最終電車
12月のとある週末。
私は最終電車を待つ人の中にいた。
さすが忘年会シーズン、普段よりも人が多い。
「今夜は乗れるかな」
なんて呟いてみても、誰の耳にも届かない。
今夜は本当に、人が多い。
ぼんやりと周囲を眺めていると、後方から不愉快な怒号が聞こえてきた。
ガラの悪い男が2人組の女性に絡んでいる。
「俺が誘ってんだから黙ってついてくりゃいいんだよ!すましてんじゃねぇぞ、こら!!」
離れていても顔をしかめるほどの大声に、自然と3人を囲む空間が広くなっていく。
「聞いてんのかよ、オイ!!」
なおも絡み続ける男を迷惑そうに見つめ、2人の女性はそそくさとその場を離れた。
「チッ、クソが!
お前らも見てんじゃねぇぞ!!」
女性たちの後ろ姿に唾を吐き掛け、周囲の人々にも牙を剥いていく。
全く、酒というものはこうも人を醜くするのか。
いや、こういう輩は飲まなくてもこんなもんだろう。
そんな騒がしさを落ち着かせるように、最終電車が滑り込んでくる。
「よし、乗るか」
私もサッと席を立つ。
正直、全く好みではないが、あんな輩を憔悴させていくものまた面白い。
たまには最期まで乗ってみるのもいいだろう。
フラフラとした足取りで電車に乗り込む男の背中に、私はしっかりとおぶさった。