エピローグ 第3班、結成。
レンが第一クラスの新たな筆頭、それにて意義無しと皆が推薦した。魔狩人よりもマシと言うのが大半であろう、しかしここである縮図ができてしまったのだ。
『獣の手綱を握れるのはレンとリッドのみ』
厄介払いされてしまったのである。当人のレンも、筆頭かつユートの目付け役という二つの業務を背負う羽目になったのだ。リッドも手綱を手渡された事になる。
それを踏まえた上で……グラードゥスは皆に説明した。
二年次から卒業し、勇者として配属されるまでは、班を作り国家の任務をこなす事になると。
そもそも、これまでレン達は一年次の間にも、教官の付き添いの元、下級、危険度の低い魔物討伐を行わされていた。ユートと出会ったのは、その際にアクシデントにて、強力な魔物に出くわした時である。
だが、二年次からは教官の付き添いは無くなり、国家より低危険度の討伐任務を与えられ、いよいよ勇者としての第一歩を踏む事となるのだ。
この際班員に関しては、担当教師が個々の能力、適正から判断して割り振る事になっている。
「正直予想してたわ、的中しやがった畜生!あぁあああ!!神様!!僕は何か!悪いことをしましたかぁあああ!?」
発表された班員達は、親交を深める為本日は休暇として話をするなり今後の事を取り決める事になる。リッドは他のクラスメイト達が出て行った、第一クラス教室にて叫んだ。
「今回ばかりは賛同よリッド……もう、いやぁ、筆頭じゃなくなるし清掃奉仕一週間……レン様が筆頭になるのはいいですけど……」
メルディも肩を落として俯いて、リッドに賛同した。その二人を見て……レンはなんと声を掛ければいいのかと考えながら、横で行儀悪く机に足を乗せて口笛を吹くユートを見た。
二学年第一クラス、3班メンバーとして充てがわれたのは以上4名。
まず、今しがた男子筆頭に就任した、レン・ガーランド。成績実技、ともにそれなり。されど魔物討伐数はクラス内トップの訓練生。
次いでその友人、リッド・モンディルス。体力面では学年トップだが、それ以外は首を傾げる劣等生。少し臆病な気があるが、いざ前に出れば腹が座る男。
元女子筆頭、メルディ・ナルシムーネ。本来2年下の訓練生だが、四大元素の魔法を扱える素養と、その実力により、飛び級で進学し筆頭生徒を勝ち取ったが、此度の件で剥奪された。
そしてーー転入生の『魔狩人』ユート。この二日間で第一クラスと、校内を恐怖に陥れた、冠名持ち勇者と並び立つ実力を持つ少年。
行動、言動を一つでも間違えれば、命は無い不安定で破滅的な性格。さっきまで笑い合っていたのに、思い切り殺しにかかってくる様な。王国が来る『大災害』に備える戦力として、学園に招致された少年である。
そんな四人が、一つの班として纏められたのである。『第三班』それが、レン達の班番号であった。
「と、とりあえず、皆……頑張ろう、うん、頑張ろう」
うなだれるメルディ、頭を押さえるリッドが、強い溜息を吐いて、レンもまた頭を抱える。
そして原因であるユートが、足を下ろして伸びをしただけでメルディが、びくん!と跳ねて硬直した。それをユートが見てしまって、昨日の事もあるがそれでも待て待てと、過剰な反応をしたメルディに声を掛ける。
「いや、何もしないから……もうケリ、ついたでしょ?」
「獣の言葉など信じられますか……」
他のクラスメイト以上に、深い傷を負わされたのだ、この反応は最もだった。辛辣な返答に肩をすくめ、リッドを見るユートだがすぐに視線を外され、レンに視線を向けた。
「仕方ないさ、ユート……君が悪い」
レンは臆さず、今までやって来た事があるから仕方ないと、首を横に振った。そうかとユートは笑みを見せて頷いてから、メルディの方に向いて口を開いた。
「そう、まぁいいや、じゃあ明日からよろしくね、メルディさん」
態々、さん付けで彼女を呼び、鞄を抱えてユートは三人を残し退出した。そうしてから、しばらくしてメルディは立ち上がり、トボトボと歩き出す。
レンは、その背中に声を掛ける事ができなかった。この二日間で、屈辱を受け尊厳を破壊され、否応にも実力差を見せつけられてしまった才女。そしてそれを支える地位も剥奪され、元凶となった少年と同じ班員としてこれから活動せねばならないのだ。
正直……居た堪れない。
レンはグラードゥスの班の割り振りが、こうなった理由を聞きたいくらいだった。自分やリッドはまぁいい、しかしメルディはいかがなものかと。これが、ユートが来る話が来ていて、それを踏まえて組み方を既に決めていたのか?昨日今日の話と事件から急遽組み替えたのか?
前者なら仕方無しだが、後者であるならば、メルディは他の班に移すべきだと進言した方がいいなと、レンは溜息を吐く。
「リッド、明日……町の薬屋で胃薬買いに行ってくるよ」
「俺も金渡すから買って来てくれない?あと頭痛薬も」
レンとリッド、二人の心配は、これから始まったばかりであった。