔狩人であるユートは、配属先を聞いて目を輝かせながら、思い馳せた様に呟くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正 されで複製不可能というオーパーツである。 正 それで複製不可能というオーパーツである。 くじに細工でもされたかな?キョウスイとはもうユートは知り合いなのかな?ユートの悪…
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